愴明

【音楽家・芸術家】 別アカウントにて、自作の怪談をnoteに綴っております→@soumei369k

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マガジン

  • 【小説】胸躍るままにブルースを

    オリジナル純文学 小説『胸躍るままにブルースを』

最近の記事

【エッセイ】アノ娘の涙とラッツ&スター

涙を流せる若さは美しい。 そばで女の子が泣いている。時折肩を上下に、声を抑えきれず、泣く。泣く。 ハンカチを濡らせば尚美しい。 私にはもうその澄んだ雫はない。 憧れ、見惚れ、訝る程の、その美しさ。 アコースティックギターの音色が合うだろうか?いや、ベタすぎて粋にかける。 ワインは白が良い。シャルドネでは華やかすぎる。リースリングとまではいかないが甘味が彼女を慰めてほしい。 だけどもその甘味は慰めとなれど彼女の傷までは癒してくれない。 ならば音楽はより暖かく、夕

    • 【エッセイ】陰翳にサヌカイトの音色を

      朝起きて窓の外が曇天である事を、残念に思った最期は何時であったか?

 
2024年7月13日


 本日から三連休と云うが、生憎お天気は世間に味方をしないようであるが、湿気のむさ苦しさと早朝の冷たい風、そして曇天という三味を逃す訳にはいかぬと私は早速風呂を炊いた。
 風呂の温度は41度、灯りをつけずに風呂の窓を開ける。
 

未だ世が動く前の外は静かで、仄暗い風呂で緩い湯に浸かり陰翳に淀む水面を見ながら虫の音を聞くひと時は日常の疲れを根本から癒してくれる。
 湯を

      • 【エッセイ】ロングバケーションに憧れて

         2024年7月10日 
 
関東はよく晴れている。予報によると今日も30度を超えるらしい。 
 
朝、いつもより薄着で歩いてみても、いつもより汗ばむ。 
こんな夏の様な晴れた日は、甘すぎないサイダーが飲みたい。
 
  
その時にかける音楽は何だろう、意識して選ばなければどうせ私のことだ、きっと大瀧詠一のA LONG VACATION』を選ぶだろう。
 
 
午前中に一通り聴いて、夕方に『恋するカレン』をもう一度聴こうか。時間によるけども、その時にはさっぱりしたクラ

        • 【音楽評論】邦楽史における2000年代J-POPの価値

           音楽に惚れ込んだ13、14歳頃から今まで製作をしない時など無かったが、近頃はその流れを意識的に塞き止め好きな小説を読んだり未知の音楽の歴史や知識を摂り入れる日々を過ごしている。 特に以前から気になっていた邦楽の歴史を学び、各年代に自分なりの価値づけを行っている中でひとつ気がかりが生まれた。 私が青春を過ごした2000年代の価値だ。 例えば邦楽史における2000年代、続く2010年代は"暗黒時代"と称されることが多い。 蔵人が唸る所謂"実力派"なミュージシャンはチャー

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        • 【小説】胸躍るままにブルースを
          14本

        記事

          久々に漫画に感動を覚えた話『音盤紀行』/毛塚了一郎

           僕は近頃の書店にある漫画コーナーが嫌いだ。というより現世の色々を頭から嫌う典型的なオッサンだ。その中でも特に漫画コーナーは久しく寄り付かなかった。 いつからか、漫画コーナーの平棚には、絶対ありえないスタイル(童顔+巨乳+細)の女子ばかりが過剰にキラキラして描かれ、不安定な青少年の興味を引く様な質の悪い麻薬みたいなタイトルがデカデカと書かれた漫画ばかりがこれでもかと並ぶようになった。表紙だけでいっちょ前のエロ同人かと言いたくなる。 サブカルだったはずの漫画に商業が絡みつき

          久々に漫画に感動を覚えた話『音盤紀行』/毛塚了一郎

          ケルアックの『路上』に人生を重ねて~あとがき『胸躍るままにブルースを』~

           約1か月間をかけて、自身の処女作 『胸躍るままにブルースを』(以下、胸ブル)を投稿し終えた。少ないながらも読んで「いいね」を下さった皆様、ありがとうございました。 本作のベースを書き上げたのは2015年頃、その後チョコチョコと修正したり書き加えたりをし続けた。  胸ブルはフィクションでもありながら、90パーセントは実話と言っても過言ではない。主人公の仁は正に自分のことだし、作中に登場する仁が所属するバンドや、その他のメンバーも、彼女の麻里もモデルが存在する。過去にわたし

          ケルアックの『路上』に人生を重ねて~あとがき『胸躍るままにブルースを』~

          胸躍るままにブルースを_13(最終話)

          八 仔牛のブルース  あれから三年の月日が経ち、猿楽は長らくイギリスに発つことになった。  バンド活動が終わってから猿楽は頻繁にイギリスへ行くことが多くなった。ボンゾーが脱退について話をしてくれたライブの入場曲で流したザ・ストーン・ローゼズの大ファンである猿楽は、彼らのライブを本場で観たいという一心でチケットを手配し、これまでに三回海を渡っている。 一回目の渡航時に空港の喫煙所で偶然出会った、同じくザ・ストーン・ローゼズの大ファンである紳士と意気投合し、二回目の渡航から

          胸躍るままにブルースを_13(最終話)

