【第7回】企業がEC事業に本気で取り組んだ時に与えられる2つのもの | 中小企業のためのEC・ネットショップ立上げ・改善入門講座
|その時、起こる「意味ある偶然の一致(シンクロニシティ)」
これまでの6回の記事の中で、筆者はEC事業に取り組んでいるあなたに対して、「ECとはビジネスであり、商品ストーリーと、リピート購入のための仕組みづくりと、心のこもった店舗運営や接客対応が欠かせない」ということをお伝えしてきました。
しかし、「EC」という業態は、誕生からまだ20年すこしと日が浅く、特に企業内でのEC事業の場合、専門的な人材が不足しています。
この記事を読んでいただいている方の中には、
「経営者から言われて、EC事業も、見なくてはいけなくなった」
「会社の方針で、EC事業の推進を担当することになった」
「前任者が退職して、たまたまEC業務を担当することになった」
と途方に暮れている方も少なくないと思っています。
筆者自身、4年もの間、企業の中で、ほぼゼロからEC事業を立て直してきた経験があるため、その苦悩や痛みが、いやというほど分かります。
特に、中小・中堅企業において、EC事業を立上げる、改善するとは、社内で誰も経験したことがない仕事を一人でやることを意味します。はじめは社内に理解者がいない、もしくは少ないことが、孤独に拍車をかけます。
さらに、本気でEC事業を行うと、既存の事業にはない新しい考え方やスピーディーな対応が求められ、既存の事業の方針やシステム、利害との衝突が起こることも少なくありません。
しかし、もしあなたと、あなたの会社が、本気でEC事業に取り組むと、その孤独や苦労をはるかに上回る自社の事業にとってインパクトを与える「不思議」が起こると筆者は考えます。
筆者の力不足で、本記事の中では、私がコンサルティングで関わった先や、取材を通して聞いたエピソードを書くことができませんが(※注)、自身の経験からECの仕事を行う人の多くに起こる不思議について述べたいと思います。
※注:私のまわりのEC店長さんへ もし、この記事に共感していただいた方がいらっしゃいましたら、筆者までメールまたはFacebookMessengerで感想やエピソードを送ってください。
|ネットの向こうのお客さんが自社の本来の姿を教えてくれる。
その一つ目の不思議とは、「ネットの向こうのお客さんが、あなたの会社の本来の姿を教えてくれる」ということです。
筆者の場合、ほとんど売り上げのない状態のEC店の再建をする中で、ある時から「お客さんのレビューを読み、一人ひとりのお客さんの話に合わせた個別のメールを返す」ということに真剣に取組みはじめました。
理由は、この連載記事の3回目で書いた方法でマーケティングを行い、心を込めてつくり込んだ商品ページを公開した後に、すぐに新商品が大ヒットして、3~6か月先まで予約注文が埋まる状態になったからです。
しかし、同時にその予約注文が途切れた後にはすぐに売上が急落することが予測され、1年近く続いた予約販売の中で「一度購入して頂いたお客さんが必ずリピート購入をしてくれる関係をつくること」が求められたのでした。
それまで、筆者は、ネットのお客さんとは、わがままで、言いたい放題で、辛辣な言葉をぶつけてくる怖い人たちと考えていました。
さらに前回の記事で書いた「積極的にお客さんとコミュニケーションを取り、徹底的に接客なサービスを提供する」とは真逆な方法で、SEOやウェブマーケティングの手法を活用し、いかにECモールやGoogleのアルゴリズムをハックするかということばかりを考えていた時期もありました。
しかし、レビューを通じて、一人ひとりのお客さんに寄り添った、個別でのメールのやりとりをする店舗運営を通じて、それにちゃんと応えてくれる「心あるお客さんがいること」を発見したのでした。
筆者がECをやってきた中での最大の発見は、「ネットで買い物をするお客さんの心は温かい」ということでした。
この連載記事のさまざまな個所で書いたように、世の中にいるすべての人は、いつも何かを夢見て、理想とする人生や暮らしを送るために、商品を買っているのです。
すべての人が、日々の仕事や生活に悩み、齢を取っていくことに苦しみ、病気を患い、愛する家族やペットとの死別するなどのバックストーリーを抱えています。
そうした中で、何かを夢見て、ネットで商品を買うことは、心がときめく、特別な瞬間である、と筆者は考えます。
