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風邪を引いたときの夢を見たい

恐らくコロナになってしまった。
朝の測定で36.2度だったため、平熱に慢心しきってしまった。

カメラ屋にいつも通り出勤し、カメラの動作を確認していると、若干自分の手先が鈍い。
普段より作業効率も悪い。
気の緩みかもしれない。しっかり働かなくては。私は真面目。
大切な我が子たちが無事に動くことを確認していると、体がずぅんとなってきた。腰、肩、膝の両サイドといった関節が痛い。
噂に聞いていたコロナだと直感する。
いずれ迫ってくるビックウェーブからママチャリで逃げるために、病院に行かなくては。
退勤してPCRを受けるため、書類に記入し、消毒をし、あたりはてんやわんやになった。


今や体が爆発しそうに暑い。
38.6度だった。平熱より3度高い。たかがこれしきで世界が回っている。


火だるまよろしく病院へ向かう。
カービィの無敵時間のように、いつか終わるかもしれないと言い聞かせながら。
止まればそのまま体が動かなくなるかもしれない。

待合室には多くない患者と、割合にしてやや少ない看護師。
本当にお疲れ様だ。

ピッ
表面温度は34.6度。
これまでの全てを疑いたくはない。
私は平熱だ。

待合室のオルゴールがやけにメリーゴーランドを連想させる。あの、ちょっと乗りにくい、白い馬に乗りたい。脚の痛みより刹那の楽しみ。
うぅ、助けてくれ。

ひとつ上の階に案内される。
両足に重心を預けることができない。右側に体をスライドさせる。ちょっと気持ち悪い立ち方になる。誰にも見られたくない。
PCRを受けたい。誰もいない。
クラゲみたいな水色を羽織った看護師さんがひとり現れた。
これが夢か。

そんなわけなかった。書くものを書き、唾液を差し出す。さながら契約者のよう。
血液検査だけは断った。余程のことがないとあげられないねェ。

自宅より早く計測完了。体温計というのは進化しすぎている。
体温計が鳴るまでの時間というのは、湯たんぽを作ったり、おじやの具材を切ったりするための糊代部分のはずではなかったか。
これでは靴を履く程度の時間しかない。

39.2度に看護師さんが驚く。平然としすぎていたかもしれない。
いつも病院では神客を目指しすぎてしまう。
しんどいときこそ理性的に。
カルテを打ち込んでいる時間、耐えかねて
「すいません、どこかに凭れたいです…」と情けないことを言った。もう理性なんか捨てちまえ。
「横になりますか?」天使だ…。


無事に診察が終わった。
家に帰り、そこからの記憶はない。
とりあえず薬を飲んだ。

ラッパーのMVくらいたくさんの友人に囲まれている。
現実だと友人が少ないので、これが夢だと分かる。
謎の班に分けられ、謎のデスゲームが始まるっぽかった。
犯人みたいなんが2人いるらしい。
北野武はいない。
案の定同じ班の人が犯人らしく、たくさんの人が死んでいった。
いくつになってもしょうもない夢を見る。

もっと法外な夢を見たい。
隕石を食べさせられたり、ブラウン管越しに戦争を眺めたり、知り合いと話していくうちにゆっくりと知り合いでなくなっていくような、本当に気持ち悪い夢こそまた見たい。
強烈な夢は強烈な気持ち悪さを伴うが、忘れられないインパクトが残る。

ぎぇっと声を出して目が覚めた。
悪夢は悪夢。ならばもう少しインパクトが欲しかったと審査員席から声が飛ぶ。

M-1も準々決勝だ。1回戦で笑顔を届けてくれた面々も儚く散り、歴戦のスーパーネームが駒を進めている。べじぽたはどこへ。

夢から覚めてもM-1があるならいいや、むにゃ。千客万来………。


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