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〈読書メモ〉夜の国クーパー/伊坂幸太郎

〈あらすじ〉

目を覚ますと見覚えのない土地の草叢くさむらで、つるで縛られ、身動きが取れなくなっていた。仰向けの胸には灰色の猫が座っていて、「ちょっと話を聞いてほしいんだけど」と声を出すものだから、驚きが頭を突き抜けた。「僕の住む国では、ばたばたといろんなことが起きた。戦争が終わったんだ」猫は摩訶不思議な物語を語り始める──これは猫と戦争、そして世界の秘密についてのおはなし。解説=松浦正人

〈感想〉

あぁ、そうだ。伊坂さんは普通じゃ終わらせてくれない人だった。
思いもよらぬ結末とどんでん返しはもう何度も味わっているのに、それでもまた引っかかってしまった。
本作の案内人(語り手)は2人いる。(詳しく表すと1人と1匹)細君に浮気をされ気晴らしに海釣りに出たら悪天候で舟がひっくり返り、見知らぬ浜に流された可哀想な1人の男と、とある国の奇妙な事件を目にし、その真相を探る冷静で達観的な灰色の猫、トムだ。
トムは浜に流れ、気絶していた男の胸に乗り「ちょっと話を聞いてほしいんだけど」と一方的に話を始める。戦争の終焉、外の国からの闖入者ちんにゅうしゃ、国民思いの王と残虐で傍若無人なその息子、信頼と裏切り、欺瞞と驚愕、猫と鼠、そして年に1度、選ばれた男に与えられる“クーパー”の討伐……
おとぎ話にも聞こえるそれは一瞬で理解するのは難しいが、ここで私たちと同じ立場にいる男による解釈や質問によって理解のズレを防ぐことができる。
しかし、これまでのトムの語りの中に十分すぎる伏線が張られていたと言うのに、伊坂さんのお得意のミスリードの罠にまんまとハマり、非常識なことが常識に、常識が非常識にすり替えられていた。
だが、最後の真相が明かされる場面は魚の背骨を一気に剥がす時のような快感と、充足に満たされる。
これだから伊坂作品はやめられない。

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