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救いの御子は 御母の胸に #18

「全部を、私がこのお寺で預かります。
だから、もういいんですよ」

 姉は、延々と続いた兄弟の争いが終わって、その残り火も完全に消えたころに、待っていたかのように死んだ。自分で言っていたとおり、姉は僕を守りきった。それが自分の役割だったと言わんばかりの勢いできれいさっぱりお別れした。
 あのときの医者も、タクシー運転手も、住職も、不意に目の前に現れた。そして、まばたき程度のほんの短い交差の中で、まるでずっと昔から僕のことを見てきていたかのように図々しくわかったような口をきいて、力ずくで僕をその場から掬い上げ、救い上げた。狭い了見で幅や深みもない、薄っぺらいつまらない話しかできないようなばかな常識人や、人を下に見るのがクセになっていて、誰でも思っている理想論しか言えないのに、言うことばかりは偉そうな頭の悪い道徳家には決してできないことだ。
 善きにつけ悪しきにつけ、「まれびと」は根本的で劇的な変化を世界にもたらす。僕にとって、彼らはまさに「まれびと」であり、外来王のようなものだったのかもしれない。相変わらず僕は無神論者で無宗教で無主義で恩知らずだが、いつでも 福音は、たしかに僕のそばにあった。

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