一台のコードレスクリーナーを買う時にも、買っているモノとは、掃除機ではなく、こまめに部屋の掃除を行い、運気が上がり、人生が変わることを期待する自分であったりします。
まるで実際のお店の店頭で、お客さんとそんな会話を交わすように、筆者が心を込めて接客を行う中で、EC事業の売上はどんどん大きくなっていきました。
毎月、数百通のレビューを読み、一件ずつメールを返信していく中で、私とお客さんとの間には、「強い絆」が生まれていったのです。
気がつけば、半年先まで予約注文がなくなった後も、一年ほど数か月先までの安定した注文があり、工場の生産能力を数倍あげて、ようやく通常出荷ができるレベルの事業になっていました。
その頃から月二回のイベントを行う時には、自社からの出荷では追いつかないほどの注文を頂くようになり、どうしたら早く確実にお客さんのもとへお届けできるかについて考える機会を頂きました。
気がつくと、EC事業用の工場ラインを用意して、外部の倉庫から直送しないと間に合わない状況になっていました。
その頃には、楽天市場に出店している5万店の中でも、3億5000万点の商品の中でも、毎週トップレベルのレビューを頂く人気店となっていました。
この中で、筆者は、はたと気づいたことがあります。
この状況は、商品のストーリーづくりの記事の冒頭で書いた、
薬局の店先でのお客さんとの会話の中で得た気づきをもとに、アイデア商品をつくり、行列の絶えない店となった創業の物語と同じ状況ではないか。
「だから、創業者は、お客さんの要望に応えるために、工場を建て、全国各地で自社の商品の使い方の講座を行うようになったのか」と筆者は、魂の深いところで納得したのでした。
筆者は、小さなお店がメーカーとなっていく「原点ともいえる光景」を見ることができたのでした。
筆者のまわりには、家業として受け継いだお店や会社を、EC事業で立て直した経営者の方が少なからずいます。
おそらく、その経営者の方の多くも、お客さんと触れ合う中で、事業が成長していく「創業の物語」を追体験し、「企業本来の役割」に気づかされる経験をしていると思われます。
このようにEC事業を行うことは、既存の事業の流通経路のなかで、失われていたお客さんとの直接的な対話を通して、「会社本来の役割」を気づかせてくれます。
それは、具体的に、
自社のお客さんの真のニーズの把握
自社商品の新しいストーリーの発見
持続的に成長する売上と利益
自社の商品の強み・弱みのスピーディな把握
ダイレクトな市場や顧客の反応の把握
という会社経営者の方や、事業責任者であるあなたが、はじめに期待していたことそのものになるはずです。
|一人ひとりのお客さんに寄り添うことで会社は次の役割へと導かれる
EC事業に真剣に取り組むことで与えられる、もうひとつの不思議とは、「会社が次に向かうべき方向が見えてくる」ということです。
ネットの向こうの顔の見えないお客さんとの心が触れあう商売を行うことで、「会社が次に向かうべき方向が驚くほど分かるようになる」のです。
具体的に、筆者が経験した食品メーカーのEC事業の場合、次のような変遷を遂げました。
当初は売上を狙った地域農産物店の販売
▼
自社の商品のフルライン、セット販売化
▼
発酵食品に絞った圧倒的なシェア・知名度の獲得
▼
「腸内環境」を通した「健康寿命の改善」や
「免疫力強化」というコトを提案するお店へ
とお客さんに導かれるように、役割を変化させていきました。
その結果、コロナ禍の中で、ブームとなった「〇クルト1000」と似た機能を持つ自然食品は、空前のヒット商品となり、既存の販路の大幅な落ち込みをカバーする売上と成長を実現することができたのでした。
新型コロナが広がる遥かに前から、筆者は「腸活」や「免疫力の強化」、「健康寿命の改善」というニーズが高まっていることに気づいていました。
なぜならば、お客さんから寄せられる一通ずつのレビューを丹念に読み込む中で、この時代に、お客さんが何に困っていて、何を求めているか、をひしひしと感じていたからです。
このように、一人ひとりのお客さんと真摯に向き合うことで、会社や事業が進むべき方向が不思議なほど分かってくる、と筆者は考えます。
目の前にいるお客さんの夢や期待に応えていきたいという想いは、頭のなかで考えた事業計画書よりも、はるかに強力に現実を動かす原動力となり、事業を成長させていくのです。
筆者はコンサルタントとして、お客さんの事業計画づくりを支援する立場であるため、多くの後悔や反省とともに、
