自然農の栽培管理法には愛が必要
<自然農の栽培管理法には愛が必要>
自然農は決して放ったらかしにする栽培方法ではない。もちろん、それでも育ち、それなりの収穫を得ることもできる。しかし、原産地とはまるで違う環境にヒトの都合で運ばれてきた彼らに対して、彼らの気持ちや都合を無視することは本当に愛していると言えるだろうか?
自然農ではヒトの都合と野菜の気持ちや都合のどちらも満たすために、必要最低限の手入れを行う。肥料や農薬は野菜の気持ちよりもヒトの都合を最優先にするための栽培方法であるが、野菜が育ち子孫を反映させている点で野菜の都合は満たしている。その点、面倒なことはしたくないからという理由で放置する人たちよりも彼らを愛していることは間違いないし、私は仕事や研修先でそれを強く実感した。
野菜の都合は子孫を繁栄することである。そのために与えられた環境で精一杯生きようとする。自然界の生命はすべて超ワガママで超素直だから、ヒトが彼らの気持ちを読み取り、こちらから寄り添ってあげると、イキイキと輝く。彼らは体全体であなたにメッセージを送ってくれている。
根と茎葉は相似形であり、根の成長が茎葉の成長とリンクし、地上部に問題があるということは地下で問題が起きているということだ。そのため、自然農では彼らが元気がないときは地上部を観察し、地下部を想像する。
徒長する場合、根が深くまで達していないか栄養過多のどちらかである。ただし、間引きを適切に行なっている場合や周りの雑草に光合成を邪魔されていない場合に限る。葉の色が濃い緑色の時はチッソ過多で、薄い場合はチッソ不足である。ただし大切なのは養分と水分のバランスである。
葉が萎れていく時は、根が水分を十分に吸えていない証拠だが、その理由は虫害・病原菌、水不足など要因がさまざまなので、実際に掘ってみないと分からない。上手く栽培ができなかったときは最後は根ごと掘り上げて原因を見つけることで、さらに観察心が磨かれるので、失敗しても放置してはいけない。
双子葉類の植物はまず種子から主根を伸ばし、そして茎(主枝や幹)を伸ばす(栄養成長)。そして十分な深さまで主根を伸ばす)と、側根を横に伸ばして自立根圏の範囲を確保すると下へ下へ伸びていく。その側根の動きに合わせて、茎から脇芽(側枝)を伸ばして先端に花や実をつける(生殖成長)。これがはっきりと分かれて成長するのがマメ科やシソ科、葉物野菜、根菜類である。はっきりと分かれずに成長するのが果菜類である。
果菜類では茎の先端を切ることで生殖成長に切り替えを促すことができる。脇芽に多くの実をつけるものが多いため、農家は積極的に摘心を行う。自然農法では必要最低限の手入れをするために、野菜のそれぞれの性質と自身がどのような収穫物と量を目指すかが管理方法を決めることになる。また肥料や堆肥を使わないことから、慣行栽培や有機栽培の方法や常識とは違う方法も多い。これはもちろん気候や土質の違いもある。「夏野菜の第1花(果)どうしてる?」は農家の中では挨拶が割りとも言える。
果菜類に共通する不思議な特性は二つある。一つは子煩悩で、にすべてのエネルギーと養分を使い果たそうとする性質だ。そのため、第一果を早く採ってしまわないと、次の実なりが遅くなるばかりか全体の収量も減ってしまう。これは実際に食べて分かるほど違いがある。そこで小さいうちに収穫してしまうか、トマトは青いうちに採ってジャムや漬物にしてしまうのがオススメだ。農家によっては花のうちに摘んでしまう人もいるくらいだ。タイミングは農家によって人それぞれなので、いろいろ試してみるのも良いだろう。
もう一つの性質が45°の法則である。これは実をつけた枝が45°よりも傾くと実を大きくすることをやめてしまい、その枝を太くして折れないようにするという性質だ。こうなると新しい茎葉を伸ばすことも減ってしまうため、全体の収量が減る。そのため、小さいうちに早め早めに収穫するか、うまく支柱にくくりつけてあげよう。
その性質から極端に伸ばす枝をすべて垂直に仕立てて栽培するのが、道法流垂直栽培で、果菜類のみならず果樹類にも同様に仕立てる。垂直に仕立てると植物ホルモンが最大限に活用され、風通しは良くなり虫がつきづらく、他の植物の光合成の邪魔をしないため、混作が容易になる。病気になりにくく、さらに収量がアップする。とはいえ、適切な枝の本数を選び、畑全体の水はけと風通しの良さを作らなければ意味がないことは他の栽培方法と変わらない。また支柱に頼りきってしまうと根張りが弱まる可能性があるので、根が張りやすい環境を整えることも重要だ。
野菜の手入れや管理方法は農家の数だけ、畑の数だけある。様々な方から学ぶことも良いし、自分のオリジナルの方法を見つけ出すのも良いだろう。そのためには経験も知識も必要だが、植物への愛が一番大切なことは間違いない。ネグレクトが愛のない育児方法として言われるのは心を配ることもない放置であるからだ。初心者はついつい忙しさから畑に通わなくなり、雑草が生い茂っている様子から目を逸らす。畑に行けない間に彼らの様子が気になって仕方がなく、彼らに会いにいくためにスケジュールを変えるほど愛することができれば、畑は簡単になる。