まぎれもなく傑作でGOTYインディー部門も狙えそうなのに、なぜ日本では『九日ナインソール』がパッとしないのか
記事の要約
RedCandleGamesの『九日ナインソール』がめちゃおもしろい。
売れているだろうし人気もあるが、日本ではそこまで話題にならず。
とにかくツンデレなキャラとゲームシステムが最高。
しかし過去作とジャンルが違ううえ、タオパンクにも馴染みが薄いかも。
家庭用ゲーム機版が出たら日本でも話題になる可能性。
RedCandleGamesの『九日ナインソール』をプレイした。私自身の好みに合ったというのはもちろんなのだが、この作品は今年遊んだゲームのなかでも頭ひとつ抜けており驚いた。傑作と言っていいだろうし、GOTYインディー部門も狙えるだろう。
そして同時に、日本ではそこまで話題になっていない(ように見える)のにも驚いた。いや、人気がないわけではない。インディーゲームに興味がある人ならば絶対に知っているタイトルだし、各メディアは体験版の話やリリースについてニュースとして取り上げている。が、その後はいまいち話題にならず。ある著名なメディアはこの作品に触れてすらいなかった。
Metacriticのレビューの集まりもあまりよくなく、記事執筆時点で8件で、発売直後はスコアの集計すらされていない状態だった。とはいえ、Steamのユーザーレビューを見ると売上もけっこうありそうだし、繰り返すが人気がないわけではない。「日本でも知名度はあるものの、そこまで話題になっていない状態」なのだろう。
こんなにもおもしろいのに。では記事を書くしかあるまい。
◆主人公がツンデレ、というかネコ的種族なのでみんなツンデレなのかも
『九日ナインソール』は、道教とSFを組み合わせた「タオパンク」な世界設定が特徴の2Dアクションゲーム。『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』から大きな影響を受けており、とにかく死にまくるハードコアなゲームだ。
どんな作品か一言でいえば、「猫のようにものすごいツンデレなゲーム」である。ツンツンして尖りまくっているのに、時にデレてかわいい。猫のようなツンデレっぷりだ。
まず、キャラクターたちがツンデレである。本作の主人公は、「羿(げい)」と呼ばれる猫のような存在だ。より正確に言うと、彼らの種族が人型のネコである。
厳密にはネコではなく「太陽人」なのだが、もふもふでかわいい耳の生えた彼らはどう見てもネコである。彼らが人間を「猿人」と呼ぶのだから、ネコ呼びさせてもらってもいいだろう(という態度をとるとひっかかれそうだ)。
羿はひょんなことから猿人の軒軒(けんけん)と暮らすことになり、兄と慕われるような関係になった。しかし、この世界の猿人は奇妙な宗教を信奉しており、それによって軒軒は生贄に捧げられることになる。
軒軒もその運命から逃れることはできず、兄に先立ちあの世へ……。といった残酷な運命を羿は許せなかった。彼は隠していた力を発揮して軒軒を助け、猿人たちを支配する奇妙な地下施設へと殴り込みに行くことになる。
羿は厳しい兄のような態度をとっており、軒軒に対してもたびたび刺々しい態度を取る。しかし実際のところ弟が死にそうになると助けざるを得ず、おおツンデレツンデレ。
冒険の途中で羿はさまざまな人物と出会うのだが、誰に対してもツンデレな態度をとる。というか、そもそも太陽人がネコ的な気質を持っているのかもしれない。
主人公の相棒となる「夸伏(こほ)」も最初は軒軒に差別的な態度をとるのだが、そのうち優しい親戚のおじさんのようになっていく。タピオカミルクティーらしきものをお腹に抱えたふくよかなネコおじさん……。一部界隈で人気が出そうだ。
◆「ほとんどすべてをパリィして!」と言わんばかりのツンデレなゲームシステム
そして、ゲームシステムもツンデレである。『九日ナインソール』は前述のようにとにかく死にまくるゲームだが、同時に優しい側面もあるのだ。
基本は敵を攻撃して倒しつつ先に進むわけだが、最も重要なのがパリィで敵の攻撃を防ぐことである。雑魚もボスも攻撃をきちんと弾かなければ、あっさりとやられてしまうだろう。そして、この攻撃予兆が非常にわかりやすくなっている。
まず、「パリィすべきか避けるべきか」が色で明確に表示されるのですぐに判断できる。もちろん事前動作でも理解できるのだが、初見でも判別できるため理不尽さを感じにくい(実際にパリィできるかは話が別だが)。
また、パリィはジャストに決めなくともOKである。タイミングがズレた場合は「内傷」という仮ダメージになる。仮ダメージは時間経過などで回復するので、すべてジャストパリィでなくとも攻撃を防げるわけだ。
そして、ジャストパリィを成功させるとドラの音が鳴るのもポイントである。操作に対して適切なリアクションとなるだけでなく、正しいタイミングで押せたときは一定のリズムでドラが鳴るわけだ。つまり、正解のリズムああるため効果音で敵の攻撃のタイミングが掴みやすくなっている。
さらに、ボスは予習→応用といった行動パターンをとる。たとえば第一形態ではそれぞれの技を披露し、第二形態ではそれらを組み合わせた複雑なパターンを出すなど、しっかり練習させてくれるわけだ(必殺技や一部ボスは例外だが)。
このパリィを中心としたゲームシステムに慣れてくると、プレイヤーは無の世界に入り込める。聞こえてくるのはドラの音だけで、あとは敵の動きに合わせて淡々とパリィを決め続け、まるでゾーンに入ったかのような体験が得られる。集中が研ぎ澄まされた特別な瞬間を味わえるゲームシステムとなっているわけだ。
ちなみに、本作は操作感覚もよい。かなり磨き込まれているようで、「いまガードしたのに」と思うことはほとんどなかった。プレイヤー有利に仕上がっているのだろう。
しかし、『九日ナインソール』はツンデレだというのは忘れないでほしい。これまでデレの部分を紹介したが、同時に本作はツンツンなのである。
まず、ボスに勝つには8~9割はパリィ・回避できないとまず勝てない。「パリィの判定がゆるいうえに学習しやすい作りにしたから、ちゃんとやってくれるよね?」と言わんばかりの調整だ。
また、キャラクターの成長要素が用意されてはいるものの、それだけで劇的にボスが楽になることはない。あるいは『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』の「義手忍具」のような絡め手もわずかしかないので、基本的に真っ向勝負が必要となる(これも人を選ぶ原因になっていると思われる)。
救済といえる要素は「蒼弓」くらいのものだろう。弓は雑魚を蹴散らし、ボスをひるませる効果がある非常に頼りになる武器だ。が、ボス戦においては特定パターンを数回キャンセルさせる程度のものでしかなく、やはりたいていの攻撃を避けられる必要がある。
おまけに本作、赤い攻撃は本来であればパリィできない(回避しなければならない)はずなのに、ゲームを進めると貯めパリィで弾けるようになる。
ボタン長押しで貯める必要があるため、単にボタンを押すよりタイミングを掴むのが難しい。これは回避でごまかすこともできるが、貯めパリィを成功させればリターンも大きく、「チャンスなんだしパリィしちゃうよね?」と言わんばかりのツンっぷりなのだ。
ボス戦で数時間引っかかることも珍しくない。私は中盤のとあるボスで非常に苦戦し、午前中をまるまる潰しても勝てなかったことがあった。
あまりにも行き詰まってしまったので、ストレッチをしたあと軽く散歩をし、控えめな昼食をとり、エスプレッソを飲んだあと再挑戦してようやくクリアできた。もはやフィジカルの調整も重要で、連続でプレイし続けていたときには目が乾くほどだった。
このように、ゲームシステムもとにかくツンデレである。幸いなことに難易度を下げることができるストーリーモードがあるので、物語を楽しみたい人もプレイできるだろう。
◆そして本題となる「なぜ日本でそこまで話題にならないのか」
