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人も自分も大切にできない自分に知り合って堂々巡り

大晦日にスクランブルスクエアの9階のカフェで人を待ちながら、優雅にMacBookを開く。リラックスした雰囲気のなかで、さくっと短編でも書いてみようとしたんだけれど、主人公の設定を考えているうちに時間だけが経ってしまう。すぐに壁は迫って、ChatGPTに頼ってみる。あえて登場人物に関する複数の質問を考えてもらい、自分に質問するように指示をする。座ってPCに向かう彼女がどうにかその目の前の、10名程度座れるドーナッツ状のカウンターテーブルの席を離れて、活き活きと動き出さないかと、今か今かと待つ。AIは諦めずに私に質問し続けて励ましてくれている。

彼女は和歌山出身のようだ、28歳になったみたいだ、彼女は部下に慕われるしっかり者みたいだ。僕と同じ地方出身者で年末年始の渋谷のこのカフェで過ごしてるんだ。いつもまでも彼女のアクセサリー的な情報しか知り得なくて、彼女の人間的な悩みとか感情は雲に隠れているままだ。

そうこうしているうちに待ち合わせの友人がやってきて一旦中止。

実は昨日も続きを書いてたんだ、元旦。そうして今はとある都内の喫茶店で、また人を待ちながら、「松嶋詩瑜」と名付けた彼女についてあれこれ考える。これは、失敗する恋愛のパターンと一緒だ。惹かれてもいない相手なのか、外的情報だけずっと知ろうと努力して。もう少し時間が必要なのかも。

彼女も年末年始に帰省しないようなんだけれど、家族と過ごす人はとても人間ができてると思う。特に人の往来も激しく、移動手段も混み合うこの時期に実家に帰る地方出身者は、なんだか帰る方も迎える方も肩の力が入ってしまう。ゆっくり休憩する時間をお互いに阻害して、無駄なエネルギーを使って使わせてしまうように感じる。でもさ、こんなふと思いついた言葉には何にも重みもないんだよな。ただ、帰るのが億劫なだけなんだ。

周囲の人間や長く付き合った友人のことに思いを馳せると、つくづく自分の人間性ができてないなと思う。人間に対して「できる」、「できない」を使ったり、「人間性が〜」っていうのは、本心ではあまり好きではないけれど、自分に対してはいいってことにしよう。歳をとったんだ、自分の人間性はかなり人と比べて劣ってるってわかってきた。

何が劣っているって、主体性がないこと。昔は、自分のことを人より主体性があってやりたいことがあるんだって思ってたけど、それは大衆的な広告だったり、「常識的」な価値観に影響された剥がれやすい化けの皮だったんだと思う。そのような仮面も鎧ももちろん、自身の内面とじっくり向き合って鍛錬された代物ではないから、とっても脆い。自分を守るために装っていただけで、本質的にはあてにできないただのお荷物だった。

内面からどうしても欲してしまうもの、思わず心が動くもの。そんなディズニープリンセスが王子様と出会う瞬間を夢見てたんだろうか。自然に頑張れることに対して素直に向き合えて認めることができているのだろうか。やりたいと思っているのにまったく行動が伴わないものに固執しすぎてないだろうか。

夢があればなんでもできそうだし、本当にないと空虚な抜け殻なってしまう。ただ生きているだけ。ただ毎日の生活を頑張っているだけ。でも何が不足なんだろう。何があれば幸せなんだろう、はたしてこの今の状態で十分幸せなのにどんなスリルが欲しいって思うんだろう。安定しているだけで不足ならどんな不幸があれば、貪欲な自分に出会えて素直に認められるんだろう。

自分なんてないと。探したって見つかんない。誰だって知ってて。何を欲し、何に我慢できるか、その結果だけが積み重なってく。過去を振り返って、自分を大切に。本当に難しい。人を大切にすることのほうがずっと簡単に思える。でも、すぐに気が付いてしまう。自分を大切にできない人間は、他人を大切にするなんて本質的にできないし、限界が来てしまう。

十分幸せに生きれてるんだなって、それを簡単に手放せないし、手放せるほど自分にとって大事な欲しいものもないんだなって。何が不足なんだろう。

生活改善も進んでる、生きている感覚がないわけではなくて、でももっと生を敏感に感じたいし。生きているか死んでいるかなんて考える暇もないような目まぐるしい生活に憧れているのか。

生きようと生きようとして死んでいく。そう脳内のイメージだけ、順調に増幅していく。言葉だけが先行して自分の求めるものが曖昧になっていく。

まだまだ人生が続くことが果てしなく感じる。金太郎飴みたいに10年も20年もおんなじことを考えてくように思える。

魅了されたのは、視線の先にいた彼女の頬杖をついた憂鬱気味な横顔や、吐いても吐いても空気に混じって消えていくため息ではなくて、彼女がいるドーナツ状のテーブルだったのかもしれない。遊園地のメリーゴーランドみたいに、螺旋状に上昇下降し続けることもなく、ただおんなじ場所をずっとぐるぐる回り続けているんだ。


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