クリエイティビティが高すぎてすごいどころか恐怖なゲーム『The Plucky Squire ~ジョットと不思議なカラクリ絵本~』
『The Plucky Squire ~ジョットと不思議なカラクリ絵本~』を遊びました。
本作は、絵本のキャラクター「ジョット」が現実と絵本の世界を行き来することによって冒険するアドベンチャーゲームです。
元ゲームフリークのデザイナーであるJames Turner氏が共同ディレクターを担当しており、なかなかの話題作といえるでしょう。
ゲーム自体のクオリティも高いのですが、いろいろな意味で圧倒される一作でした。恐怖すら感じます。
◆絵本の中だけでなく外にも出られてしまうゲーム
本作のストーリーは、邪悪な「ハムグランプ」を倒すため、ヒーローのジョットが活躍するというものです。
悪役は絵本の外に出られる「メタマジック」を悪用してしまうため、ジョットも本の外に出て冒険することになります。
印刷の質感まで再現していると思われる絵本風のグラフィックも優れていますし、外の世界は3Dグラフィックで描かれており、机の上を冒険できてカードやマグカップの中に入ったりもできるわけです。
本を傾けたり、閉じたりしてゲームを進行させることもあれば、ボクシングやジェットパックなどのミニゲームも用意されています。
ゲームプレイは2Dの「ゼルダの伝説」に近いところがありますが、基本的にはこだわりのアートワークを見るような作品です。前述のミニゲームはスキップ可能ですし、オプションで好きなように難易度を下げることが可能なのも素晴らしいところ。
類似作品としては『RPGタイム!~ライトの伝説』が挙げられます。あちらはゲームクリエイター志望の小学生が作ったという設定ですが、『The Plucky Squire ~ジョットと不思議なカラクリ絵本~』はプロの技量を見せつけるような作品になっています。
非常に優れた品質のゲームなのですが、ひとつ気になるところがあります。それは「しょうもないワナビー」として描かれる悪役の存在です。
◆優れた創作者こそ尊敬に値する、と言わんばかりの世界
悪役のハムグランプは、詩を書いたものの評価されずうまくいかないワナビーでした。そこから破壊することに喜びを見出し、創作者たちを苦しめることになります。
また、世界設定として「おもしろくない絵本は存在を忘れられ、世界・キャラクターが消え去るだけでなく、読んだ人の未来も暗いものになりうる」といったものがあります。
そして本作には、草間彌生やアンディ・ウォーホルなど、著名な人物のパロディキャラクターも登場します。とにかく著名なクリエイターが前面に押し出されるわけです。
これはなかなか苦しい。「優れた創作者は称賛に値するが、そうでないものは悪である」と見えるからです。
もちろんそこまでは言っていませんし、ハムグランプは周囲のサポートを自ら断った結果として悪になっています。ただ、優れた創作者を褒め称える行為が結果としてそう見せる側面もあります。
特に気になったのが、仲間の魔法使いのエピソードについてです。彼女は昔大きな失敗をしたせいで、仲間たちからいじめられていました。しかもそれを、彼女は半ば受け入れています。
しかし冒険の旅を経て、魔法使いの少女は強い力を手に入れました。終盤にその力でいじめっ子たちを助け、すっかり尊敬されるわけです。
これはプロットとしてはものすごくふつうといえますが、一方で「優れた人物が正しく、劣る人物は間違っている」といった考えを強調するような話ともいえます。優れていようと劣っていようといじめはよくないですよね。
◆力を振りかざす怖さ
裾野が広いとガラクタのような作品がいっぱい出てきます。ゲームにおいてもそれは同じで、ニンテンドーeショップやSteamの現状を見てもらえば嫌でもわかるでしょう。
ただ、そのくらい土壌が豊かだからこそ、優れた作品も生まれてくると考えられます。何より、いまおもしろくないものを作っている人もいずれ優れたクリエイティビディを発揮するかもしれないわけです。
なので、本作が言いはしないもののうっすらと感じさせる「優れたクリエイターこそが正義」という感覚は受け入れがたいところです。
Steamやニンテンドーeショップのしょうもないゲームも作品であり、それを作っている人たちはクリエイターといえます。それはそれとして、つまらない作品はつまらない。これは別軸の話といえます。
そもそも、本作におけるハムグランプは物語を盛り上げるために必要な存在なわけです。つまりクリエイターである前に役割のためにいる存在なわけで、その役割(キャラクター)とクリエイターといった属性を結びつけるのもややこしい話ですし、そのメタ的なまなざしがうまく処理できていないように感じられます。
『The Plucky Squire ~ジョットと不思議なカラクリ絵本~』には素晴らしいクリエイティビディが詰め込まれているのですが、それゆえに怖い印象も受けるのでした。
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