切れ負け将棋の魅力
将棋クエスト、あるいは将棋ウォーズ。インターネット上で、特にスマホアプリで将棋が指せるようになったのはすごい発明だと思う。
もちろん、対面で指した方がより臨場感が高いし、ネット指し疑惑もないし、本来的にはいいことは間違いないのだが、ネット将棋にはその利便性という圧倒的な魅力がある。通学・通勤時の電車の中でさえ将棋ができてしまうというのは画期的だろう。
かくいう私も長いこと、ネット将棋をやってきた。棋力は伸び悩んでいるが。
さて、将棋クエストと将棋ウォーズの共通点として挙げられるのは、切れ負け制度である。切れ負けというのは、持ち時間がなくなったらその時点で負けというルールだ。
将棋クエストでは、2分、5分、10分切れ負けから、将棋ウォーズでは、3分、10分切れ負けから選ぶことができる。
将棋ウォーズでは、10秒将棋という、1手10秒以内で指すというルールも存在するが、いずれにしても持ち時間が非常に短くなっている。
これはもちろん、普通の人はそこまで暇じゃないし、サクッと将棋を指したいと思っているからだ。次の予定があるのに相手が延々と長考して、やむを得ず対局を終了せざるをえない、なんてことを防ぐためだといえる。
それにしても、いくらなんでも、と思われるのが、将棋ウォーズの2分切れ負け、通称2切れだ。
1人2分の持ち時間ともなると、通常の将棋のようにどちらかの王が詰まされるときに終わるだけでなく、時間切れで終わる将棋が増えてくる。つまりもはや将棋ではなく、別のゲームとなってくる。
2切れでは深く先の手を読むことはできない。あまり長く考えていれば、いくら将棋の内容で有利に立っていても先に持ち時間の方がなくなってしまう。それよりは思い切りよく仕掛けていく方が重要になる。だから、じっくり思考するというよりは反射的、感覚的になるので、"普通の"将棋の棋力にとってあまりためにならないのだ。
ただこれが無茶苦茶面白いのだ。私は基本2切ればかりやっているし、おそらくそれが棋力が伸び悩むせいかと思う。
そんな2切れでも、通常の将棋のように相手を詰ませて勝つ場合が多い人もいれば、時間切れで勝つ場合が多い人もいる。裏を返せば、前者の人は時間切れで負けることが多く、後者の人は普通に詰まされて負けることが多い。ちなみに私は断然後者だ。
私が2切れを好きな理由はまさにそこにあるといっても過言ではない。2切れは棋力よりもマネジメントの部分があるのだ。時間切れと将棋の形勢を総合的に考える必要があるなかで、いかに相手にプレッシャーをかけ自分を安全にしていくか、ということを考えなければならない。
将棋の内容で相手を上回ることに加えて、時間を相手よりも多く残すことが重要になり、その総合的なマネジメントをしていく必要がある、ということだ。
私の戦略はシンプルで、基本的に相手より早く指すことを重視している。お互いの持ち時間が2分=120秒であるとき、1手に2秒かける人は自分の手番が60回回ってきたときに時間切れになる。つまり、1手にをそれより速く指せる人は、相手が60回指す間に自分の王様が詰まされることがなければ勝てるということになる。すなわち、120手(2人の合計で)以上詰まされるまでにかかる将棋をすれば勝てるといえる。
ここで重要なのは、この際将棋の内容はどうでもいいということだ。いくらずっと自分が不利な形勢でも、負けが決定する=詰まされるまでに120手以上かけさせればいいということになるからだ。
こうなってくると極端な話、相手を詰ましにいかずひたすら自分の王様の守りを固めて時間稼ぎをする、という戦術だってアリになる。
この戦略は正しいのだが、そのように将棋の内容を完全無視すると、当然のことながら相手は攻めに集中できるので、より短手数で自分の王が詰まされてしまうことになる。そしてある程度以上のレベルの相手であれば、防戦一方で時間切れで勝つことはできない。
ということで、将棋の内容自体でも相手にそこそこプレッシャーを与えながら、相手より速いペースで指していくというのが基本的な戦略になる。
