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『宇宙からのメッセージ』(1978)邦画衰退期の「スター・ウォーズのまがい物」だと切り捨てるには、惜しい

公開40周年記念!『スター・ウォーズのパクり映画』と看過されがちな特撮SF作品。しかし実際に見てみることで、たぶん印象が変わると思ったので紹介します。


※2018/4/29に公開した記事の再掲です


ちょうどこの記事を書きかけていたところ、Twitterで今日は宇宙からのメッセージの公開40周年記念日だという事実を知ったので、急いで書き上げました。

ということで、東映が1978年に公開した特撮SFアドベンチャー映画『宇宙からのメッセージ』についての誤解を晴らし、その独特の魅力について紹介したいと思います。



『スター・ウォーズのまがい物』という不名誉なレッテル

ネット社会になって久しい昨今、なんでも断片的な情報はすぐに手に入ります。

少し調べるだけで、概要、あらすじ、ダイジェスト動画などが手に入る。

誰でも簡単にエアプできてしまうんですよね。


かくいう私も不勉強なハンパ者であり、不完全な知識で語ってしまうこともあるのですが、こと本作『宇宙からのメッセージ』に関しては、実際に自分の目で見てみることの大切さを感じる次第です。


というのもここ数年のネット上では、本作『宇宙からのメッセージ』の一場面の画像が出回り、『日本人が作ったスター・ウォーズのパクり映画があった!』などと面白おかしく紹介されがちです。

その画像というのが、こんな調子です。


まあ、これだけ見たら『パクり、それもショボいパクリだ』と面白がってしまうのも無理はありません。



※厳密には1枚目の画像の『ミレニアム・ファルコンの操縦席っぽい場所』&『ウーキー風の猿人』は、本記事であつかう映画作品とは別作品であることに注意が必要です。それは後に制作された、映画と同名のタイトルを冠したTVシリーズ『宇宙からのメッセージ 銀河大戦』の方の映像になります。本記事でとりあげる映画とのストーリー的な繋がりはあまりありません。




事実、この作品の作られた動機としては、『スター・ウォーズ』の第一作目が1977年に全米公開され、大ヒットを記録したことを受けてのものだったようです。

東映の中興の祖と言われる豪傑社長・岡田茂の「鶴の一声」で作られた作品…というエピソードが残っています。

『洋画がヒットしたら、同じジャンルの映画を作って短期間で公開すれば、そこそこヒットするだろう』((洋の東西を問わず、絶えないのが「雨後の筍」現象。「スター・ウォーズ」の影響力は絶大でしたが、近年でも「サメ」や「ゾンビ」や「パラノーマル」などで同様の現象が見られます))という訳です。


このような東映の、社長の勅命による『洋画便乗・焼き直し映画シリーズ』は何本も存在し、ほとんどが興行的に成功しなかったり、珍品扱いされていたりします。

その中の幾つかについては私も観たことがありますので、いずれ本ブログでも触れていきたいと思います。



<閑話休題>



そんな誕生経緯ですので、控えめに言っても本作が『スター・ウォーズ』に影響を受けているのは、まあ、確かです。

ただ、実際に観てみると、本作はスター・ウォーズにあまり似ていません

それも、かなり拍子抜けしてしまうほどです。


むしろ『宇宙からのメッセージ』は、スター・ウォーズ以前の古典的なスペースオペラを日本独自のテイストでコテコテに料理したような、個性的な作品です。




似ている点、似ていない点

さて、すでに『パクり映画なのか』という疑問に関しては語るに落ちてしまいましたが、一応、似ている点と似ていない点を挙げてみましょう。


似ている点

  • 宇宙を舞台にしたスペースオペラである

  • 辺境の若者が戦争で活躍し、ヒーローになる

  • 異星人の女性が助けを求めてくる」ことが物語の発端

  • 黒い鎧を着た、いかつい悪役がいる

  • 宇宙ものだが剣戟シーンがある

  • 登場するメカのテイスト(ゴチャメカ&ウェザリング系)