          胸躍るままにブルースを_12

          七 天国の扉を叩け_02 ―「何度も同じこと言ってないで、質問に答えろよ、って何度言わせるんだよ・・・」  無機質な小さなデスクと白いテーブルライトしかない6畳半に、溜め息と哀しみが入り混じったぼやきが漏れる。 こうなってくると最早コメディだ。事情聴取でボケ続ける相手に刑事がひたすらツッコミを入れ続けるコント。何度も繰り返されるボケが麻薬的に嵌り笑いを誘う。しかし相方の演技がシリアス過ぎるのが唯一の難点だろう、怖すぎて笑えない。 ボケの警官は魂が去った抜け殻の様子で同

          胸躍るままにブルースを_12

          胸躍るままにブルースを_11

          七 天国の扉を叩け _01  あまりに賑やかで輝かしい十二月のワンダーランドから逃げ出す様に、僕は左後部座席のドアが開かない軽自動車に乗り込みキーを回した。 ヒーターの効きが弱いので、予め首に巻いておいたマフラーに気をつけて口に咥えた煙草に火を点けた。三年以上止めていた煙草に少しの緊張を持っていたが、案外何事もなく、片方の手でハンドルを回しながら慣れた手つきで煙を吹かした。 忘年会と称し、就職とともに沖縄へ行ってしまった友達が地元へ帰ってくるというので、一ヶ月前、川を暢

          胸躍るままにブルースを_11

          胸躍るままにブルースを_10

          六 ユアソング  「もう言い訳をするつもりはないわ、本当はずっと寂しかったの。すごく。毎日ではないけれど、バンドの練習がある時、絶対にそれが優先でしょう? 私がどんなに仕事で苦しい思いをして、耐え切れず泣き出してしまいそうな時だって、仁は遅くまで帰って来なくて、仲間と賑やかな時間を過ごしていると思うと、まるでこの世に一人ぼっちで置いていかれたような錯覚に陥るの、本当よ。しかも今のバンドになってからはあんなに可愛い女の子が一緒だなんて・・・、あなたを心底信用していても、気が気

          胸躍るままにブルースを_10

          胸躍るままにブルースを_09

          五、チョコレート  ライブの次の日、成田にある馴染みのレストランでランチ反省会を催している時にボンゾーは脱退宣言をした。美優は寂しさからか泣いていたが、川畑と猿楽はあまり驚いた様子もなく、静かに受け止めていた。  その後も変わらずに毎週水曜日のスタジオでの練習をこなし、月一回の土曜日のライブを三回やり、季節はすっかり冬にさしかかろうとしていた。街では来月の本番に向けて着々とクリスマスの装飾の始まり、早い所ではイルミネーションが灯り、優しいオルゴールの様なメロディが流れ始め

          胸躍るままにブルースを_09

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          四、グッド・リダンス  僕の話を少々。  僕は特徴も無い一般家庭に長男として生まれ、バブル期に入社した空港職員の両親の元で、少しばかり裕福な、でも金持ちでは決してない環境の中で育った。 おかげで欲しいものはある程度買ってもらえたし、好きなこともある程度やらしてもらえた。ある程度勉強もやらせてもらえて、偏差値と競争率がある程度高い学校に入り、ある程度女の子にモテた。  そんな柔らかな環境がそうさせたは不明だが、確かに覚えているのは高校生の頃の十五歳、僕は心に一生抱える“

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          三、胸いっぱいの愛を_02  三階の楽屋から下りてきた三人と、軽く食事をしに外出しようという話になった時にボンゾーが僕を呼び止めた。表情を察した僕は他の三人に「ボンゾーと話したいことがある」と言って楽屋に戻ることにした。 ボンゾーはライブハウスのスタッフに頼んで買ったのだろう、ラウンジのバーカウンターにある小さな冷蔵庫で冷えている瓶のコーラを僕の前に置いて隣に座った。楽屋には淵に沿って丸いランプがたくさん付いてる大きい化粧鏡が三つあり、それをお互い目の前にして並んで座って

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          三、胸いっぱいの愛を_01  コーポラビッツのベーシスト猿楽と僕は馬が合った。 もともと好きな音楽が似ていて話が弾むというのがその理由だと思うが、一番有力なのは、お互いにビートルズが大好きだからだろう。普段からライブ当日はよく楽屋やオープン前のライブハウスのラウンジで尽きることなくお喋りをしていた。  ちなみに、僕は麻里と朝帰りでアパートに戻り、急いで機材を用意して、迎えに来た川畑のミニバンに乗り込んだ。麻里はもう一眠りする様子だった。当然だろう、僕らはビールとカクテル

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          二、アンチャイド・メロディ_02  カフェから出ると、遊歩道に当たる日差しはまだ熱く、「暑いから中入ろっか」と明確な目的も無いまま屋内へ入った。  宛もなくぶらぶらと歩き、麻里の「ちょっと見たい」を合図にアパレルショップへ入り、目についた服の値札を確認してはすぐに出るを繰り返した。どこに行っても聞こえてくる賑やかな雑踏が、まるで自分達の気分を遠回しに訊ねられているように感じた頃、午後十八時の時報がショッピングモール内に響くとともにに僕から帰ろうと言った。  車のキーを回

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          二、アンチャイド・メロディ_01    土曜日の夜のライブまでの二日間は、バンドの事を忘れて麻里とゆっくり過ごした。  デスクに足を乗っけて週刊誌を読みながら電話で謝るアルバイトを木曜日に片付け、金曜日は休みを取って二人で大型のショッピングモールへ出かけた。アルバイトで生計を立てていると、せっかくの休日もなんだか罪を犯しているような気持ちになる。  中古で二十万円のマイカーは途中、高速道路で奇妙な轟音を上げ異様に揺れ始めた。無事に目的地に着いたのだが、車のトラブルによる

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