「アメリカ人としての生き方を見つけた日系人たちの苦悩を、私たちは知らない~『マレスケの虹』~」【YA㉕】
『マレスケの虹』 森川 成美 著 (小峰書店)
2018.12.11読了
とてもいい本を読みました。
舞台は第二次世界大戦時のハワイ。主人公のマレスケは日系二世で、普段は「マレ」と呼ばれていますが、本人はこのマレスケという名前があまり好きではありません。
どうやら日露戦争で活躍した乃木希典将軍からとって祖父が名付けたらしいのですが、自分はハワイで生まれアメリカ国籍を持つアメリカ人として生きているので、祖父の考えなどはよくわからないのです。
祖父はハワイで一旗揚げようと熊本から移民として渡ってきた日系一世です。
そしてマレの両親も訳あって日本国籍を持つ一世です。
一世と二世たちとではどこか物事の考え方が違うようで、祖父や、日本語学校や剣道場の先生たちは日本的な考え方を持ち、マレとは相容れない部分が多いのです。
祖父はなにかあると「仕方がないものは仕方がない」とよく口にします。
そんな一世との考えの違いがある中で、戦争は次第に“きなくさく”なっていきます。
そしてついに、パールハーバーで日本軍が奇襲をかけてきました。
その時から日系人は、一世であれ二世であれ、まわりから白い目で見られるようになってしまいます。
二世たちは、「自分たちはアメリカ人でアメリカに忠誠を誓う」との強い意志で、軍隊への志願者が多くなりました。自分たちはアメリカ人だと、見えない壁を越えようとするかのごとく身をもって証明するためでした。
一世たちは貧しくとも苦労して働き、日本にも多くの支援をしてきました。
それなのにハワイでもアメリカのために働いたという自負があるのにもかかわらず、日本からは見放され、アメリカからは敵国人とみなされるという理不尽にあいながらも、「仕方がない」と我慢し続けるのです。
マレは、自分たちだったらその状況を打破する術を探り行動に移そうとするだろうと思うのですが。
そうやって、日系人の志願が予想を遥かに超え日系人だけの部隊が組まれました。
日系人が日本と戦うのか?という悩ましい不安を配慮されたのかはわからないけれども、日系人部隊はヨーロッパへと派兵されました。
マレの兄や姉の想い人が戦地に赴き、戦争が俄然身近になり、自分たちのアイデンティティについて改めて考えることになったマレたち。
日本人の血が流れているけどアメリカ人として生きる二世や三世たちの苦悩をまざまざと知ります。
私もアメリカ本土では戦時中、特にひどい扱いを受けたらしい日系人たちの話は聞いたことがありましたが、ハワイの移民たちの苦しみなど想像すらしたことがありませんでした。
新しい視点で描かれ、しかし実際に起きていたハワイの移民たちの戦時中の生き様を知ることができる本です。
若い世代にはきっと考えられない世界が、考え方が、実際にあったのだとぜひ知ってほしいと思います。