中尾佳貴 よしきんぐ

千葉県出身、島根県在住 タネを蒔く旅人、木を植える木工家、原生林ガイド、パーマカルチャ…

中尾佳貴 よしきんぐ

千葉県出身、島根県在住 タネを蒔く旅人、木を植える木工家、原生林ガイド、パーマカルチャーデザイナー 「自分自身とつながる」「自然とつながる」「社会とつながる」 の3つをテーマにした講座を全国で開催 現代農業 2022年から定期的に「自然農」について寄稿 漫画「ザッケン!」監修

最近の記事

直播のコツ

<直播のコツ> 農業の世界には、育苗農家(約9%)・栽培農家(約90%)・採取農家(約1%以下)の3種類がそれぞれ専門に特化して分業していて、すべて行う農家さんは数が少ない。難易度が高いのは採取、育苗、栽培の順である。だから、はじめのうちは育苗が失敗してしまうかもしれない。しかしやらないことには学ぶことができないから、もし失敗したら直播きや苗を購入して次のステップに移ろう。 育苗とは違う難しさと世話があるが、自然農の先駆者たちが直播きにこだわるように、直播の良さもたくさんあ

    • 不老長寿と彼岸

      <季節行事の農的暮らしと文化 9月 不老長寿と彼岸> あまり現代人には馴染みが薄いが9月9日は重陽の節句である。九という数字は陽の数字(奇数)でもっとも大きい数字であり、それが重なることから重陽という。 菊の節句であり長寿を祈る日。旧暦9月9日は新暦10月の前半なので、この時期はあまり菊が咲いていない。 菊はもともと薬草とし奈良時代に中国から伝わった。中国では昔から不老長寿が重要テーマでさまざまな薬草が利用され、現代の東洋医学が数千年前から続いている。 重陽の日に摘んだ

      • 季節を知らせる花と日本人~秋~

        <季節を知らせる花と日本人~秋~> ・ヒガンバナ 日本の秋を知らせる花といえば、彼岸花だろう。 ちょうど秋のお彼岸ごろに里山の田園地帯を彩る赤い彼岸花。 根っこに毒があるためにモグラ除けになるために田んぼの畦や墓の周りに植えられたという話がある。 しかし、実際にはあまり効果がないのだとか。 地方名が数百以上あると言われ、曼珠沙華や幽霊花、死人花、墓花など仏教や墓地に関連するものが多いのはこういった事情がある。 ヒガンバナが日本に導入されたのは縄文時代のころからだと考え

        • 広葉樹林文化と立体農業

          <広葉樹林文化と立体農業> 日本に世界中から訪れる観光客は夏の生い茂る緑に感激するが、秋の紅葉の美しさにも魅了される。実は地球上で落葉樹林というのは北半球の冷温帯にだけしかない。南半球には例外的にアンデス山地の一部を除いては存在せず、落葉樹林帯は日本、東アジアの北部、西ヨーロッパ、北アメリカなどにしかない。ヒマラヤ山地では落葉樹の種類はたくさんあるが、それらがまとまって落葉樹林帯というほどのところはほとんどない。そう、世界的に見ると北半球の局部にある特殊な生態系なのだ。

          フードフォレストのデザイン手法

          <フードフォレストのデザイン手法 樹木の選定と配置> 日本でフードフォレスト(食べられる森)をデザインする上でも江戸時代の農書は役に立つ。もともと農書は家の繁栄と存続を願って攻勢のために書き残されたものであり、内容は野菜や穀物の栽培方法だけにとどまらず、山の管理についても多くの記載がある。 宮崎安貞『農業全書』では「尽地力説」を説く。つまり適地適木を尊重し、適地適産(つまり加工)を重要視する。その土地や気候に合った樹木を育て、その土地での暮らしに必要な樹木を育てることを説

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          熱帯の自然農と食べられる森の原点

          <熱帯の自然農と食べられる森の原点> パーマカルチャーでよく使われる「エディブルフォレスト」や「フードフォレスト」という言葉は現在の人工林が建材・繊維材・油脂専用樹木ばかりが栽培されることに違和感と、その大規模プランテーションで働く人々が飢えに苦しむことに対して違う選択肢を示すために生まれた言葉だろう。 パーマカルチャーが目指す人工林にも参考となった伝統的な森林がある。それが赤道付近の熱帯アジア地域で行われてきた森林農法である。 東南アジアの住宅に隣接する庭には果樹とと

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          山と海をつなぐ世界重要農業遺産

          <山と海をつなぐ世界重要農業遺産> ~石川県 能登の里山里海~ 「人と山、人と海とか共生する日本ならではの農業風景」 周囲を海に囲まれた能登半島では平地が少なく、広い農地の確保に不向きな場所でも、その地の利を巧みに活かし山の恵みと海の恵みを頂いてきた。地形に合わせて集落が築かれ、周りを水田や畑、その周りを林地、草地、湿地、ため池(約2000箇所)が取り囲み、水路が四方八方に伸びて、それらを有機的につなげる。水源が確保できる山の斜面には棚田がびっしりと並び、谷状の細長い地形

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          日本のアグロフォレストリー 里山のいきもの