私たちは、お客さんのおかげで成長できる
自分の夢を叶えたいのであれば、お客さんの夢を叶えなければならない
という事実の深さを、あらためて実感します。
|この世界には、あなたを待っている人がいる
昨今、メーカーが行うEC事業は「D2C(Direct to Consumer)」と呼ばれ、インターネットからのリアルビジネスへの波及効果が期待されています。
しかし、ただECサイトをつくり、漫然とECサイトを運営しているだけでは、既存の事業の行き詰まりを打破する成果は得られません。リアルビジネスへの波及効果を期待することもできません。
ここまでの長い記事を読んでくれたあなたであれば、それがどれだけ難しいことかをよく理解していただけたのではないか、と筆者は考えます。
その一方で、もし皆さんが、
自社のお客さんの心の内側にある「夢」をよく理解し、
ECで販売する商品のストーリーをつくり、
リピート購入される仕組みをととのえ、
熱狂的なファンをつくる真摯な店舗運営を本気で行う
のであれば、ネットの向こう側にいるお客さんは、想像もできないほど多くのお店の中から、きっとあなたのお店を見つけてくれるだろうと筆者は考えます。
なぜならば、筆者も、あなたも、世の中に届けているものは夢や想いだからです。お客さんが買っているものも夢や想いだからです。
そして、前回の記事で書いたように、姿が見えないからこそ、ECサイトでは、その夢や想いがよくお客さんに伝わるのです。
私たちは毎日のように、大好きなミュージシャンの音楽や、好きな俳優が出演している映画など、誰かが創造したものから、そこに込められた想いを受け取って生きています。
私たちは、いつも誰かがつくった夢や想いに、勇気づけられたり、励まされたり、慰められたり、癒されたりして生きています。
あなたが「大好きだ」と思うものと出会えたように、あなたが想いを込めて、つくった商品や、運営するEC店で提供するサービスは、ネットの向こう側にいるお客さんにきっと届く、と筆者は信じています。
私も、この夢や想いを受け取ってくれるあなたを想うことで、なんとかECという仕事に関する文章を書き切ることができました。
あなたがECという仕事に本気で取り組むことによって、お客さんの「心」と、あなたの「心」が響き合い、閉塞感や停滞感ある世の中を変える商品やサービスが生まれてくることを心から願っています。
7回にわたる長文の連載記事を読んでいただき、心から感謝申し上げます。
ほんとうに、有難うございました。
どこかで、またあなたに会えることを願っています!
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スポットライトは東海・関西地域を中心に、食品・調味料・飲料などの中小・中堅企業のEC・ネット通販事業のコンサルティングを得意するオフィスです。
当オフィスの代表の杉本は、優良メーカーにて18年以上のマーケティング経験を持ち、数々の日本一・シェアNo.1のヒット商品を生み出してきました。
特に、数多くの競合が存在するEC市場で重要となる「商品のストーリーづくり」、「リピートの仕組みづくり」、「熱狂的なファンをつくる店舗運営」に強みを持っています。
また当オフィスは、楽天・Amazon・Yahoo!ショッピングなどのECモール店のサイト改善、Shopifyを中心とする本店ECサイト構築・運営支援など、「EC店舗の形態に合わせたきめ細かい運営支援」も得意としています。
これまで小規模企業~150名規模のメーカーまで100社近くのコンサルティング実績があります。皆さんのお悩みに寄り添ったサポートを行っていますので、気軽にご相談頂けましたら、幸いです。
▼これまでの連載記事のまとめ
7回連載記事をまとめ読みしたい方は下記のリンクをご参照ください。
『中小企業のためのEC・ネットショップ立上げ・改善入門講座』【全7回】
【第1回】ECとは、サイトではなく、ビジネスをつくるものである
【第2回】EC事業に想いを乗せる方法
【第3回】お客さんがECで購入しているのはモノではなく、夢や体験
【第4回】ECで販売する商品のストーリーのつくり方
【第5回】持続的にECサイトを成長させるリピート購入の仕組みづくり
【第6回】熱狂的ファンをつくるEC店舗の運営方法
【第7回】企業がEC事業に本気で取り組んだ時に与えられる2つのもの