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数学の有用性と政治家の想像力
某政治家の某発言から、すでに方々で「数学は必要だぞ!」という声が大喜利のようにあがっています。
ここはひとつ私も色々と具体例をあげて、「数学は日常生活に大変有用だ」との言説を強化しておこうと思います。
微分・積分と慣性航法装置
そもそも義務教育では微分と積分は習わないはずで、そもそもが事実誤認からスタートしている雑な議論なのですが、まぁそこはいいとしましょう。
さて、微分・積分は、日常生活に欠かせない慣性航法装置(INS)の原理を理解するのに必要です。
日本航空電子工学株式会社HPより
慣性航法装置(INS:イナーシャルナビゲーションシステム)は、潜水艦や飛行機が、GPSやレーダーなどの外からの支援なしに、自分の位置を自分で測定するためのいわゆる自律航法装置です。
現在は機械式ジャイロではなくレーザージャイロを使ったIRS(イナーシャルリファレンスシステム)が主流ですが、原理は同じです。
微分・積分が「割り算と掛け算のすげえやつ」であること、つまりその概念をなんとなくでも理解している人なら
「加速度センサーで捉えた加速度を時間で2階積分して距離を出すんだよ」
といえばすぐに理解できるので便利なのです。日常生活で。
三角比(サインコサイン)とロードファクター
サインコサインも、「いつ使うんだ論法」の常連ですが、まったくとんでもねえ話です。定常旋回時のロードファクターの計算はどうすると言うのでしょうか。
例えば、コサイン45度は1/√2ですよね。直角三角形の三平方の定理です。
出典:進研ゼミ中学講座
ロードファクター(G)は、バンク角のコサインの逆数ですから、45度バンクの定常旋回のロードファクターは
1/√2(コサイン45度) ÷ 1(の逆数) = √2
ルート2は無理数ですが、小数点第8位くらいまでで表すと幾つでしたっけ?
1.41421356... 「一夜一夜に人見頃」
って覚えましたよね。実用的には、小数点第3位まででいいでしょう、つまり、
45度バンク(スティープターン)のロードファクターは1.41G
だとわかります。これを「揚力が41%増えている」と言い換えることも、小数と百分率の関係を知っていればすぐにできます。60度バンクで2Gかかるのも同じ理由です。
三平方の定理と横風成分
あるいは、着陸時に、
30度斜め前から風が吹いている状態の横風成分は、風速の半分
というのも同じ理屈で求めることができます。サイン30度ですね。
60度斜め前から風が吹いている状態の横風成分は、風速の87%
これも上図にある特殊三角形の1 : 2 : √3と、√3 = 1.73 「人並みに奢れや」の関係から、1.73÷2で87%だと分かるわけです。「60度以上のクロスウィンドはほぼ風速と同じ」と考えるのはこのためなんですね。
横風が吹いていない日なんかほとんどないわけですから、やっぱり日常生活に必須ですね。
ベクトルと風力三角形
ベクトルも、汎用性の高い数学的知識です。
例えば、みんな大好き 風力三角形。
これなんか完全に
「ある矢印の尻と他の矢印の頭をつなぎ合わせたものは、最初の矢印の尻と最後の矢印の頭をつないだ一つの大きな矢印と同じもの」
という「ベクトル合成」の話です。つまり、
「TASベクターの頭にWindベクターの尻が乗り、前者の尻と後者の頭をつないだのがGSベクター」
というベクトル合成がわかっていれば、三角形が表だろうが裏だろうが同じものとして見ることができますし、風計算は風力三角形をナブコン上に再現しているだけだとわかります。
真ん中に合わせるのがTASかGSか、迷わなくて済むわけです。
ここでも、数学は日常生活に大変有効と言わざるを得ません。
因数分解と想像力
とまぁここまではネタみたいなもんでしたが、パイロットの日常生活と考えればあながち大げさでもないでしょう。
因数分解、つまり「多項式を単項式や多項式の積で表すこと」が人生でどんな役に立つんだと言ってしまう人は、ものごとを直接的、具体的、かつ一面的にしか捉えられない、つまり想像力が欠如していることを自ら告白しているようなものです。
因数分解はもちろん、
「大きな問題をその構成要素に分解し、ひとつひとつ解決していく」
というコンセプトそのものが人生で大いに役立ちます。
数学そのものが、モデル化、つまりものごとを抽象的に捉える訓練になります。具体的な話を抽象化したり、抽象的な話の具体例を考えたりすることは、ものごとの成り立ちの理解、共通項の発見、問題解決方法の立案など、知的作業にはなくてはならないものです。
日常会話でも、相手の話を聞いて「あなたが言いたいのはつまりこういうこと?」と言い換えをしたり、「相手の言いたいことと私が理解したことには少なからず差異があって、これを埋める努力をしないことにはいいコミュニケーションは成立しない」という謙虚な態度につながります。
くだんの言説は、政治家に謙虚さや想像力がないことを図らずも告白してしまっているのかもしれません。
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