読後感想「朝鮮思想全史」(著)小倉紀蔵
日本と韓国の関係は「近くて遠い国」と表現されたりする事がありますよね。僕もこの表現に結構しっくりきています。地理的距離はめちゃくちゃ近いし韓国からはK-popやドラマ、日本からは漫画やアニメなど、文化的な交流は盛んなのにいざ国同士の外交となるとあまり上手くいっていない様に感じます。
そもそも僕たちってあんまり朝鮮半島の歴史について知らない気がします。中国の歴史とかは世界史で大量に習わされるけど、朝鮮の歴史はちょこっとしか出てこなかった気がします。「朝鮮半島の偉人の名前をあげよ」って質問されたらハングル作った世宗か、現代史の朴正煕ぐらいしか僕は思い浮かびません。
ましてや思想史とか全く知りません。この本に興味を持った理由はそういう所からです。この本ではタイトルの通り、古代時代から現代までの思想を一冊で解説しています。だから新書にしてはめっちゃ分厚いです。しかし、著者の小倉さんの解説は分かりやすいし講義調の感じで文章になってるので意外とあっさり読めます。本書によるとそもそも古代においての朝鮮民族っていう括りを決めるのが不可能らしいです。中国と陸続きだし国も今の版図ではなくバラバラでしたからね。
古代には日本の建国神話と似たような檀君伝説というのがあるらしいです。そこからは隣にバカでかい中華王朝があるわけですから、いやでもそこからの文化的影響を受けます。日本との違いは日本の場合は中国から文化の影響を受けてもある程度時間が経ったらいつの間にか日本風にアレンジされているけど、朝鮮の場合は結構そのまま純度を保ったまま維持されているという事です。
自分たちよりも巨大な中華王朝と外交するにあたって、儒教に精通していることは重要だったのかも知れません。こういう事情があるからこの本、途中から儒教と朱子学の解説がめちゃくちゃ長くてそこは読み飛ばしちゃいました。個人的に興味を引いたのはキリスト教についてですかね。現代の韓国では何と人口の4分の1がキリスト教徒らしいです。日本は総人口の1%未満ですからえらい差です。
日本統治下時代から独立にかけてキリスト教が大きな影響を与えたらしいです。面白いのが日本のキリスト教は旧御家人をはじめとしたインテリ層に布教されてきたのに対して、朝鮮では庶民向けにカトリックが布教されてきたから日本のキリスト教信者人口よりも多くなったと考えられています。後、李氏朝鮮時代に仏教が徹底的に弾圧されてしまったから、それに変わる民間宗教としてキリスト教が入り込んだとも考えられます。日本の場合は民間宗教としての仏教や神道は根強く残っていますから庶民にキリスト教が受け入れられなかったのかも知れません。
この本の良いところは思想だけでなく、時代背景もしっかりと書かれているため何でその思想が流行したか、何が起源なのかが明快に分かるところが良かったです。参考文献も豊富に掲載されいるので、気になった時代や思想については更に深めていくのも良いかも知れません。
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