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【ブランド作りを考える③】女性の社会進出と「挑戦」ー石岡瑛子さんに学ぶー

こんにちは、スパイスボックス・採用広報担当の阿久津です。
先日、Soicial Branding Lab.主催で「SNS時代のブランドづくりとキャリアについて考える【ブランドと人生のデザイン論】」というテーマで、オンラインイベントを2日に渡って開催いたしました。

その中でも、今回は編集者であり銀河ライターの河尻亨一さんが、5年かけて書かれた『TIMELESS 石岡瑛子とその時代』(朝日新聞出版)をもとにお話いただきました。石岡瑛子さんは、1938年に生まれ、2012年に亡くなられたデザイナー、アートディレクター。女性の社会進出がまだあまり一般的ではなかった時代に、自分の道を切り拓いて活躍された方です。

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第1弾「土屋きみさんパート」の記事はこちら▼

第2弾「河尻さんカンヌパート」の記事はこちら▼

スピーカー紹介

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メインスピーカー:河尻 亨一(編集者・銀河ライター)

取材・執筆からイベン ト、企業コンテンツの企画制作ほか、広告とジャーナリズムをつな ぐ活動を行う。著書『TIMELESS 石岡瑛子とその時代』で第75回毎日出版文化賞(文学・芸術部門)受賞。訳書に『CREATIVE SUPERPOWERS』がある。

石岡瑛子(いしおかえいこ)プロフィール

1938-2012
デザイナー/アートディレクター
1961年、資生堂宣伝部に入社。前田美波里を起用したポスターなどで頭角を現し独立。
70年代にはパルコ、角川文庫などで数々のキャンペーンやファッションショーの演出、書籍デザイン他を手がける。
80年代には活動拠点をニューヨークに移し、映画や舞台の衣装デザインの世界に。グラミー賞やアカデミー賞を受賞するなど世界的評価を得る。

新しい女性像をクリエイトするチャレンジ

これからご自身のキャリアを築いて行こうとする若い方には、ぜひ知っておいていただきたい人がいます。それは石岡瑛子さんというデザイナー。昨年(2021年)、世界初の回顧展が東京の2会場で開かれて、すごく話題になりました。

私は彼女の最後のインタビューを担当したことがきっかけとなり、評伝を執筆しましたが、彼女の生き方・働き方には皆さんのヒントがたくさんあります。勇気づけてくれる存在ですね。いくつものエピソードや名言がありますが、少しご紹介してみましょう。まずは、資生堂に入社したときの言葉から。

もし私を採用していただけるとしたら、グラフィックデザイナーとして採用していただきたい。お茶を汲んだり、掃除をしたりするような役目としてではなく。
それからお給料は、男性の大学卒の採用者と同じだけいただきたい。
(1960年・資生堂入社面接時の言葉)

当時、女性の社会進出があまり一般的ではなかった中、たんかを切ってますね。仕事に対するすごい意気込みです。入社してからも、新しい女子像をクリエイトしていこうと挑戦し続けます。

日本で初めてハワイロケをしたことでも有名で、「貼っても貼っても盗まれた」と言われていた前田美波里さんのポスターを手掛けました。

資生堂といえば化粧品会社ですから、いつの時代でも「美しい女性」が大きなテーマになります。しかし、石岡さんはその「美しさが、男性の求める美しさ」になっていることに気づき、「紋切り型の美人」、「人形のようなタイプ」、「男のための愛玩物」と指摘しました。男性が求める美しさに、女性側が共感して購入するのはおかしいと思ったのです。

そこで、モデルに起用したのが前田美波里さんです。前田さんの意志を感じさせる強い表情と健康的な肉体を新しい女性像として打ち出すことで、既存の価値観やステレオタイプに対して挑戦したわけです。この施策は見事に大ブレイクします。

