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荀子 巻第七王覇篇第十一 1 その4

前回は、義を立てれば王者になれるという具体的な説明でした。
続きです。

徳は未だに至らずと雖も、義は未だらずと雖も、然れども天下の理は略奏ほぼあつ(聚)まり刑賞已(否)諾は天下に信ぜられ、臣下は暁然として皆な其のちぎ(約)るべきを知り、政令すでつらぬれば利敗をると雖も其の[国]を欺かず。

(「荀子」岩波文庫 金谷治訳注)

理→①ことわり。物事のすじみち。
暁然→はっきりとわかるさま。
要→②いる。入り用である。もとめる。
陳→①ならべる。つらねる。②のべる。告げる。申したてる。
利→②よい。役に立つ。つごうがよい。つごうよくする。
敗→③しくじる。やりそこなう。
拙訳です。
『徳はまだ十分に備わっていなくても、義まだ十分に成し遂げられていなくても、それでも天下のことわりはほぼ集まり刑罰褒賞の判断は天下に信じられ、臣下は皆はっきりと求めるべき人であることを理解し、政策命令がすでに開陳されていれば、良い事もあればしくじりもあるとは言え国を欺くことはない。』

くの如くなれば則ち兵はつよく城は固くして敵国もこれを畏れ、国は一に(極則)は明かにして国もこれを信じ、僻陋へきろうに在るの国と雖も威は天下を動かさん。五是れなり。

(同)

極則→法則の極致。
国→助け合う関係にある国。同盟国。
僻陋へきろう→都を遠く離れた僻地で、風俗などの卑しいこと。 いなかびていること。
拙訳です。
『このようであれば兵は強く城の守りは固くなり敵国も恐れ、国は一つになり法の極致を明らかにし同盟国もこれを信じ、遠方にあり文化の低い国に対してもその威厳は届き天下を動かす。春秋時代の五覇と言われる人々がこれである。』

政教に本づくに非ず隆高をきわむるに非ず文理をきわむるに非ず人の心を服するに非ず、方略にむかい労佚をつまびらかにし蓄積を謹しみ準備を脩め、齺然さくぜんとして上下相い信じて天下これに敢えて当るものなし。故に斉の桓[公]・晉の文[公]・楚の荘[王]・呉の闔閭こうりょ・越の句践こうせんは是れ皆僻陋の国なるも、威は天下を動かし彊は中国を殆(危)うくせるは它(他)の故なし。ほぼ信なればなり。是れ信の立てば而ち覇たりと謂いしことなり。

(同)

隆→②さかん。盛んにする。さかえる。
文理→①物事のすじめ。条理。
方略→はかりごと。計略。また、手だて。
労佚→ほねおりと楽しみ。労苦と安逸。
さく→🈔②上下の歯がふれあうさま。
拙訳です。
『政治宗教に基づくものではなく、高く栄えることを極めるものではなく、物事の筋目を極めたものではなく、人を心服させるものではないが、計略に向かって苦労と安逸を明らかに示し蓄積を慎重にして準備を整えて、上下の歯がかみ合うように為政者と民衆が信じあうことで、敢えてこの国と争おうという国はなくなる。だから春秋時代の斉国桓公・晋国文公・楚国荘王・呉国闔閭・越国句践は、彼らは皆僻地の国ながら、威厳は天下を動かし中央の国を危うくさせた。これに他の理由はない。信をほぼ確立したからである。先に、信を樹立すれば覇者となると言ったのはこのことである。』

前回の、義を立てれば王者になれるという説明に続き、今回は信を立てれば覇者になれるという具体的な説明でした。
春秋の五覇か挙げられています。春秋の五覇は実は固定されていなくて、異説があります。五覇それぞれに個性があって面白いのですが、僕の知識は宮城谷昌光の小説です。『管仲』『重耳』『湖底の城』などなどたくさんありますので、もしまだお読みでなければお勧めいたします。

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