将棋の内容自体でプレッシャーをかけるという話になってくると、奇襲戦法のようなものが有効になってくる。奇襲戦法というのは、プロなどレベルの高い人には通用しないものの、対応を間違えると一気に形勢が傾くような戦法のことだ。私などは好んで、ノーガード戦法や筋違い角などを用いている。
もちろん、奇襲戦法でなくとも、時間をかけさせるという観点から、穴熊のような固い囲いを組んで、あまり自分から動かず時間切れ勝ちを狙いに行くというのも有効で、私はよく中飛車左穴熊を用いてる。ただ、この場合でも、いつでも相手に攻めかかれるような姿勢をキープしていることが大切で、あまりに守りに偏りすぎればバランスが悪くなってしまう。
さて、将棋の内容と時間の総合的なマネジメントが大事だと書いたが、そこに心理戦の要素が大きいというのも、2切れの魅力だ。
実際、自分の持ち時間が少なくなってくると、「焦り」の要素が生まれる。そうすると、ミスが発生する確率が高まるのだ。慌てて明らかな悪手を指してしまうといったことが起こると、将棋の形勢自体も一気に逆転に向かうという事もある。特に終盤はその要素が強いので、持ち時間を常に相手より有利な状況にキープしておくことが、相手へのプレッシャーをかけるという意味でも重要になってくる。
一方で、持ち時間が相手より少なくても、冷静に相手の王様を詰ませれば勝ちなわけなので、焦らず時間内に相手を詰ますことを考えることも重要になる。私にはそんなことはできないので、必然的に時間でプレッシャーをかける側になることが多い。
ただし、相手より時間を多く残すという事は序盤戦で相手よりも速く指していなければならず、そこで致命的なミスを犯してしまえば、時間切れを待たずして普通に負けるということになるので、そこは注意が必要である。
さて、そんな2切れであるが、一番気持ちよい勝ち方はどれか。これは人によって答えが違うと思うが、私の場合は、相手が勝勢になったが、あと1手でこちらが詰まされるというような局面で、相手に時間切れ勝ちをすることだ。
書いていて我ながら性格が悪いが、そのときの心拍数と勝った時の快感と言ったら他に類を見ない。もちろん、普通に相手を詰ませて勝つのも楽しいし、普通に時間切れ勝ちをするのも楽しい。勝っているだけで楽しいのだけれど、やっぱり一番は不利になった局面から時間を頼りに粘って粘って時間で勝つというのに限る!!
普通の将棋ではあまりに不利になってしまったら、基本諦める=投了するしか選択肢がないが、2切れの場合は違う。どんなに形勢が悪くても、相手の時間が無くなった時点でこちらの勝ちなのだ。
だから、相手にちょっと目障りなところに歩を打って相手の時間を使わせるとか、守りを固めて時間を稼ぐとか、焦った相手が気が付かないのを見越して、遠くから大ゴマを取るような角を打っておくとか、いろいろな仕掛けをすることで少しづつ勝ちに近づくことができるのだ。
そして最終手段は、連続無駄王手だ。王手がかけられた場合は、かならず相手はそれに対応しなければならない。それを逆手にとって、すぐ対応されるような無駄な王手でも、王手し続けることで相手の時間を減らすことができるのだ。
特に、次の1手でこちらが負けることが確定している状況で、しかし自分にはまだ王手がかかっておらず、相手の持ち時間がひっ迫しているといった場合は、これが非常に有効だ。特にこちらが多くの時間を残している場合には、慌てずランダムな時間で王手をかけてみることで、相手は対応が遅れてそのまま時間切れということもままある。非常に性格が悪いともいえるが、それでもそういうルールのゲームであるから何も悪いことはない。
こういうことをやっているから、というかこういうことが可能だから棋力の向上にはつながらないというのは事実かもしれない。しかし、もはや将棋ではない、ネオ将棋のようなゲームだと考えれば、これもまた面白いゲームだと思う。何よりほんのスキマ時間にできるし、ソフト指しの心配もない(ソフトを見ながら指したらあっという間に時間切れになるから)。
今日も5切れ、10切れと比べて、異次元に高い私の2切れのレーティングをさらに上げるべく、今日も2切れを指していく。