おしやべり禁止の喫茶店「アール読書館」
白杖の白状(こくはく)
高円寺「アール座読書館」
先日高円寺に行く予定があり、その帰りに立ち寄った喫茶店「アール座読書館」は知る人ぞ知る不思議な喫茶店です。
店内でのおしゃべりは禁止、勿論携帯で喋るなどはもってのほかで、店内では静かに自分の時間を過ごすのがルールです。
古い雑居ビルの2階にあります、狭い階段を登りお店の扉を開けると沢山の観葉植物で覆われた空間が広がっています。
出張ついでとはいえ、大阪からわざわざ行く訳ですから勿論このルールを知った上で訪問しました。
気難しそうなマスターに無愛想に出迎えられるのかと思いきや、若い女性が一人、カウンターの中でコーヒーを淹れています。
弱視なので、本当はその女性 の年齢や、コーヒーを淹れていたのかどうかは定かではないのですが、ともかく気難しそうなオヤジでないことは確かです。
しゃべってはいけない喫茶店なので、お出迎えの言葉はありません。この店のルールを知らないと、感じの悪い店と思うかも知れないですね。
恐る恐る、小声でカウンターの中のおねえさんに、来店を告げると、おねえさんも小声で、”お好きな場所にどうぞ”と答えてくれます。
なんだか、ヒソヒソ話をしているようで、妙に親近感が湧きます。
緑に覆われた店内には、ベンチシートやソファー、背もたれのついた椅子などの様々な形態の座席テーブルがあります。
白杖で床を叩く音が出ないように恐る恐る店内に入り、窓際のベンチシートに腰掛けます、勉強机のようなテーブには小さな引き出しのついた本棚と、水槽、様々な植物の鉢が並んでいて、周りの空間を遮ってくれます。
本棚には、小物や本が並び、水槽には小さな魚が泳いでいます。窓の外にもいろいろな鉢が植えてあり、まるで秘密基地にいるような、座るだけで楽しい気持ちになります。
本棚の本の一つはメニューになっていて、結構色々な飲み物が用意されており、メニューを見ていると、頃合いを見てカウンターの中のお姉さんがオーダーを取りに来てくれました。
”お決まりですか?”と小声で聞かれるので、”チャイをお願いします”と小声でオーダーをします。
何だか、秘密を共有しているような気持ちになり、親近感は連帯感に昇華した気持ちです。
注文したチャイのジンジャーの香りと窓から差し込む陽光、かすかに流れるBGMとブクブクと水槽に空気を送り込む音、どこかの席で誰かが静かに本のページをめくっています。静かに時が流れる贅沢な時間。
店名の通り、ここは読書をするにはうってつけの場所、読みかけの小説を誰にも邪魔されず一気に読むにはうってつけです。
早速私も読みかけの本を鞄から取り出したところで、”あっ、俺本読めないんだ”と気づきます。
急激に弱視が進んだので、気分はまだ健常なのです!取り出した本とはもっぱら読み上げ機能でkindleを聴くためのipad、目が不自由でもたいていの本は読めてしまえる便利な相棒です。
せっかくの雰囲気の中、ヘッドホーンで洋子さんの声を聴くのも何だかもったいないし(洋子さんごめん)このままぼんやりと過ごすことに決めました。
因みに洋子さんとはApple製品の読み上げ音声音のことで、なせか音声名はデフォルトで洋子さんとなっいます、僕の好みでつけた訳ではありません。(本当はYOKOで洋子ではありませんけど)
不思議な連帯感
店内はおそらく7割くらいの埋まり具合、僕の後にも次々と、しかし、とても静かに入店して、それぞれの席で思い思いの時間を静かに過ごしています。
静かな空間を満喫しながら、感じるのは秩序です。ここは喋ってはいけない、静かにしなければならない、という暗黙のルール。みんなで同じルールを共有している安心感と連帯感。
自分だけの時間を求めながら、なぜそのように感じるのかはとても不思議なのですが人は個を望みまがら、孤独は望まない、そういった生き物なのかな、そんなことを考えていると、あっという間に時間が過ぎてゆきました
お会計を済ませ、お店を出る時、おねえさの”ありがとうございます”の声はありませんでしたが、カウンターから出て、手を前にした状態でこちらを見て、深く頭を下げながら見送ってくれました(ちゃんと見えました!)
素敵な時間を過ごせる、とても良いお店でした。
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