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短編小説

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ちょっと不思議な短編を集めました。
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#児童文学

浜田広介「泣いた赤おに」(オマージュ短編)

浜田広介「泣いた赤おに」(オマージュ短編)

「ひろすけ童話」と呼ばれ、今もなお親しまれる、美しい童話の数々。
代表作「泣いた赤おに」の、続きの物語を書きました。

どのくらいの間、赤おには、そうしていたでありましょう。
朝つゆにぬれていた、やまゆりが、日ぐれのひかりにてらされました。
赤おには、ついに、とぼとぼと、がけの下のじぶんの家に、帰って行きました。

次の日も、その次の日も、村人たちは、赤おにの家に、やってきました。
赤おには、おい

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【連載小説】ぼくは、なつやすみの『すきま』に入った。(第5章)…最終章

【連載小説】ぼくは、なつやすみの『すきま』に入った。(第5章)…最終章

「まあ、ないもんはしょうがねえな。見つけりゃいいんだからさ」

一郎が何でもないことのように言ったので、僕は少し落ち着きを取り戻した。

「うん…でも…」

「一緒に探してやるからさ、とりあえずここ、片付けようぜ」

僕たちは秘密基地を片付け、火の始末をした。崖の入り口を木の枝や雑草で隠すと、すっかり元通りになり、ここに洞窟があるだなんて誰にも分からないだろうと思った。

「じゃ、探しながら行こう

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【連載小説】ぼくは、なつやすみの『すきま』に入った。(第4章)

【連載小説】ぼくは、なつやすみの『すきま』に入った。(第4章)

「わあ…」

薄暗い洞窟にいきなり入ったので、最初は目が慣れなかったが、見えてくると僕は驚いた。

中は天井は低く、まっすぐには立てなかったが、思ったより広さはあり、子供なら五、六人くらいは入って遊べそうだ。
足元には古いゴザが敷いてあり、丸いテーブルもあった。奥には大きなカゴがあり、中には、缶詰めなどの食料、ハサミやナイフなどの道具やマッチ、小さな鍋や、少し欠けた古い食器などが無造作に放り込まれ

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【連載小説】ぼくは、なつやすみの『すきま』に入った。 (第3章)

【連載小説】ぼくは、なつやすみの『すきま』に入った。 (第3章)

川の水は、さっきみたいに押し流されるような感触はない。ただ、足元だけひんやり寒い場所を歩いているみたいだった。
振り返ると、パパは網を構えたまま、夏乃はよろけた姿勢で止まっていた。足元の水しぶきも空中で固まっていて、細かな粒が小さなガラスの欠片のようで、きれいだった。

「こっち、こっち!」

少年が立ち入り禁止のロープをくぐり、滝壺の方に泳いでいった。
川は、しぶきは立たないが泳げるようだったの

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【連載小説】ぼくは、なつやすみの『すきま』に入った。(第2章)

【連載小説】ぼくは、なつやすみの『すきま』に入った。(第2章)

「おにいちゃーん!!おにいちