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ボツネタ御曝台【エピタフ】混沌こそがアタイラの墓碑銘なんで#039



元歌 MISIA「Everything」

You're eveything You're everything
あなたが想うより 強く


D.A.B.C.  D.A.B.C.
順番おかしいよ ずっと




今、アタイラは、暮居カズヤスの部屋の前にいます

……

やっぱ、人の部屋に無断で入るのって気がひけますよね~

「しょうがねぇだろ、サザンに原坊は欠かせないんだから」

それをいうなら、〈背に腹は代えられない〉でしょ

「〈ハラ〉は合ってるだろ」

〈ハラ〉しか合ってません

……

ということで、それじゃ、入りますか

すいませ~ん、お邪魔しま~す

……

薄暗い部屋の中に、白い物体がぼんやりと浮き上がるように鎮座していました





イサオの成長は止まっていました

イサオが普通の猫でないことが、確定してしまったのです

これは、本質的な問題がまだ解決していないということを意味しています

だから、イサオを救うためには、この問題を解決する必要があるということなのです

しかし、アタイラには肝心の情報が不足しています

ただでさえバカなアタイラなのに、それに加えて情報が不足しているのだから、そりゃあもう絶望的なのです

なので、アタイラは決心しました

とにかく情報を集めよう、どんな手を使ってでも……

K君は、肝心なことになると口をつぐんでしまいます

だから、暮居カズヤスの情報を引き出すのは、今のままで不可能に近いでしょう

K君は、暮居カズヤスのことを狂人だといいました

そうかもしれません

でも、そうじゃないかもしれないのです

K君が、噓をついているのかもしれない

あるいは、K君が暮居カズヤスによって洗脳されている可能性もあります

更にいうと、暮居とK君が結託してアタイラをだましている可能性すらあるのです

なので、アタイラは誰も信じないことにしました

あらゆる可能性を排除せず、基本的には誰一人として信用しない

そんな感じのスタンスで、アタイラは見えない敵に立ち向かうことになったのです





暗いからとりあえず電気つけましょうか?

「うわ!」

壁一面の本棚には、漫画の単行本がびっしりと詰まっていました

……

おお! 『北斗の拳』が全巻ありますよ!

「あっ! 『ドーベルマン刑事』もある!」

おお! 先輩見てください! こっちには『暴力大将』が!

暮居の野郎~、こんなところにお宝を隠しておきやがって~

よし、先輩! あとで『北斗の拳』対『暴力大将』のチーム対抗戦やりましょう!

「バカヤロー! そんなもん『北斗の拳』が勝つに決まってるだろーが!」

わかんないでしょ! そんなこと!

「はあ?! てめえ、北斗神拳1800年の歴史をなめてんのかー!?」

「このページを見てみろよ! この馬に乗ってるラオウのシルエット! こんなのに河内の不良少年たちが勝てるとでも思ってんのか!?」

北斗神拳だの、秘孔だの、そんな能書き、〈どおくまん〉には通用しませんよ~だ!

そんなものは、クエッ! クエッ! クエッ! で全て無力化できますよ~だ!

「きたねーぞ! 『嗚呼!!花の応援団』まで出してきやがって! 反則だろ!」

何でも有りなのが〈どおくまん〉の強さなんです~!

「チッキショー!」

……

……

って、こんなことしてる場合じゃないんです!

「だな」





アタイラは部屋の隅にあるモナドンを睨みつけました

あのモナドンが量子コンピューターなのか、あるいは、ただのパソコンなのかなんて、アタイラには関係ありません

なぜなら、アタイラにとって、訳がわからないという点では全く同じものなのですから

……

アタイラは、ゆっくりとモナドンに近づいて行きました

……

うわっ! 危ない! 先輩ストップ!

「うお! ビックリした~! な、なんだよ!」

と、とりあえず下がって!

……

ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……

「どうしたんだよ、いったい」

先輩、見ちゃダメです、特にボタンのところ

「ボタン?」

はい、アルファベットみたいな文字が書いてあるボタンですよ

「ああ、確かになんか書いてあんな」

だから、見ちゃダメっていってるでしょ!

「何をビビってんのか、サッパリわかんねーよ」

順番がめちゃくちゃなんです! アルファベットの順番が!

「どういうこと?」

先輩、クローネンバーグ監督の『裸のランチ』観たことあるでしょ?

「うん、あるある」

あの映画にゴキブリ型のタイプライターが出てきたでしょ? あれと一緒ですよ!

