中尾佳貴 よしきんぐ

千葉県出身、島根県在住 タネを蒔く旅人、木を植える木工家、原生林ガイド、パーマカルチャーデザイナー 「自分自身とつながる」「自然とつながる」「社会とつながる」 の3つをテーマにした講座を全国で開催 現代農業 2022年から定期的に「自然農」について寄稿 漫画「ザッケン!」監修

中尾佳貴 よしきんぐ

千葉県出身、島根県在住 タネを蒔く旅人、木を植える木工家、原生林ガイド、パーマカルチャーデザイナー 「自分自身とつながる」「自然とつながる」「社会とつながる」 の3つをテーマにした講座を全国で開催 現代農業 2022年から定期的に「自然農」について寄稿 漫画「ザッケン!」監修

最近の記事

あなたは砂漠をつくる?それとも多様性をつくる?

<あなたは砂漠をつくる?それとも多様性をつくる?> 耕作放棄地をまた田畑に戻そうとするとき、それはとても労力がいる。人力ならなおさらである。耕作放棄地の弱点はその土の硬さ。特に過去に何度も重機が入っていたり、農薬や肥料が使われていると土中生物が全然いないため、土はどんどん硬くなってしまい。 ぱっと見、草が生い茂っているので良さそうだが、土を掘ってみると硬くしまっているせいで雑草すら根を深く伸ばせていない。これでは野菜を植えても育たない。根が深く張れてこそ、自然農は可能だ。

    • あなたは1年に何本の木を消費し、何本の木を植えていますか?

      <あなたは1年に何本の木を消費し、何本の木を植えていますか?> 前半の質問に答えれる人は少ないが、後半の質問にはすぐに答えられるだろう。おそらくほとんどの人が0本と。 「一生のうちに五本の木を植えなさい」という教えが、数千年前のインドにはあったという。これはまさに一人の人間が一生のうちに消費する木の数だけ植えることを諭した言葉である。 ということは私たちが一生のうちに植える木の本数はどれだけ消費しているかを参考にするのが一番手っ取り早い。では、いったいどれだけ消費してい

      • 6割で生きる

        <6割で生きる> 慣行栽培から自然栽培まで、家庭菜園レベルから自給自足まで大中小規模、さまざまな目的、品目を栽培している農家さんの元で研修はもちろんのこと仕事をさせてもらってきた。 価値観や考え方がバラバラな農家さんたちには不思議なことに一つだけ共通点がある。彼らは「いつも6割・60%・60点で満足する」ということだった。それは20代の頃の私には全く理解ができないことだった。元気が有り余っていた私は「もっとやればいいのに」「これくらいで満足していいのか」といつも疑問だった

        • 自然界には発酵も腐敗もない

          <自然界には発酵も腐敗もない> 特に強く自然農に対してこだわりがなく、無農薬なら構わないと価値観なら、私は自家製堆肥を使った有機栽培のほうがオススメだ。とくに小さな畑しかないが自家消費分の野菜をしっかり確保したいなら特に。 というのも植物性堆肥を身の回りにあるものだけで作り出し、元肥や追肥として利用するくらいなら特に難しいことはない。堆肥も多すぎるとどうしても野菜が弱ってしまうから、その点だけ注意するようにしよう。 生ゴミコンポストや自家製の植物性堆肥をいざやってみよう

          落ち葉マルチ

          <落ち葉マルチ> 11月にもなれば標高の高い山や渓谷から始まった秋の装いが里山まで降りてくる。そしてあっという間に木枯らしが吹き、地面は落ち葉の絨毯で染まる。その落ち葉の隙間から顔をだす草木が目につくだろう。百姓たちは静かにその落ち葉を集めて、イモを焼いたり、堆肥を作り出す。 秋が深まると落ち葉はそれぞれの彩りを持って大地に静かに降り積もる。落ち葉は地表を守る緩衝作用を持ち、落ち葉の層が保水力を持つ。雨は樹冠を伝って地面に向かい、落ち葉を介してジワーっと地表に達し、地中に

          森は海の恋人

          <森は海の恋人> 「森は海の恋人」とは「海の幸は森の恵みの賜物」という意味。この言葉は宮城県汽船沼氏の牡蠣漁師・畠山重篤さんの名言である。 瀬戸内パラドックスという言葉が海洋生物学にはあるのを知っているだろうか。世界には内海がいくつかある。たとえばヨーロッパのバルト海や地中海、アメリカ東海岸のチェサピーク湾など。 しかしそれらの内海に比べて瀬戸内海にはとても豊かな生物多様性が広がっている。それゆえに漁業生産高も高い。とくに瀬戸内海の植物プランクトンや海藻の生産量に比べて

          パイオニアプランツと斜面の活用

          <パイオニアプランツと斜面の活用> 日本の国土面積は世界的に狭いという認識が日本人には根強い。しかし、単純な国土面積で言えば世界61位で、ドイツやフィンランドをと同程度である。耕地面積は世界55位で、ドイツ25位、フィンランド79位となる。 これらの面積を大国の中国やアメリカ、ロシアと比較すれば確かに日本の国土は狭く、その分農業に関しては不利に思えるだろう。しかし、日本には世界的にも珍しい生物多様性のホットスポットとなる里山があることを忘れてはいけない。 特に日本には中