似ていない点

  • ストーリーのベースが『南総里見八犬伝』

  • 科学要素よりもファンタジー要素が強い。

  • 未来の地球が登場する。『遠い昔、遥か彼方の銀河系』の話ではない。

  • 黒い鎧の悪役に対抗するのは主人公達ではなく、銀色の鎧の戦士。

  • ライトセーバーやフォースやデス・スターなどSWの革新的要素はほぼ取り入れられていない。

  • メカ撮影の技術的にも、日本特撮伝統の吊りが主体でSWとは方法論が異なる。



こんな感じです。

実際のところ、要素的には一部のビジュアル面にスター・ウォーズの影響が見られるだけで、まったく別物の映画だとお分かりいただけるでしょうか。




むしろ評価すべき点

ところで、いちいちスター・ウォーズとの比較を持ち出さなくても、宇宙からのメッセージはなかなか面白い映画です。

その見どころを紹介しましょう。



面白い『八犬伝』ベースのストーリー

先ほども書きましたが、『宇宙からのメッセージ』は南総里見八犬伝をベースにした物語になっています。


スター・ウォーズの基本プロットが『隠し砦の三悪人』を下敷きにしていることから、ならばと八犬伝をベースにしたそうですが、けだし名案だったと言えるでしょう。

実際に、ストーリーやキャラクターの魅力という意味では、本作は結構面白い映画だと言えます。


八犬伝は、主人公たちが運命に導かれて集結していく模様が大きな魅力です。

面白いのは、原典の『八犬伝』では8人の主人公たち(八犬士)は名前や所持品が目印となっているので明確に八犬士のメンバーであることが分かるのですが、『宇宙からのメッセージ』では多数いる登場人物の中で「8人いるはずの勇士にあたるのが誰なのか」がすぐには分からず、全員が勇士として揃うのはかなり終盤になってからなのです。


「仁義八行の玉」の代わりとして「リアベの実」という伝説の木の実があり、これは勇士の資格を認めた人間の手元に現れることになっているので、『残りのリアベの実は誰を選ぶのか』と予想しながら見ても楽しいわけです。


普通に八犬伝に忠実にやってしまうと、「仲間の集結」までは面白くていいのですが、その後の展開がダレてしまいがち(私見)。

ですが、仲間の集結と戦いを同時並行で描いていくことで、楽しみを増している良い構成だと思います。




レトロSFとモダンSFと、歌舞伎的センスの交錯する独特のビジュアル


パトリック・マシアス氏
は『宇宙からのメッセージ』について、このように語っていたそうです。


子供の目から見ても、狂っていた。宇宙を飛ぶ帆船ダボシャツステテコの宇宙チンピラ、顔を銀色に塗った東洋人が演じるガバナス星人。それはSFというより麻薬バッド・トリップのようだった。こいつは『スター・ウォーズ』よりスゲエ! そう思ったのは僕だけじゃない。同じ意見は今でもあちこちで目にする。何がスゴイのか、うまく言えないが『宇宙からのメッセージ』のいかがわしさ、ケバケバしさ、ムチャクチャさに比べると『スター・ウォーズ』は健全で、地味で、保守的にさえ見える

Wikipedia: 「宇宙からのメッセージ」より引用


そう、『宇宙からのメッセージ』のもつ雰囲気は、洗練という言葉とは対極にあたります。

装いがスター・ウォーズに近く、結構モダンなデザインの部分があるからこそ、余計にその他の部分の古さ、カオスさが強調される。

衣装などもリアルなSF世界の服装というより、『舞台映え』を重視したようなセンス。

銀色に光り輝くスパンコール、悪のガバナス帝国の華美な装飾、ギラギラとケバケバしい雰囲気は、『宇宙からのメッセージ』公開当時からしても古めかしくチープなスペースオペラ、たとえば『バーバレラ』などに近いセンスを感じます。

