賃金テーブルが合う会社と合わない会社
鹿児島で社労士をしています原田です。
私も仕事上で様々な助成金を目的とするものや介護福祉分野の制度上で決められたもの、そして中堅以上の企業からの依頼で多数の賃金テーブルを作ってきました。自分の経営していた会社でも検討したことがあります。
賃金テーブルについて考えている私の意見です。反対意見歓迎です。
様々な賃金テーブルを作るメリット
1.人件費の予測が可能となる
賃金テーブルを作成することで、翌年だけでなく数年後に渡る人件費の予測を立てることが可能になります。賃金規定に多様な手当を多数導入していたり、業績や能力で大幅に変動する手当等があると、予測がしにくくなる傾向はありますが、一般的な職種であれば、予測がしやすくなります。
人件費予測がしやすいということは、合理的な予算計画が立てやすくなることになるので、予算に対する目標設定等も具体的に立案しやすくなります。
更に、企業の運営が株主・取引先・金融機関等に対して企業の安定性と信用を構築できるだけでなく、従業員に対しても企業の安定性や目標の必要性を熟知させることも可能になります。
2.従業員の生活設計が可能になる
従業員は、ある程度将来的な収入予測がある程度可能になるので、それに基づいた人生設計が可能になります。
それは生活の安定性につながるため、結婚・住宅の購入・子育ての計画等の長期的なビジョンが必要になる要因にもなり、長期就労(=離職率を下げる)にもつながることになります。
3.求人効果の促進
これはある程度公開されていることが前提ですが、従業員に対する安定性が担保されることは、新規に就業しようとする求職者にも通じることで、そもそも長期就業する気で入社しようとしている人であれば、その効果は一定程度見込めます。
特に新卒者の親が見れば、安心して就業させるような後押しをする契機になる可能性があるでしょう。
大きなデメリット
いいことばかり書くと、やりたいと思う方が増えるでしょう。メリットを全て打ち消す程度のデメリットもあります。
① 支払い原資に関係なく賃金が上がる
給料を払う元手は粗利益です。全体平均で賃金額が2%程度増額するテーブルを導入している場合に、次年度の粗利益が前年賃金額の2%以上増加しなければ、業績が維持できていても人件費増によって経常利益が下がります。
経常利益を維持するためには、退職しても人員を補充しないとか、前年より賞与を削るとか、他の経費を削る等で費用総額を減らさなければ、賃金テーブルを維持できません。
ただし例外があります。
Ⅰ 各年齢層が均等に存在する組織
入社年齢と退職年齢までの年齢層が均等であれば、定年退職者(または再雇用や役職定年制等)と同じ人数の入社する人も均衡するので、在職する人の賃金がそれぞれ上がっても、全体の賃金はほとんど変化しません。現実的に小規模企業でそういう状態はありえないので、少なくとも数百人以上は在籍していて欲しいです。
Ⅱ 実績が前年を下回ったことが無い企業
創業以来右肩上がりで、バンバン成長しているなら、配分原資を気にすることもありません。実態が業績に伴って賃金も常に上げている中で、求人効果やモチベーションアップ効果を狙って従業員に公開できる目安としてテーブルを定めるのです。
但し業績が停滞した瞬間から地獄になる可能性があります。
経常利益の低下や賞与削減等は、全てのメリットを消滅させる可能性があります。それをしないで解決させる方法は、
・役員報酬を減らす
・資産を食いつぶして対応する
ことになります。業績が上がらない限りそのうち崩壊するので、役員は必死になるでしょう。
それ以外に全員に了解を得て、賃金引き下げする方法もあります。コロナの時も非常事態ということで、そういう対応された企業もありました。普通の状態ならそういう交渉すると、有能な人から辞めていきます。
② 適正運用するには評価制度が不可欠
等級を上げるには多くが昇格や条件を必要とします。また、号棒をひとつ上げるのではなく、複数上げる場合にも一定の業績や条件が必要でしょう。
それが、社長や中間管理職の好みや印象だけで決まるようでは、モチベーションを下げるためにやっているようなもので、むしろ賃金テーブルも評価制度も無しで、印象だけで昇給を決めた方がワンマン企業として自覚できていれば、いさぎよしと、むしろある程度納得できます。
上司とソリが合わなくても、適正な評価制度に基づいて等級が上がり、収入が増やせる期待を得られるから多くの従業員にもモチベーションアップになる面も大きいので、適正な評価制度は賃金テーブルとセットで用意すべきです。
ここでは評価制度の話はしませんが、評価制度も単純な話ではありません。これらは精度を高める程に費用がかかります。しかも高ければいい制度になるわけでもないので要注意です。
③ 見合っていると効果がない事がある
例えば、到達できる最高等級の最高額として見込めるのが、30万円とかです。会社的に妥当でも、将来性や夢や期待など生まれません。
また、昇給ピッチが500円とか、実は昇給させる気があまり無いとメッセージを送っていると思われてるようなケースもあります。形だけの等級表です。
一定以上の高額者は6等級とか7等級以上で、今の従業員は全員1~3等級の場合も、普通の能力がある人からは、「どうせ払う気は無い」と気付かれるでしょう。
そうした等級表は、その企業に見合っているから掲げたようなメリットにつながらない。何のために作るのかというと、助成金や一定の補助金の目的だけで必要性があったりするので、完全に無益とは言えないのですが、そういう理由で適当に導入すると、事業主でさえ等級表の存在をすっかり忘れてしまい、適当な基本給で雇用契約を結んでいる場合もあります。
本来なら企業風土、収益状態、従業員数を勘案して、導入目的に応じて作るべきですが、根本的に例外Ⅰ、Ⅱで示したような企業でなければ、特に中小企業では等級表の改悪をせざるをえない状況が出てきます。
自分の会社の足元をしっかりと見据えて、
・どういった人に高い評価を与えてもいいか
・高い評価の人にいくらまで払えるか
・企業の成長度合いをどの程度まで見込んでいるのか
そうした内部や外部の環境も密接に絡んできます。業績の厳しい会社が等級制度を導入したらモチベーションが上がって、どんどん成長した・・・なんて話は、宝くじに当たったような話で絶対的なものではありません。
(基本的には既に儲かっている会社に導入して自分の実績にするのが、真に有能なコンサルタントです)
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