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わした島うちなあ#5

 日付が替わって店を追い出されたので、ナカシマーの車で残波岬に行くことになった。
「車なあ、買い替えたよ」
そう聞いて、どんな上等な車だろうと思いながら駐車場に向かった。
「もう十二万キロでさ、ときどきあちこち警告ランプが点くよ」
 そう言って見せてくれた車は、国産のぼろぼろの中古車だった。知り合いからただ同然で譲ってもらったものだと言って笑った。昔から格好にはこだわらない奴だった。
 岬に出て車を降りた。灯台の灯りと星明かり以外は何もない。せり出した岩場の向こうは闇で、繰り返す波の音だけが、そこが海であることを告げていた。

 そこでもうひとつ、ナカシマーはこんな話をした。
 ヒトは、情報や経験の蓄積と利用を反復することで、進化の必要なしに飛行機という翼を持ち、車という高速の脚力を得て、船というヒレを身につけた。進化は、種の意志とDNAと気の遠くなるような時間の経過なしには行われないが、それを待つことなくヒトは「進化」した。いわば外部にもうひとつのDNAを持っているようなものだ。
 現代は、世代が少し違うだけで価値観もコミュニケーションの方法も密度も全く違っていて、理解不可能になってしまう。だから古い世代が若い世代の価値観やライフスタイルを、大人が子供達の流行やファッションを見て理解できないのも無理はないし、むしろ自然なことだ。常に次世代は「進化」を遂げたヒトなのだ。
「だけど」
とナカシマーは言った。
「だけどヒトそのものは変わってないさあね。年寄りも子供も、ヒトの心は何も変わってないさあ」
 ホーキングがテレビで言っていたのをアレンジしたと最後に付け加えた。この話は、僕の置かれている状況を気遣ってしてくれたに違いなかった。


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