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荀子 巻第二十哀公篇第三十一 7 #1

 定公、顔淵に問いて曰わく、子も亦た東野子の善く馭することを聞くやと。顔淵対えて曰わく、善きことは則ち善し。然りと雖も、其の馬まさに失(逸)せんとすと。定公悦ばず。入りて左右にかたりて、君子ももとより人を讒するか、と曰えり。三日にして校の来たり謁して曰わく、東野ひつの馬失し、両しん(裂)けて、両服のみうまやに入れりと。定公、席を越えてちて曰わく、すみやかに駕して顔淵を召せと。

(金谷治訳注「荀子」岩波書店、1962年)

失→にげる。
謂→言う。語る。述べる。告げる。
固より→言うまでもなく。もちろん。
讒→そしる。悪口をいう。中傷する。傷つける。告げ口する。
校→⑩つかさ。官。⑫軍士。将帥。
驂→そえうま。四頭立ての馬車の外側の二頭の馬。
列→①わける。列は分解也。⑪さける。⇒裂。
服→④車をひく馬。四頭だての馬車で、中にはさまる二頭の馬の称。
趨→速い。急いで。速やかに。
駕→牛や馬に車をつける。
召→めす。呼び寄せる。呼び出す。
拙訳です。
『定公が顔淵に質問した、「あなたもまた東野子が上手く馭すると聞いているか。」と。顔淵が答えて言った、「上手いことは上手いです。そうではありますが、彼の馬は今にでも逃げようとするでしょう。」と。定公は不愉快であった。(朝見の間から)部屋に入って左右の者に「立派な人でも、やっぱり他人を中傷するのだろうか。」と。三日後に馬の管理官が拝謁に来て、「東野畢の馬ですが、四頭立ての馬車の外側が裂けて二頭が逃げ、内側の二頭のみが厩舎に入りました。」と報告した。定公は、驚いて飛び上がり席を立って「急いで車に馬をつけて顔淵を呼び出せ。」と命じた。』

 顔淵至るや、定公曰わく、前日、寡人の吾子に問えるとき、吾子は、東野畢の馭は善きことは則ち善し、然りと雖も其の馬将に失せんとす、と曰えり。識らず吾子は何にりてこれを知るやと。

(金谷治訳注「荀子」岩波書店、1962年)

識→しる。(イ)みとめる。「認識」。
拙訳です。
『顔淵が到着すると、定公が、「先日、私があなたに質問した時、あなたは、「東野畢の馭は上手いことは上手いです。そうではありますが、彼の馬は今にでも逃げようとするでしょう。」と、答えた。分からないのだが、あなたはどうしてこの事を知れたのか。」と言った。』

定公が、君子といわれる顔淵に「東野畢の馭の上手さを知っているか。」と尋ね、顔淵は「彼は上手ではありますが、近々馬に逃げられるでしょう。」と答えます。顔淵と別れた後、定公は近侍の者に「君子でも他人の悪口を言うんだな。」と冷めた評価を漏らします。しかし三日後に馬の管理官から、「東野畢が馭す馬が逃げ出しました。」との報告を受け、愕き慌てて顔淵を呼び出し、「どうして東野畢が馬に逃げられることが分かったのか。」と質問します。さて、顔淵の答えは。
続き次回とします。

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