縛られずに、ボーダーを超えるチャレンジ

石岡さんは、「女性」や「日本人」といった枠組みに縛られることを嫌う人でした。「私」として生き続けるには、どうすればいいかを考え、いつも努力していました。これは職業/肩書きにおいても言えるのですが、広告のデザイナーからキャリアを出発させたからと言って、そこに縛られるのではなく、、映画や舞台の衣装デザインをしたっていいし、セットや美術を作ってもいい、といった考え方でした。映画「ゴッドファーザー」の監督を務めたことで有名なフランシス・フォード・コッポラは、「石岡瑛子は境界のないアーティストだ。一般的なビジネスの習慣はこの人には通用しない。」と述べています。

石岡さん自身も「メディアの領域は自由で広い方がいい。テレビも舞台もポスターも新聞も、何もかもが私のキャンパスになる」と話しています。

生涯「私」であり続けようとするチャレンジ

そんな人ですから、渡米して映画や演劇の世界で成功してからも、彼女は衣装デザイナーなど特定の肩書きで呼ばれることに違和感を抱いていたようで、「肩書きは“石岡瑛子”でいい」と言うような方でした。

石岡さんはデジタル化がもたらす社会の変化にもいち早く気づいていました。著書『私デザイン』の中にこんな一節が出てきます。

「デジタル化はエンターテイメントの世界に影響を与え、文化、ライフスタイル、そしてもちろんアートやデザインの領域をも根底から変えていって、その速度は止まることを知らない。
そんな渦の中で自分を見据え、自分を見失わずに表現の道を真っ直ぐに歩いていくのは、並大抵のことではない。(中略)
このような時代をサヴァイブしていくために最も大切なことは、内側から湧き上がってくるほんとうの“自分力”を培うことかもしれない。
(『私デザイン』講談社、2004年より)

これから就職する人だけでなく、厳しい世界の中で仕事をしていくすべての人にとって、「ほんとうの“自分力”」は重要ですし、それがない人はサバイブすることがますます難しくなっていくかもしれません。

では、どうしたら “自分力” を培えるのか? 石岡さんはこう答えています。

「瞬発力と集中力と持続力を身につけて、知性と品性と感性を磨く。磨いて、磨いて、磨きつづける。あるとき、ふっと深い霧が晴れるように、何かが少しだけ見えてくる」(『私デザイン』より)

シンプルですが、トレーニングしかないというわけです。世の中では “自分らしく働く” といった言葉が流行語のようになっていて、簡単に手に入るものであるかのように語られたりもしますがが、実際には努力し続けなければそれは見つからないんですね。だから1番大事なのは、それだけの情熱を傾けられる「何か」と出会えているかということです。

「やりたいこと」が見つからない方へ

最近だと「やりたいことをやりなさい」という風潮が一般化してきたこともあり、かえって「やりたいことをやらなければいけない」という強迫観念に苦しんでいる人も多く見受けられるようです。ですが、やりたいことは、いろいろ挑戦する中で失敗も重ねてやっと見えてくる。時間がかかることですから、すぐに見つからなくて当然です。
なかなか自分のやりたいことを見つけられない方も多くいると思うのですが、そんな方にはぜひ一度、本書を読んでいただきたいです。こんな人がいたんだ! と思えます。「『自分らしく生きる・働く』ということがどういうことか?」 を一度ちゃんと考えてみたい人に、おすすめしたいですね。

対談を終えて

「女性」「日本人」などの枠組みを超えて活躍された石岡さん。彼女や、彼女のように固定観念や「女性の役割」を打ち破るチャレンジを重ねてきた方のおかげで今があるように感じます。「男だから」「女だから」「日本人だから」といった縛りは、他方では自分の拠り所であり、すがれる場所かもしれません。自分の選択に不安がある時に、一つの基準をもたらしてくれるものだという意見にも、少し共感してしまう自分がいます。ですが、迷いながらも自分の道を選び、進んでいく大切さを石岡さんのお話から学びました。(編集部)

河尻さんからのお知らせ

著書「TIMELESS 石岡瑛子とその時代(朝日新聞出版)」

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