とくにガバナス人のメークは東洋人が隈取メイクをしているため、まるで歌舞伎を思わせる部分もあります。


思うに、マシアスさんの抱いた感覚は、今日の私たちが中国やタイやインドの映画を見て感じる感覚に似ていると思うのですよね。

時にチープであったりコテコテであったりしながらも、それを圧倒的に上回るエキゾチックなエネルギッシュさで走り抜ける感覚を、私は本作にも認めます。




豪華キャストによる『濃ゆいキャラクター』


実は本作は、「監督・深作欣二」「原案・石ノ森章太郎」という豪華な制作陣です。


ですが、それ以上に豪華なのはキャスト。

彼らが濃いキャラクターを演じていることで、ぶっ飛んだ世界観にも妙な説得力をもたらしています。


主人公格の宇宙暴走族には若き日の真田広之

役柄上、得意のアクションは控えめですがやっぱり格好いいです。


ヒロイン的ポジションには、志穂美悦子

戦闘要員でないので格闘シーンがないのが残念ですが、とにかく美しい。

コメディリリーフ役を担うのは、顔だけですでに印象的な岡部正純


国際色を増すためかビック・モローが出演しているのですが、吹替で日本語を喋ります。その声の主は若山弦蔵で、あまりにも渋すぎる。


天本英世丹波哲郎の両名優が脇役ながらも存在感を発揮します。


ほぼ影の主役と言っても過言ではないほどの「濃ゆさ」で圧倒するのは、悪の皇帝を演ずる成田三樹夫

観終わったあとに本作のシーンを思い返そうとすると、びっくりするくらい『成田三樹夫の顔』だらけになること、請け合いです。


この顔力(かおぢから)!

ダメ押しは、ガバナス帝国の正統後継者として登場する千葉真一

登場が遅く、彼の出演していることを知らなかった私にとってはサプライズキャストでした。


千葉真一と成田三樹夫が、素っ頓狂な鎧に身を包んで宇宙を舞台に剣で対決するのですから、それだけで有り難みがあるというものです。




ゴージャスな特撮シーン (※東映比)


本作の特撮はスター・ウォーズとの比較でこそ「旧態依然」「安っぽい」と言われることも多いのですが、なかなかどうして、そう言い切っては勿体ない出来です。


制作費10億円は伊達ではなく、当時の東映の作品としてはかなり豪華だと感じました。


というのも、東映の特撮は、東宝のそれに比べると、往々にしてチープ&インスタントなのが常です。(失礼)

本作も非常に東映チックな特撮ではあるのですが、宇宙戦闘機の迫力ある挙動作り込まれたミニチュアメカのギミックに凝っていることも一目瞭然で、見どころが多いですよ。


ミレニアム・ファルコン的なポジションにあたる『リアべ号』はアームを展開して戦闘機を分離発進できるギミックがあり、ファンが多いようです。


あと、外せないのが、『エピソードⅥ ジェダイの復讐』に先駆けて『戦闘機で敵メカの内部に突入し、中枢を直接攻撃して破壊するシーン』の存在。

これが本家のスター・ウォーズに逆輸入され、第二デス・スターの破壊シーンに影響したという説がありますが、これは信憑性が高いと思います。


母船内部に突入して中枢を叩く!



さらに評価を下げる"怪しいうわさ"


ところで、本作には他にもセンセーショナルな噂があります。

それはなんと、『米アカデミー賞で、視覚効果賞としてノミネートされた』というものです。


この噂を知ったときは心底驚きました。

日本の特撮映画が、『未知との遭遇』や『スター・ウォーズ』を経たあとのアメリカで視覚効果賞の候補に上がるとは、にわかには信じられないほどの偉業です。


噂の真偽ですが、アカデミー賞の履歴を調べてみるかぎりどうやら『ノミネートの事実は無かった』という結論で間違いないと思います。

どうやら、サターン賞の外国語映画賞と混同されたというのが定説のようですが、常識を揺るがすような、あまりにも夢のようでインパクトの強い噂でした。

これもまた、現代の好事家としては、当時の情報の錯綜ぶりと大らかさを示す味わい深いエピソードと言えるでしょう。




おわりに

いかがだったでしょうか。


このように『宇宙からのメッセージ』は色々な意味で愛すべき映画です。

クールで洗練されたSFを観たい方にはオススメしませんが、特撮が好きな方、レトロ感やゆるさ、荒削りさを愛せる映画好きの方には、風評にとらわれずに見てみていただきたい一作です。

公開から40年を経ても、いろいろな意味で語り草になる本作。今後も語り継がれていくことでしょう。
視聴の機械があれば、ぜひ。

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