          <日本のアグロフォレストリー 里山のいきもの 世界重要農業遺産③> ~和歌山 みなべ・田辺地域の梅システム~ みなべ・田辺地域では昔から「薪炭林を残すために、山全体を梅林にしない」という教えがある。 この地域は日本でも雨量が非常に多い地域だが、養分に乏しい礫質土壌の傾斜地のため、棚田も段々畑でも農業に適していない地域だ。そういった土壌でもよく育つのがウメで、山腹には梅林が広がる。春の開花の季節に訪れると、その薄ピンク色の山腹とそれを山頂から取り囲むように濃い緑の山林との美

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          庭園の世界観とデザイン ガーデン(庭)とファーム(畑)の違い

          <庭園の世界観とデザイン ガーデン(庭)とファーム(畑)の違い> 「エディブルガーデン(食べられる庭)」という言葉がパーマカルチャーで使われるように、本来西洋式庭園には食べられるものを植えることはない。なぜなら、もともとガーデン自体が王族・貴族など上級階層の趣味であり、ファーム(畑)を持つ必要がない人々のフィールドだからである。彼らにとってガーデンは余暇を過ごす場であり、観賞用植物を愛でる場である。景観美は何よりも重要視される。 そんな西洋式庭園には西洋の世界観が見て取れ

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          自然を観察して、自然を真似るとは

          <自然を観察して、自然を真似るとは> いつの頃からか地球温暖化が叫ばれるようになり、その証拠に本来熱帯にしか生息していないはずの植物や昆虫が沖縄をはじめ、本州にまで確認されるようになった。といってもこの地球は氷期と間氷期を繰り返している中で、生物はその気候変動に合わせて生息地を北へ南へと移動させているだけに過ぎない。たかが有史数千年の歴史の中で自然現象を捉えては異常だらけだろう。 自然農では自然とは教科書そのものでもある。しかし、一般的な教科書と違って正解が載っているわけ

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          適正技術と在来化

          <適正技術と在来化> これは決して生物に限った話ではない。知識や技術、思想はもちろんのこと、ものづくりや芸術、経済や政治を含めた文化も常に在来と外来が入り混じる雑種である。縄文文化は大陸からの渡来人の文化を取り込んで弥生文化となり、その後大陸から新しい文化が来るたびに取り込んで、現代の文化までずっと雑種として続いている。それは日本のみならず世界中の文化が定着するものもあればしないものを取捨選択して、現在まで続いている。雑草化とはいわば土着化である。多くの野菜や園芸種のように

          家庭菜園家を増やすのが食糧安全保障

          <家庭菜園家を増やすのが食糧安全保障> 日本の農業従業者人口は所得倍増計画によって農業の大型栽培化を寿司清したため1960年の1175万人から、1975年の489万人に激減する。そこからは減少スピードは緩やかになるが2000年に240万人、2020年には136万人と減る一方だ。 人口増加と高齢化は進む一方だったにも関わらず、農業従業者が減るのは農業の効率化と大規模化の成功を意味している。農村の若者が都会に出て行ったのは都会のきらびやかな生活に憧れ、サラリーマンになることを

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          食糧危機のシナリオ 米騒動

          <食糧危機のシナリオ 米騒動> 過去に世界で起きた食糧危機や飢饉を学べば、食糧危機のシナリオはある程度推測ができる。気候変動や予期していなかった異常気象だけが決して要因ではない。 2022年ウクライナ危機はコムギ価格の高騰を引き起こした。ブルガリア北東部のドブルジャからルーマニア南東部、モルドバ南部、ウクライナ、ロシア、カザフスタン北西部を経てウラル山脈まで広がるポントス・カスピ海草原地帯はヨーロッパの穀倉地帯と呼ばれるほどコムギを大量生産している。 この地帯はチェルノ

          食糧危機のシナリオ 米騒動

          食料自給率は何を計算しているのか 問題の本質

          <食料自給率は何を計算しているのか 問題の本質> 日本の食料自給率は1960年の約%から徐々に下がり、現在では約40%を推移している。そのため安全保障の面からも食糧危機への不安からも食料自給率を上げる必要性を訴える人は政治家の中にも国民の中にも多い。 しかし、そういう人たちに「食料自給率の計算式を知っていますか?」を聞くと、ほぼ全ての人が答えられない。誰もが答えの数字を知っているのにその元となる計算式の実態を知らないのだから、数字を使って不安を煽る人たちに扇動されることに

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          タネの交換と自立分散型ネットワーク~タネは誰のものか~

          <タネの交換と自立分散型ネットワーク~タネは誰のものか~> 種子法の2018年廃止と種苗法の2020年改正は農業界のみならず、多くの人々の間で議論を呼び、注目を浴びた。「タネは誰のものか」という問いは生物学や法学だけでは解決できない。 穀物の種子は保存がきく上に食糧であるがために、古代からずっと現代のお金のように交換され、取引されてきた。しかし、現代のお金との大きな違いは穀物の種子の寿命は短く、たった1年ほどしかない。つまり毎年蒔き続けなくてはその価値は失われる。毎年新米

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          答え(正解)がないから、自由があり、多様性がある

          <答え(正解)がないから、自由があり、多様性がある> あなたの「良いか悪いか」は、地球ではノイズに過ぎない。 「~~したら良いですか?」 「~~のほうが良いですか?」 「この畑の正解はなんですか?」 という質問は自然農を教えているとよく耳にする。子供や孫を自然の中で子育てしたいと思っている人に多い気がする。 この思考法は現代教育の特徴だと、いつも思う。人によってはそれを洗脳と呼ぶのだけど、この思考法でやっていけるのは学校のテストだけだろう。問題集の後ろの方に載っている答え

          答え(正解)がないから、自由があり、多様性がある