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荀子 巻第二十堯問篇第三十二 4

語に曰わく、繒丘そうきゅう封人ほうじん、楚の相の孫叔ごうまみえて曰わく、吾れこれを聞けり、官にること久しき者は士これをねたみ、禄の厚き者は民これを怨み、位の尊き者は君これを恨むと。今、相国は此の三者をたもてるに、而も罪を楚の士民に得ざるは何ぞやと。孫叔敖曰わく、吾れ三たび楚に相たるも心は癒々いよいよ卑く、禄を益すごとにして施は癒々博く、位は滋々いよいよ尊くして礼は癒々恭し。是のゆえに、罪を楚の士民に得ざるなりと。

(金谷治訳注「荀子」岩波書店、1962年)

語→ことば。文句。成句。ことわざ。物語。
繒→⑥昔の国名。
封人→ 国境を守る役人。また、くにざかいに住む人。
相→🈔⑨宰相。大臣。君主を補佐して政治を行う執務官。
相国→宰相。もと秦代の官で、丞相じょうしょうの上に位したが、後、丞相をも称した。
孫叔敖→中国春秋時代の楚の公族、令尹。姓は羋、氏は蔿、諱は敖、または艾猟、字は孫叔。蔿賈の子。
癒→🈪②まさる。すぐれる。⇒愈。
卑→②ひくい。(イ)態度がへりくだる。
博→ひろい。広く通じる。広く行きわたる。
滋→いよいよ。ますます。
拙訳です。
『古い説話にこうある。繒国の丘・国境を守る役人が、楚国の宰相である孫叔敖と会見したときに、「私は、官職に長い期間就いている者は士から妬まれ、俸禄が高いものは民から怨まれ、位階が高いものは君主から恨まれると聞いています。今、宰相はこの三つに該当しますのに、それでも楚国の士や民から罪をきせられないのは何故でしょうか。」と尋ねた。孫叔敖が答える、「私は三度楚国の宰相となったが、その度ごとにますますへりくだり、俸禄が増えるごとにますます施しを広く行き渡らせ、位階が高くなるほどにますます礼をうやうやしくした。このようにして私は楚の士や民から罪をきせられないでいるのだ。」と。』

『あいつ、いい思いをしているな。』と勘繰られると世間はバッシングに走ります。いい思いとは、役得のある職務だったり、高給だったり、強い権限だったりです。変な勘繰りを避けるためには、得られているものに比例させてより多くを返していく、還元していくことだという説明です。
富豪が慈善活動に力を注ぐ、今にも通じることです。

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