そのほかの要素もどこを見てもよくできている。サイバーパンクなグラフィックもしっかり描き込まれているし、2Dサイドビューならではの動きの単調さもうまくごまかしているのが見事だ。
キャラクターのアニメーションが丁寧なのは言うまでもなく、アメコミ風演出を入れることによって、サイドビューでは描きにくい細かい、もしくは激しい動きやキャラクターの表情までしっかりと表現できている。
気になる部分があるとすれば、タオパンクなストーリーおよび世界設定だろう。事前知識がなくとも話の大筋はわかるだろうが、道教や中国の古代神話についてある程度わかっていないと世界設定や思想がわかりづらいと思われる(そもそも主人公の羿という存在自体、中国神話からの引用である)。なお、筆者がプレイしたVerでは翻訳に問題があったものの、現在は修正されているようだ。
さて、最初の話に戻ろう。『九日ナインソール』がなぜ日本でパッとしないのかといえば、上記の世界設定が要因のひとつだと思われる。Steamレビューの分析を見ると、本作は英語圏のみならず、繁体字・簡体字・韓国語圏からの支持が厚く、その地域の人から好まれやすいということだろう。
もちろん、日本にも道教や中国古代神話からの影響はあるものの、やはり繁体字や簡体字の圏内とは状況が大きくことなるだろう。この世界設定がいまいち人気が爆発しない理由に思える。が、しかしRedCandleGamesの過去作を見てみると、道教や台湾の文化が絡んでくるうえ、それらはきちんと話題にはなっている。
台湾の白色テロを題材とした『返校 -Detention-』、ホラーとして評価されつつもとある落書きによって配信停止になった『還願 - Devotion -』もそうだが、これらはとにかく大きな話題になった。逆にいえば、政治的な要素がないと爆発しづらいのかもしれない。
プラットフォームがPC限定なのも気になるところである。『九日ナインソール』は任天堂とソニーのゲーム機に対応予定だが、まだその詳細は発表されていないようだ。
また、過去作がホラー要素を含むアドベンチャーだったのに、いきなりガチのアクションゲームになったのも要因と考えられる。やはりプレイヤー層がだいぶ異なるので、「RedCandleGamesの作品は好きだけど死にゲーは……」と見送っている人も少なくないかもしれない。前述のようにストーリーモードがあるので安心してほしい。
逆にいえば、家庭用ゲーム機版が出て、本作の世界設定が認知されるようになっていき、RedCandleGamesは立派なアクションゲームも作れると知れ渡っていくと、日本でもより評価されていくのかもしれない。『九日ナインソール』は過去作と比べると話題性に欠けるかもしれないが、それでもものすごいインディーゲームであるのは間違いない。
◆Q&A
記事が長くなったので、『九日ナインソール』の気になる部分をQ&A形式で紹介していこう。
Q:メトロイドヴァニアなの? ソウルライクなの?
A:ソウルライクを2Dアクションにするとメトロイドヴァニアに近くなるのだが、本作は両方の要素がある。
探索するとお金やアイテムが見つかるなどの部分はソウルライクらしいが、ゲームを進めるたびに二段ジャンプなどの移動要素が解禁されて行ける場所が増えるのはメトロイドヴァニアらしい。
基本は『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』のフォロワーで、メトロイドヴァニアぽい要素もある、と表現すべきだろう。
Q:ホラー要素ある?
A:RedCandleGamesらしいホラー演出はきちんと用意されている。グロテスクな描写もある。
Q:気になるところはあった?
A:ほとんどがおもしろかった本作だが、とってつけたようなステルス要素はやはりいらなかった。このゲームに限らないが勘弁してくれ。
Q:なんかアドバイスある?
A:ダウン状態から復帰できるスキルはすぐとったほうがよい。ハメ殺しされるので。
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