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荀子 巻第二十哀公篇第三十一 5

魯の哀公、孔子に問いて曰わく、紳・委・章甫は、仁(人)に益ありやと。孔子、蹴然しゅうぜんとして曰わく、君んぞかくのごときや。資衰しさい苴杖しじょうする者の楽を聴かざるは、耳の聞くこと能わざるに非ず。服の然らしむるなり。黼衣ほい黻裳ふっしょうする者のくんくらわざるは、口の味わうこと能わざるに非ず、服の然らしむるなり。且つきゅうはこれを聞けり、あきないを好む者はせつ(閲)を守らず、長者はあきないを為さずと。其の益あると其の益なきとを(察)れば、
君、其れこれを知らんと。

(金谷治訳注「荀子」岩波書店、1962年)

紳→大帯。高位の人が礼装に用いた太い帯。
委→⑧周代の冠の名。委貌。
章甫→殷の儀礼の冠。
蹴然→恐れつつしむさま。恐れて安んじないさま。
胡→なんぞ。なに。疑問を表す。
然→①しかり。(ウ)そうである。・・・のようである。
資衰→(注より)楊注は、「資」は「斉」と同じという。斉衰は一年の喪に着る喪服。
苴杖→喪中に用いる黒色の竹の杖。
然らしめる→そのような結果にさせる。そうさせる。
黼衣→黒と白の糸で斧の模様をぬいとりした礼服。
黻→弓の字を二つ背なか合わせにした形の古代の礼服の模様。
裳→も。もすそ。したばかま。腰から下にまとう衣服。
葷→にんにく・にら・ねぎなどの臭いの強い野菜。からい野菜。
茹→食う。野菜を食べる。
肆→(29)みせ(店)。いち(市)。
折→⑤へる。へらす。欠損する。⑥さしひく。わりびく。また、わりびき。
長者→②徳のすぐれている人。また、穏やかな人。
竊→⑥あきらか。あきらかにする。
拙訳です。
『魯国の哀公が、孔子に次の質問をした、「礼装用の太い帯である紳や、周代の冠である委、殷代の冠である章甫は、有益なのか。」と。孔子は恐れ不安な様子で言った。「どうしてそうなのですか。喪服の斉衰を着、喪中用の杖である苴杖を使う者が、音楽を聴かないのは耳が聞こえないからではありません。服装がそうさせているのです。上下礼服を着る者が臭いの強い野菜を食べないのは、口が味わうことができないからではありません。服装がそうさせているのです。加えて私(=丘)はこう聞いています。市での取引を好む者は損することをせず(好む者以外の人が損をしています)、(だから)徳のある人は市での取引をしないと。それが有益であるかそれが無益であるかは明らかであり、君も、それ(無益と思われる紳・委・章甫)がこれ(有益となること)をお分かりになるでしょう。」と。』

魯国の哀公が孔子に、「礼装用の太い帯や喪服、喪につかう道具は役に立つのか?」と質問し、孔子が、「喪服を着ているからこそ身を慎み音楽を聞かないようにしているのであり、喪服を着ているからこそ身を慎み臭いの強い野菜を食べないのです。服装が行動を抑えているのであり、服装が有益な事はお分かりになるでしょう。」と答えています。
確かに喪服は厳粛な気持ちにさせますし、逆にウェディングドレスは華やいだ雰囲気を高めてくれます。服装の役割は大きいと思います。その一方で、中学生の時に、坊主頭に詰襟の学生服という厳しい校則があり、教師から頭髪や服装の乱れが不良の始まりと言われていたことをすこし苦く思い出しました。また、うだうだ考えます。

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