👂【魂に導かれし兄弟】ノベルセラピー作品
by Moomy
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茂みの向こうにカサカサとしっぽが動いている。
それを鋭く見つめる瞳。
静かに静かに歩み寄る…
さあ今だ!細くしなやかな脚で強く地面を蹴り上げた。
『やったー』
喜ぶヒューイ。
岩の陰から弟のリムもその様子をじっと見ていました。
『ヒューイはやっぱりカッコいいな、僕もあんな風になれたらいいな』
ヒューイはオオヤマネコの男の子、人間の年齢で言ったら15才くらい。
ツヤのある毛並みに、耳はピンとしていて、物おじもせず何でも果敢にチャレンジします。瞬発力も抜群で狙った獲物は絶対に逃しません。
ヒューイは深い深い森の中、川のほとりの茂みに臆病者の弟リムと兄弟で住んでいました。
狩りへ行く時はいつも一緒。
勇敢なヒューイに対し臆病者のリムはいつも岩陰でおどおどしていて獲物を逃してばかり。
リムの情けなさにヒューイはイライラしていました。
『どうしたらリムは勇気が持てるんだろう…』
『獲物を1人で獲れるようになるにはどうしたらいいんだろう…』
そんな事をいつも考えていました。
ある日ヒューイは思いました。
『リムと5年前に亡くなったお父さんのお墓に行くことで何か分かるかも知れない』と。
お父さんのお墓は、2匹の住む茂みから遥か遠く長い長い道のりを進まなければならず、雪深い険しい山を越える必要もありました。
山を登っている途中、突然ゴゴゴゴゴーとものすごい音がして目の前の地面に大きな大きな裂け目が出来ました。
そこを飛び越えないと先に進めそうにありません。
深い深い谷底からは冷たい風が吹いてきて、何も見えず真っ暗。
谷底を見た弟のリムは足がガクガク震え出し泣き始めました。
『ヒューイぼ、ぼ、僕にはもう先には進めない…もう無理だよ…』
ヒューイはそんなリムを見てどうしたらいいのか考えました。
この谷をどうにかして越えなければならないのです。
そして自分も谷底を覗いて見ると余りの深さに恐怖を感じ足がすくんでしまいました。
『オレとした事がこんなことで…』ガクガク足を震わせながら悔しくなりました。
その時です。どこからか声がしてきました。
『お前は名高いヤマネコ族の末裔じゃ。お前の中には力が備わっとる。自分の力を…秘めたる力を…さぁ、今こそ奮い起こすのじゃ』
するとヒューイのハートが輝き出しました。毛並みがスッと整い、足にグッと力がみなぎってきました。目の奥に力が宿りました。
ヒューイは自分の身体が変化していくのが分かりました。
横を見るとリムの身体も変化していました。そしてリムは言いました。
『ヒューイ僕は行くよ!』もう臆病者のリムはどこにもいませんでした。リムの足は力強く地面を捉えていました。
そして2匹そろって深い深い谷を一気に飛び越えました!
そう、もう何も怖くありません。
険しい雪山をどんどん越え、谷も乗り越えお父さんのお墓に辿り着きました。
その頃には2匹はずっと力強くたくましくなっていました。
そしてお墓の前でヒューイは言いました。
『お父さん、僕はお父さんの様にもっともっと強くなるよ。そして一人前になるんだ!』
自分の中に秘めた力をはっきりと感じる事ができて誇らしくなりました。
隣にいたリムは力強い眼差しでヒューイを見つめていました。
お父さんのお墓から帰ってきてからも、2匹は助け合いながら仲良く暮らしました。リムはすっかり自信がついて獲物も獲れるようになりました。
ヒューイはそんなリムを見て嬉しくなりました。
『お父さん、お母さんありがとう。僕たちは強く生きてるよ』
ヒューイは空に向かって言いました。
おしまい