「何いってんのか、わかんねーよ」

わかんない人だなー、アルファベットの順番をめちゃくちゃにして、アタイラの頭をおかしくしようとしてるんですよ! モナドンが!

こんなものをまともに見ちゃったら、麻薬中毒者みたいになっちゃって、ウィリアム・バロウズみたいな文章しか書けなくなっちゃいますよ

「そうなのか? それはそれで素晴らしいような気もするけど……とりあえず、そうなのか?」

そういえば、暮居カズヤスもボタンを見ないで、ピアノを弾くように文字を打ち込んでたような気がします

奴もわかってたんですね、アルファベットの並びを見たら頭がおかしくなるって

「そうなのかな~」

先輩、本当に理解してます?

「わりい、正直、よくわかんねえ」

先輩って、そもそもアルファベットって知ってるんですか?

「馬鹿にすんじゃねーよ、アルファベットぐらい知ってるわ」

じゃあ、いってみてくださいよ、アルファベットを順番に

「え?」

ほら、やっぱ知らないじゃないですか~

「し、知ってるわ!」

はい、じゃあ、いってみてください順番に

「アルファベット?」

はい、アルファベット

「アルファベットといえば、お前、あれじゃねーか、まずは、えーっと、え、え、〈A〉じゃねーか」

先輩、わかりました、もうやめましょう

「なんでだよ」

だって、アルファベットいえっていわれて、「まずは〈A〉じゃねーか」で一旦区切っちゃうような人が、まともに最後までいえるわけないでしょ

「は? 馬鹿にすんじゃねーよ、ちゃんと最後までいえるわ!」

じゃあ、いってくださいよ、なんですか? 〈A〉の次は?

「え、〈A〉の次っていったら、お前、あれじゃねーか……」

はい

「〈A〉の次つったら、うーん、び、び、び、〈B〉じゃねーか」

おお、正解、次は?

「次? そ、そりゃーお前、〈A〉、〈B〉と来たら、当然次は……」

次は?

「ひ、ひ、ひ、し、し、し、す、す、す、し、し? し?」

先輩、口の形を色々ためしながら人の顔色をうかがうの止めてください

「ししし、し? しー! 〈C〉じゃねーか」

正解! できちゃった……

「当たり前だろ! アルファベットといえばABCじゃねーか! アタイをなめんじゃねーよ!」

じゃあ、先輩、ABCの次は?

「うっ! ABCの次?」

はい、ABCの次

「ひっかけ問題とかじゃねーよな? 「本当はありませんでした!」とかじゃねーよな?」

はい、ありますから安心してください

「ABCの次? ABCの次つったらあれだろう? ABC……ABC……」

そうですよ先輩、ABC、ABCって繰り返せば自然に出てきますよ、体に染み込んでいるはずなんだから

「う~ん、ABC、ABCだろ?」

そうそう、ABC、ABC

「ABC ABC ♪は~ん E気持~♪」

それは沖田浩之の『E気持』ですね

「ダメか?」

はい、〈♪は~ん〉はアルファベットじゃないんで

でも〈E〉が出ましたよ、あとは〈C〉と〈E〉の間にある奴を当てればイイだけです

「よし、ABC、ABC……ABC、ABC……」

そうそう、ABC、ABCときたら?

「ABC ABC ♪は、は、はっ、はっ、は~……」

ダメだな~、沖田浩之が体に染み付いてる

先輩、一旦落ちつきましょう

「そんなこといったってわかんねーよ」

じゃあ、なんでもイイからいってみましょう、とりあえず

「ABC、ABC……あっ、わかった! 〈N〉だろ!?」

なんで?

「〈涅槃で待つ〉の〈N〉!」

ブー! それは〈沖〉違いです

でも、進歩しましたよ! ちゃんとアルファベットがいえたんですから!

さあ、かなり近づいて来ましたから頑張って!

「う~ん、ABC、ABC……あっ、これだ! お、お、〈O〉!?」

なんで?

