集中力をコントロールときにパイロットの私が使う「忍術」
前回は、本番で結果を出すために必要な「自信」と「集中力」を解説しました。
今回は、本番中の集中力の使い方として、私がシミュレータ訓練で実際にやっている具体的なメンタルコントロールの方法を説明します。
これはどこかの本に書いてあったことではなく、私が必要に駆られて仕方なく開発した、完全に私のオリジナル「忍術」ですが、個人的にはとてもうまくいっています。先日もシミュレータチェックがありましたが、この方法を身につけてからと言うもの自分の集中力がしっかりとコントロールできるので1つ1つの課目でしっかりといい成績を出すことができました。
集中力は有限
まず理解しなければいけないのは、人間の集中力は、短く、限りがあるということです。
パイロットの訓練で行われるフライトシミュレータでは、離陸直後のエンジン故障や火災、急減圧、電気・油圧・ブリードなど様々な系統の様々な不具合を再現し、緊急事態に対応する訓練をします。
言うのは簡単ですが、これがかなり大変。起こった問題の処理をどのような優先順位で片付けていくか、最終的に飛行機を安全に地上に下ろすために、どこにいくべきか。気象や故障の種類によって、毎回答えは違います。
現代の飛行機は、エンジンが1つ壊れても安全に飛ぶようにできています。しかし、それはパイロットが正しい操作と技倆を発揮した場合に限ります。性能が落ちることには変わりはないので、やってはいけない操作や、追加でやらなければいけないことなどがつくため、いつもの着陸より負荷が大幅に増えることは確かです。
緊急事態の時、パイロットの頭はフル回転しています。2人いるパイロットはそれぞれの操作を監視しあって間違いが起きないように、また負荷を分担して状況がパイロットの頭の回転速度を超えて進展しないように、協力してことに当たっています。
そうした大きな負荷のかかる知的な精神活動には、強い集中力が必要です。しかし、集中力は携帯電話の電池のように有限です。色々なアプリを立ち上げてスクリーンの輝度をマックスにして常に画面をいじっていれば、すぐにバッテリー残量が少なくなってしまうのと同じように、あれこれ思いを巡らしたり、本番の前からずっと緊張しっぱなしだと、すぐに集中力は枯渇してしまい、肝心の本番で使う分が残っていない、なんてことになりかねません。
集中力のマネジメント
使い所を見定めなければなりません。使うべきところで一気に使い、緩めるときは緩めて蓄え、また次必要になるときに備えます。有限である以上、集中力はマネジメントする必要があるのです。
このことが自然にできる人、つまり本番になるとスッとパフォーマンスを発揮する対象に集中できる人のことを、本番に強い人と言うのではないでしょうか。
本番に弱い人は、これが自然にできない人のことです。いざという時になっても他のことを考えたり、悪いイメージを思い出したり、前段の緊張で疲弊した心によって、単純にぼーっとしてしまったり。自分のパフォーマンスを発揮する対象にちゃんと集中できません。だから、結果が出ないのです。
そういう人はそのことにまず自覚的になる必要があります。自然にできないなら、訓練によってできるようにすればいいのです。
大事なのは、集中力の使い所を知って、集中力のONとOFFを自分の意思でコントロールできるようになることです。
ある図柄を思い浮かべてONとOFFを切り替える
これを実現する具体的な方法に、私は以下のような図柄を心の中に思い浮かべて対応しています。
本番前や、集中力を解くべきタイミングで緊張してきたら、心が円錐形になって尖っている状態(ON)だと想像してそれを感じ取り、それを納めて丸くする(OFF)ようにイメージします。
反対に、「今からシングルエンジンでミニマギリギリのVOR/DMEアプローチをやるぞ!」などと、高い集中力が必要となるタイミングでは、丸く(OFF)なっていた心を思い切り尖らせて(ON)それを感じ取り「フォーカス」とか「集中」などと口に出します。こうすると、自然にこれからやるタスクに集中できるので、余計な雑念を頭から追い出すことができます。「失敗したらどうしよう」と考えなくなるのです。
あるいは、鞘に納めた日本刀をイメージしてもいいかもしれません。緊張しているときは、抜き身の刀をイメージして、それを鞘に納めます。集中力が必要なときは静かに抜刀して切っ先をタスクに向けてピタリと止める。そういうイメージです。
これが私の忍術の正体です。それぞれがやりやすいイメージを見つけて、心をコントロールしてみてください。
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Pilot's note NZ在住Ashの飛行士論
NZ在住のパイロットAshによる飛行士論です。パイロットの就職、海外への転職、訓練のこと、海外エアラインの運航の舞台裏などを、主に個人的な…
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