和歌山県紀の川市「藤井の里くらぶ」で援農体験した話②
民泊「里庵 紀の里」は、畑のど真ん中にあると述べたが、そのおかげで車の往来がまったくと言っていいほどない。
夜になると、辺りの街灯もほとんどないため真っ暗な世界に包まれ、「シーン」という音が聞こえるほどの静寂が訪れる。
朝になれば、宿舎には西日が差し込み、周りの畑の様子が明らかになるのだが、朝露が白菜や大根の葉の表面に付着している様子や野鳥が木々に降りたつ姿もとても美しい。
遠くを見れば、すっかり茶色に褪色した山々が聳え、その背後には満天の青空が層をなしている。手前には枝のみになった梅や柿の木が一面に生えており、のどかな雰囲気が漂っていた。
そして、そのような景色を眺めながら、豆から丁寧に抽出した珈琲を飲むというまったりした時間は、贅沢という以外に言葉は見つからないのである。
3日目:雑草駆除、キウイの選別
3日目は天気が芳しくなく、雨が降る予想だったため、ハウスでの作業から開始することになった。
この日担当してくださった農家さんは、藤井の里くらぶの会長さんだった。
作業自体は、ハウス内の雑草駆除だったのだが、この会長さんの農業に対する姿勢や熱意が半端なく、作業前の談話が1時間以上にも登り白熱した。
参加者の3人ともその話が面白く、各々分からないことを質問するのだが、会長さんが即答してくれるので、話題をいくつも変えながらラリーが続いていった。
話の中で印象的だったのは、会長さんが10代の頃にお父さんを亡くし、その後継ぎとして言わば流れ的に農業に関わらざるを得なかったようなのだが、周りの大人たちもライバルであるため、容赦もなしに厳しかったということである。
今の時代でいうところのパワハラのような、そんなレベルのものではなかったらしいのだが、おかげで鍛えられた部分もあったのだと言う。
その根底にあるのは、プライドの高さや負けず嫌いな性格と仰っていたが、果物の品質には並々ならぬ拘りがある様子だった。
そう語る理由には、いつも年賀状で購入者から便りが届くらしいのだが、「ここの不知火以外は食べれません。」と言ってもらえるので、その信頼を裏切るわけにはいかないという想いがあるからとのことだった。
僕はそれを聞いて、農家というのは職人でもあるのだな感じた。それは、ある種自分を信じているようにも見受けられ、譲れない拘りがあるということは、揺れ動かない太い幹のようなものが見えないところにあるのだろうと感じた。
途中、少しお年を召してはいるが、元気なおじいさんが挨拶にやってきたのだが、会長のお父さんと同級生の方だったらしく、齢95歳なんだそうで一同驚愕した。
その後、ハウス内の雑草駆除もひと段落し、前日に梅の木の剪定でお世話になった農家さんも合流し、キウイの選別作業をお手伝いすることになった。
キウイの選別作業は、サイズ、形、傷、硬さなどによって判別するのだが、この日は農協に出荷する用のものを分類した。
量にすると 15ケースと結構な量のキウイを選別したのだが、家守さんと農家さんも併せた 6人で作業したので、1時間強で無事終了した。
宿舎に戻り、昼食をとった後、参加者さんの一人と雑談する機会があった。この方は、以前サラリーマンをされていたのだが、すでに退職し、プライバシーのため詳細は省くが、個人事業主として活躍されている様子だった。
また、サラリーマンの時代には海外にも頻繁に出張されたご経歴もあるようで、それ以外にも旅好きの一面があるとのことで、境遇が似ていたこともあり、東南アジアの話で盛り上がった。
そんな話の中で、マレーシアという国が良かったという情報を教えてくれ、僕は代わりにタイのチェンマイを推奨したのだった。お互いに東南アジアの話をする相手がいなかったようで、予期せぬ出会いに嬉々とした時間を過ごすことができた。
そんな人生の先輩から、こんな言葉を頂いた。
「○○さんは、行動されてはるから、きっと大丈夫っすよ」
とても、ありがたい言葉だった。
外出:かつらぎ温泉 八風の湯
その日の晩は、コーディネーターさんの提案で伊都郡かつらぎ町という所にある「かつらぎ温泉 八風の湯」に宿舎全メンバーで外出した。
大阪方面から紀の川市に来る途中には、犬鳴山温泉というのも有名だと教えてもらったが、かつらぎ温泉 八風の湯も近隣では有名な温泉施設のようだった。
地方料金なのか分からなかったが、700円という破格の値段で温泉を満喫できてしまった。サウナにも入ったが、水風呂が冷たく、凍えるかと思った。
帰り道では、粉河寺という有名なお寺の前を通過したのだが、岩出市にも根来寺という立派なお寺があるとのことだった。
俺:「根来寺...?」「どこかで聞いたことがあるような...」
そういえば、岩出市にあるスパイス食堂 javajava さんで働いた最終日に、先生から「観光する時間がなかったから、根来寺とか寄ってみる?」と尋ねられたのだが、僕は「寺」のイメージがあまり湧かず、すっかり満足していたこともあって、さっさと帰ってしまったのだった。
粉河寺も根来寺も素晴らしい名所なので、次回行く際は訪れたい。
4日目:レモンの摘果、選別
4日目も天候が悪く、ハウスで育てたレモンの摘果作業を手伝うことになった。
写真からも分かるように、立派なレモンがジャングルのように生い茂っているので、木の中の方は摘果しにくい。
摘果のコツは、いきなり枝元にハサミを入れるのではなく、少し上部から切り落とし、手元で枝元を除去するという 2段切りがおすすめである。このようにすることで、身をハサミで傷つけてしまうことを防げると教わった。
この日の農家さんも、これまでとは違った話をしてくれたのだが、遊休農地の問題が興味深かった。
日本の農地法では、農地は農業目的で使用することが前提となっており、放置された農地が自治体から「遊休農地」として認定されると、改善命令を受けることもあるのだそうである。改善しない場合は、農地を収用されたり、固定資産税が増加したりするリスクがあったりするのだが、高齢化の問題で農地自体はたくさん余っているとのことだった。
また、空き家もかなりあるとの話だった。空き家バンクなどに登録されることもなく、地主が囲い込んでしまっている家が多く、流通に乗らない空き家が増えているんだそうである。
地域活性のためには、空き家を有効活用し、若者が住んだり、お店ができたりという風に賑わってほしいようだが、家族で住んだ思い出などもあるようで、なかなか難しい問題だと率直に感じた。
レモンの摘果作業が終わると、簡単に選別作業について教えてくださった。選別作業は、音声式重量選別機「分太Ⅱ」という機械を使って行うのだが、レモンが入った状態のケースを「分太Ⅱ」に乗せ、そこから1つずつレモンを取り出すと、「M!」とか「S!」とか「規格外!」などのように重量差によって「分太Ⅱ」が喋ってくれる。
我々人間は、「分太Ⅱ」の指示通りに選別していくのだが、小さいレモンばかりを取ってしまうと「規格外!規格外!規格外!」と言われてしまうので、少々人間否定された気分になってしまうのだった。
5日目につづく...