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柴犬 秘薬を持つ
先日夕食で鍋を食べていた時、食べ始めてしばらくして強烈に胃が痛くなった。痛みが背中にも回り、身体が真っ直ぐに保てない。背中の痛みから狭心症の発作も疑った。ニトロはあそこにしまってある。でもどうやらちがう。
取り敢えず椅子から降りて、どうにかクッション頭に海老のように身体を曲げて横になる。
その時、私のこの様子を部屋のどこかで見ていた柴が、音もなくすーっとやって来て私の手を舐め始める。両手の甲を丁寧にくまなく舐める。野生の何かがそうさせるようだ。見れば母犬の顔をしている。
以前通っていたしつけ教室のトレーナーさんが言っていた。「 犬の口は人間で言うと手です。舐めることは撫でること、咬みつくことは叩くこと。」
なるほど。
いつもうちの子は私が痛みなどで横になると決まってその行動をとる。
またひどく気持ちが落ち込んで膝抱えて座っていたりする時も手や顔を舐めにくる。
そう、よしよしをしに来る。
今回は急に倒れ込んだので、柴はこれはおおごとだと見た。いつもより勢いづいている。そのうち足を踏ん張って物凄い勢いで顔を舐め始めた。ざらざらぬるぬる。鼻がくっつき、髭が刺さる。苦しい。
私は顔を舐められるのは得意でなく、感染症のこともあるので、口元を舐められるときは顔を逸らせてやり過ごすか、もしくは犬のやさしい気持ちに答えるために、避けながらも一通りざっと舐めてもらってから顔を洗いに行くことにしている。
胃が痛くて動けず、されるがままに。
何とか耐えて、後で這ってでも顔は洗いに行けばいい、と息を止めていた。
もういい加減長く舐められたので、私は立ち上がった。柴を残して、胃を押さえ身体をくの字に曲げ洗面所へ。顔を洗った。キレイキレイで。
リビングに戻ってくると、何だか胃の調子が少しよくなっている。背中に軽い痛みが残っている程度だ。
人類の進化のように段々身体が伸びてゆく。
何が効いたのか、それはわからない。
舐められることにより「幸せホルモン」オキシトシン大量分泌か、又は息を長く止めていたことで使った腹筋で痛いところを引っ張って元に戻したのかもしれない。
*犬のだ液は医薬部外品です。
それから少しすると、すっかり胃は治り、私はその日野菜の直売店で買って来た大きなおはぎをひとつ食べたのである。
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短歌 ∥∥∥
お散歩の
時間になれば知らぬまに
うしろでヨガのアップドッグ
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