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「東京の街を歩く、同じ景色同じ思いを共有する~『トーキョー・クロスロード』~」【YA⑨】 

     『トーキョー・クロスロード』 濱野 京子 作 (ポプラ社)
                          2017.4.28読了
読んでいてとにかく切ない。読み進めるうちに、学生という現役から相当な年数が経っている私でも、主人公・栞の思いにキューンとさせられっぱなしでした。
 

高校生の栞は、中学生の頃からクラスメートみんなから頼りにされ慕われ、委員長をしていた女の子です。
でも、中学校生活も終わりになろうとしていたある日のとある事件をきっかけに、高校生になり、休日になるとみんなが知っている自分とは別の人物になって(変装して)、ダーツで決めた山手線の一つの駅から降りて、気の向くままに歩き回っています。
そして気になる景色や物があったら、ケータイで写真を撮るという秘密の遊びをやっているのです。
 
ある日、その事件を起こした当事者・月島耕也といつもの散歩中にばったり出会ってしまいます。
忘れたくても忘れられない、心の奥で、出会いたいと密かに思っていた人物だったのです。
その日から、耕也は自分だけの遊びだった街の散策に、勝手に入り込んできて、知らない街を案内しろと言うのです。
 
耕也は、特別ハンサムではないのに、どことなく気になる存在。(栞の母に言わせれば、女好きするやや危険な雰囲気の人間だそう)
痩せ型の背中の肩甲骨を、つい触ってみたくなる衝動にかられる栞。
 
しかしそんなちょっと他人が聞いたら変だと思われることや、自分の、耕也に会うときの気持ちの高揚など絶対に知られたくないと思っています。
クラスメートや耕也にまで、本当の気持ちを隠してクールな女の子を演じてしまう栞なのでした。
 
そんな折、同じ高校で留年をして同学年になりクラスで浮いている河田貴子と青山麟太郎を栞は放っておけなくて、親切にしているうちにふたりの秘密も知ることになるのです。
 
また、耕也ともお互いに各々の気持を自分で消化できなくて、素直になれないふたりでした。
栞の母親が口ずさむ、往年のヒット曲「フィーリング」の歌詞がぐっと心に迫る、とある夜の切ない事件。
 
麟太郎が参加しているジャズバンドと、演奏しているジャズ喫茶との交流。
いつもいっしょにいて安心できる居場所であるクラスメートとのおしゃべり。
貴子の留年は結婚と出産のためだったという衝撃の事実に驚きながらも、彼女の断固たる決心と覚悟に尊敬の眼差しさえ向ける栞…などなど。
耕也と再開してからのドラマティックな展開に、少しずつ素直な自分を取り戻そうとする栞でした。
 
 


田舎者の私には、東京の地理的なエピソードや名所旧跡も出てきて、ややピンと来ない部分もありながら、地名や駅名などはどこかで聞いたことのあるものばかりです。
東京や近辺に在住の人たちには、とても身近に感じるだろう栞と耕也の街角探検隊の、聖地巡礼でもしたくなるかもしれない楽しさがあります。
 
同じものを見て、同じように感動したり同じように疑問をもったり、どこか心のなかで通じ合える運命の人のような存在は、以前(自分の高校生時代だから、はるか昔)読んだ大好きだったある少女漫画にも出てきて、そういう人が自分にもいればいいなと望んだことを思い出しました。
 
栞と耕也は、つながらないようで、やはり自分たちの知らないところでつながっている運命の人なのかもしれません。
第25回坪田譲治文学賞受賞作。


それにしても「フィーリング」という曲、ご存じの方はどれくらいいらっしゃるでしょうか?
私はHi-Fi SETというコーラスグループが歌っていたのを覚えています。
やや切ないフレーズの曲調が大人っぽい雰囲気で、ポップな歌謡曲が多かった当時のヒット曲の中では珍しい感じがしましたが、案外好きでした。
元はモーリス・アルバートというブラジルの歌手が歌った曲だそうです。
どうりでちょっと日本っぽくないなと思ったわけですね。


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