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          照葉樹林・ドングリ文化

          <照葉樹林・ドングリ文化> アフリカの森林からサバンナに追い出されたヒトは長い旅を経て、東洋の地にたどり着いた。そこでヒトは驚くべきほどの豊かな森林にたどり着いた。木の実の採集中心の縄文時代の文明をドングリ(オーク)文明と呼ぶ学者も多い。 ドングリの実は他の果実類と違ってタンパク質が豊富であり、さらに放っておいても勝手に大量の実がなる。集落全員で1週間も山でドングリを拾えば、一年分の主食が蓄えられることができたようだ。空いた時間はあの複雑で美しい縄文土器の制作に費やしたの

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          極相林と神社

          <極相林と神社> 日本の森林率は国土面積当たり66%(約2505万ha、世界第3位)であり、そのうち天然林が約5割(約1348万ha)、人工林が約4割(1020万ha)となる。実は日本の森林の中で原生林はたったの1%しかない。そしてそのほとんどが神社仏閣の鎮守の森だ。まとまった原生林は現在では世界自然遺産として登録されているエリアか国立公園内のごく一部だけである。 鎮守の森では一般的にその土地・気候において極相林となっている。極相林の植生はその緯度や標高に依存するが、低緯

          現代のお山論

          <現代のお山論> 現代までの森林経営は用材用の人工林か天然林の自然保護の二択しかなかった。経済的な価値、水源価値、美観の価値、娯楽価値が指標だった。そこには生物多様性の創出と食糧や薬の生産は考えられていなかった。 森林の多面的な機能を生態系サービスとして、貨幣換算し経済的に評価していることで、価値を見える化している。これによって私たちがどれだけ森林から豊かさを受け取っているのかが分かったが、それがヒト以外の生き物たちが複雑な関係性の中で育んで維持している点が見えにくくなっ

          お山と森林論

          <お山と森林論> 自然農の職人たちが、江戸時代の百姓たちが秋が深まってから春のタネ蒔きシーズンまでの間にせっせと山仕事にでかけるのは決して山菜や獣といった食材探しのためだけではない。山が荒れれば田畑が荒れることを熟知しているからである。つまり野山を整えることは田畑を整えることになる。職人たちは田畑と山々を分けて考えることはしない。 村周辺の山々から肥料、燃料、食料、建築用材などを得ていた。山々は資源の宝庫だった。ときに山は季節を知らせる存在でもあった。遠くの山に雪が降ると

          自然遷移の律動 極相林とヒト

          <自然遷移の律動 極相林とヒト> 高校の生物でも学ぶこの自然遷移のパターンには実は続きがある。数百年経ってたどりついた極相林は、いったいその後どうなるだろうか?一般的に極相林は安定した植生で、他の樹種や草が侵入してくることはほとんどない。 実際に極相林を形成する樹種は非常に競争力に強く、養分や水分をほとんど独占的に吸収し、同じ樹種ばかりの森林となる。人の手が入っていない原生林と聞けば、勝手に豊かなイメージを抱くかもしれないが、実はたった数種類の植物だけが独占する舞台となり、

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          風土を識る

          <風土を識る> 「風土」という言葉には地域とも環境とも少し違うニュアンスがある。風土には人間の営みや文化が、気候・気象・地形・地質・景観と合わさってともに育まれているさまを意味しているように思える。つまり風土とはその土地の資源を最大限に生かした人間の営みそのものであると言えるだろう。 飯沼二郎著の「風土と歴史」にはこういった説明がされている。 「風土というものは、人間の力でほとんど変えることのできない自然の枠ではあるが、しかし、それをどう利用するかは、人間の側の主体的な条

          わたしと彼の世界から、彼らとわたしたちの世界へ

          <畑の哲学>わたしと彼の世界から、彼らとわたしたちの世界へ 誰もが観察を学んだことがない。 現代教育と現代社会の影響からみんな、調査ばかりしている。 なかなか調査から抜け出せない人は多い。いつまで経っても良い悪いで評価してしまっている。 観察は教えるのが難しいが、コツはある。コツを掴んでしまえば知識も技術も吸収が早い。 観察と調査の違いは 「身体で受容すること」と「頭で認識すること」 「ありのままに感じること」と「概念で捉えること」 「変化に気づくこと」と「ものさしで測る

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          季節を知らせる花と日本人~冬~

          <季節を知らせる花と日本人~冬~> ・ツバキ 冬のはじまりに里山を彩る花といえばツバキだろう。 秋冬野菜の定植も一段落し、最初の霜が降りる頃にツバキは咲く。 赤や白、ピンクといった鮮やかな色とともに複数の花びらを持つ豪華な花は冬の寒い季節よりも常夏の南国の花のようでもある。 ツバキの漢字は木に春とか書く。 中国では椿という漢字は霊木の意味であり、 椿を意味する理由は日本原産のユキツバキが早春に花を咲かせることから生まれた日本独自の国訓と考えられている。 ツバキは日本を代表

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          冬の気候 霜と雪と草木たち

          <冬の気候 霜と雪と草木たち> 新暦11月1日になると気象庁が使う天気図は衣替えをする。日本列島が四角い枠のほぼ真ん中に配置された天気図になるが、これは冬は北側の大陸に居座る冬将軍の動きを見やすくするためだ。 11月の異名「神無月」に吹く風は神様を出雲へ送るために「神渡し」や「神立つ風」「神送り」「神の旅」という情緒豊かな名前がついている。 その風を目で追うと、遠くの山々は葉を落とし。うっすら白くなるのが見える。高山帯では初雪が観測されると里山にもふと夜寒・朝寒と冬の訪れ

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