「〈おやじ、涅槃で待つ〉の〈O〉!」

……しつけーな、この女

はい、もうイイです、答えは〈D〉です

「なんだよ! 次いおうと思ってたのに~」

うわ~、ムカつくわ~、この女~

じゃあ、念のため、おさらいしときましょう

「おさらい?」

はい、〈A〉から〈E〉まで順番にいってみてください

「A、B、C、……は、はっ、はっ……」

ダメですよ〈♪は~ん〉は、アルファベットじゃないですからね

「は、はっ、はっ……い、いっ、いー、いー〈E〉……」

うーん、どうしても〈D〉がいえないですねー

だったらこうしましょう、〈D〉を先にいっちゃいましょう

一番最初に〈D〉をいっとけば、途中で抜けっちゃっても大丈夫ですから

「イイのか? そんなことして」

はい、とりあえずサッサと終わらせないと、これ読んでる人も、そろそろ飽きてきてると思うんで

D、A、B、C、ときたら次は〈E〉ですからね、先輩

「わかった、DABC DABC……は、は、はっ、はっ……」

先輩、我慢して! 〈♪は~ん〉はアルファベットじゃないですからね

「わかってるよ! うるせーな!」

「は、は、はっ、はっ、ふぁ、ふぁ、ふぁ~」

先輩、〈は〉が〈ふぁ〉になってきてますから、〈E〉よりも〈F〉に近づいちゃってますからー! 

もう一回、初めから!

「DABC DABC……」

はい、そこで〈E〉!!!

「い、い、い、は、は、は、い、い……」

頑張って!

「…………はっ、♪は~ん E気持ち~!!!」

もうやめてー! 先輩、お願いだからもうやめてー! 頭がおかしくなっちゃう! 頭がジャンキーになっちゃうから~!

アタイは、思わず先輩の口を手で押えていました

……

とりあえず、そんな感じで午前中は終わったのでした





昼飯を食ったあと、アタイラはまたモナドンに挑みました

……

先輩、どうしましょう? とりあえず、遠くから声をかけてみます?

「わかった」

「オイ! てめえ何見てんだ! コラー!」

そーだ、そーだ

「てめえ、北関東連合のアヤメさん知ってんのか~!?」

おっ、出た! 自分の交友関係をひけらかして相手をビビらせ、無駄な闘いを避ける高等戦術!

でも、こういう場合は、苗字をいった方が相手はビビるんじゃないっすか?

「オイ! てめえ、北関東連合の剛力さん知ってんのか~!?」

そーだ、そーだ、ランチパックみてえに、耳をそぎ落とすぞ! コノヤロー!

「あと、渋谷の狂犬・犬山イヌコさん、知ってんのか~!? コラー!」

あっ、学習してフルネームでいったけど、苗字か名前どちらか一方でも大丈夫な人の名前選んじゃった!

……

今思い出したんすけど、暮居カズヤスがいうには、モナドンは世界中とつながってるらしいですよ

「マジか!」

はい、アタイラみたいな隣町とか隣の県とかの原付で行ける距離レベルの交友関係なんかじゃなく、世界中と……

「やべーじゃん」

そうですよ、北九州のヤクザどころじゃなくて、南米の麻薬カルテルとか、リオデジャネイロの少年ギャングなんかともつながってるってことですよ

「メチャメチャやべーじゃん!」

あいつら、機関銃どころか、ロケットランチャーまで持ってますからね

「キャー、怖ーい♡」

先輩、ホントに怖がってます?

……

「ってことは、下手に出て、こっちから挨拶しねーとダメってことだな」

じゃあ、ひさしぶりにやりますか、自己紹介

「うん、致し方なかろう」

……

は~い、見た目はとっつきにくいけど~、話してみたら意外とイイ奴だねといわれがち~、味方につけたら鬼に金棒の~、『アタイラず』で~す♡、よろしくお願いしま~す、ペコリ

……

……

反応ないですけど、近くに行ってみますか?

アルファベットが見えづらくなるように、一旦照明を消しますね

じゃあ、行きますよ、先輩、アルファベットを直視しちゃダメですからね

「わ、わっかてるよ、いちいちうるせーな」

失礼しま~す、モナドンさ~ん

何にもしないから、ロックオンしないでくださ~い

……

とうとうアタイラは、モナドンの近くにやって来てしまいました

……

相変わらず反応ないですね

「どうする? 一回叩いてみるか?」

やめてください! 昭和のテレビじゃないんですから! さっきまで何を聞いてたんですかー!

優しくですよ、あくまで優しく

……

もしも~し、モナドンさ~ん、起きてますか~

あんたが男なのか女かなのか、わかんないけど、ピチピチの若い女が二人も来ていますよ~

……

う~ん、やっぱ、無反応ですね

「だな」

じゃあ、とりあえず、電源でも入れてみますか?

「おー、入れろ、入れろ」

どれが電源だろう、薄暗くてよくわかんないです

「電源といったら、一番デカくて丸い奴だろ、普通」

これかな~、とりあえず押してみますね

はい、ポチッとな!

うわわわわー、ブウォ~ンって鳴ったー!

「ビックリさせんじゃなーよ、お前!」

アタイじゃないですって、モナドンですって

……

「おい、チョット静かにしろ、なんかいってるぞ」

え? ホントに?

「小さな音でカリカリ、カリカリ鳴ってんな」

こ、この音ってって、もしかして……『呪怨』?

あっ、画面が明るくなってきた!

「うわわー、こりゃあ、『呪怨』の男の子の顔が出てくるんじゃねーか!? 目の周りがクマで真っ黒な男の子のー!」

いやー、怖い怖い怖い怖い~!

……

先輩、もう大丈夫ですよ、いつまで床で丸まっているんですか

『呪怨』じゃなくて、横棒が出てきました

「本当に大丈夫か? 棒の隙間から『呪怨』がこっち見てねーか?

大丈夫です、大丈夫ですけど、横棒の端こっで四角いのが点滅しています

「あっ、これ見たことあるぞ『エイリアン』で! 自爆装置だよ! この点滅は自爆装置のカウントダウンだよ! 絶対!」

うわー! 押しちゃったー! 自爆装置のボタンを押しちゃったー!

「何てことをしてくれたんだよ! お前は!」

先輩、こんな時にあれですけど、いろいろとお世話になりました

「おう、こちらこそお前のおかげで短かったけど有意義な人生を送れたよ」

こんなことになっちゃって、本当にごめんなさい

いや、女として一番綺麗な時に花のように散るってのも、結構イイもんだよ

……

先輩

「ん?」

今思い出したんですけど、『エイリアン』の自爆装置って結構複雑な手順を踏んでませんでしたっけ?

「う~ん、そういわれてみると、そんな気がしてきた」

それに、カウントダウンって普通数字でしょ?

「確かに」

そうですよ、だいたい、こんなカジュアルに自爆装置を起動できるわけ無いですよ

「だよな、こんなに簡単だったら、週に2、3回は自爆しちゃうもんな」

だとすると、この点滅は何でしょう?

……

「あれじゃねーか? 田舎の交差点で夜になると現れる黄色い点滅」

ああ、あれね、「黄色い点滅って何だったけ? 止まるんだっけ? そのまま通ってイイんだっけ?」って悩んでる間に通り過ぎてしまうヤツね

「でも、別に車が通るわけじゃねーからな~」

ですよね、自爆装置でもなく、黄色い点滅でもないとしたら……

「何だろう」

何でしょう

「う~ん」

う~ん

……

……

「無理だな」

無理ですね、アタイラの頭じゃ

「考えるだけ無駄だな」

考えてるのか、考えていないのか、わからないくらいバカですからね、アタイラって

「脳みそも小っちゃいんだろうな、相当」

きっと、ピスタチオくらいの大きさしかないですよ、しかも中身なんか無いですよ、殻だけですよ、ピスタチオの殻だけ

「ピスタチオの殻か、うまいこというな! わーはっはっは~!」

アッハッハッハ~!

「あ~あ」

あ~あ

……

……

で、どうします?

「ピスタチオ?」

いや、モナドン……

「眠れる獅子を起こしちゃったからな~」

とりあえず、明日また考えますか?

「だな」

でも、このままにしといたら、画面から何か出てきませんかね

「何かってなに?」

例えば、貞子とか……

「さ、貞子って、お前、『呪怨』より怖ぇーじゃねぇかよ!」

わかりました、じゃあ、床に粘着テープでも貼っておきましょう

「粘着テープ?」

はい、髪の長い女って髪にガムや粘着テープが付くのを極端に嫌うでしょ?

画面から這い出てきた貞子も、床の粘着テープを発見したら、そのままゆっくりと戻っていくと思うんですよね

「なるほど、お前、頭イイな、お前のピスタチオ、もしかして身が入ってんじゃねーのか?」

わーはっはっは~! 先輩、うまいこといいますね!

「そうか? わーはっはっは~!」

アッハッハッハ~!

「あ~あ」

あ~あ

……

……





そんなわけで、アタイラは暮居カズヤスの部屋の床に粘着テープを貼ると、イサオが入らないようにドアをしっかりと閉めました

そして、その夜、アタイラはイサオを真ん中に挟んで川の字で眠りました

正直、怖くて良く眠れませんでしたが、朝方にある考えが頭に浮かんできました

寝ているのか起きているのか良くわからないまどろみの中で、その考えは明確なビジョンとなって立ち現れてきたのです

そーだ!!!

アタイは、そう叫ぶと上体を勢い良く起こしました

……

「な、何だ!? 「そーだ」って、京都行くのか?」

……

……

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