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荀子 巻第五儒王制篇第九 16 その7

身を立つることは則ちつね(平常)の俗に従い、事行き則ちつねことしたが(本では二点しんにょう)い、貴賤を進退するには則ちつねの士を挙げ、(其)の下の人百姓に接する所以のものは則ち寛恵をもち(用)う。くの如き者は則ち安存すべし。

(「荀子」岩波文庫 金谷治訳注)

身を立てる→生計を成りたたせる。
事行く→物事がうまく運ぶ。折り合いがつく。納得がいく。
貴賤→貴いことと、卑しいこと。また、身分の高い人と低い人。
進退→③職を辞めるかとどまるかという、身の去就。
寛恵→心が広く情深い。
拙訳です。
『平常の風俗に従って生計を成り立たせ、平常の事に従って事に当り、平常の士を用いて尊卑の職に就かせ、士の下の大衆には心広く情け深く接する。このような者は安心して君の位にいられる。』

身を立つることは則ち軽楛うわつき(悪)、事行は則ち蠲疑ためらいし、貴賤を進退するには則ち佞侻ねいえい(鋭)の人を挙げ、之《そ》(其)の下の人百姓に接する所以のものは則ち取ることを好みて侵奪す。くの如き者は危殆なるべし。身を立つることは則ち憍(驕)暴、事行は則ち傾覆、貴賤を進退するには則ち幽険詐故のものを挙げ、の下の人百姓に接する所以のものは則ち好んで其の死力を用いて而もその功労をあなどり、好んで其の籍斂(税収)を用いて而も其の本務(農事)を忘る。くの如き者は滅亡すべし。

(同)

佞侻→佞侻という熟語は無いようです。佞→②口だっしゃ。③へつらう。おもねる。また、其の人。侻→④ずるい
侵奪→他人の領域や所有などをおかしてその権益・所有物などをうばうこと。
危殆→あやういこと。非常にあぶないこと。また、そのさま。危険。
驕暴→おごりあばれる。たかぶってわがままにふるうこと。
傾覆→くつがえす。または、くつがえる。
幽険→①心がよこしまで奥底のわからないこと。陰険。また、その者。
詐故→いつわりごと。また、いつわり。
死力→死んでもいいという覚悟で出す力。ありったけの力。必死の力。
拙訳です。
『うわついた心で悪事をもって生計を成り立たせ、ためらいながら事に当り、ずるく口達者の士を尊卑の職に就け、大衆に対しては大衆が所有する権益・所有物を奪うことを好んで行う。このような君主は非常に危ないところにある。わがままに振舞って生計を成り立たせ、覆すように事に当り、陰険で偽る士を尊卑の職に就け、大衆に対してはありったけの力を搾り取りしかもその功績・労力を侮り、税収には熱心だが本業の農事を気にかけない。このような君主は滅亡する。』

此の五等の者は善く択ばざる可からず。王・覇・安存・危殆・滅亡の具は善く[これを]択ぶ者は人を制し善く択ばざる者は人より制せられ、善くこれを択ぶ者は王たり善く択ばざる者は亡ぶ。夫れ王者と亡者と、人を制すると人より制せらるるとは、是れ其の相いへだた[隔]りを為すこと亦た遠し。

(同)

善く→念を入れてするさま。十分に。
拙訳です。
『以上の五区分は念を入れて択ぶべきである。王者・覇者・安存・危殆・滅亡の備えについて、念を入れてこれを択ぶことができた者は人を制し念を入れず選べなかったものは制せられ、念を入れて択んだ者は王者となり念を入れず選べなかった者は亡ぶ。この王者と亡者、人を制すると人に制せられるのとでは、その隔たりは非常に遠いものだ。』
最後の訳分の後に、金谷先生は次の文を加えられています。

[だからこそ五つの条件はよく慎重に考慮選択しなければならない。]

(同)

マネをして僕が付け加えると、
『[だからこそ五つの備えは念入りに考慮し選択しなければならない。]』
という感じです。金谷先生は「具」を『条件』と訳されていて、僕は辞書にあった言葉から『備え』と訳してきました。

「王制篇第九 16」を7回に分けて読んできましたが、王者・覇者・安存・危殆・滅亡の五区分の内3つ安存・危殆・滅亡は今回のみで説明が終わっています。王者についての説明が長く、次いで覇者となっていますが、費やされた字数分だけ、学ぶべきことがたくさんあるということですね。自分の訳文を通して再読し、吟味し直さなければなりません。

さて、今回で「巻第五」が終わり、次回から「巻第六 富国(国を富ます)篇になります。

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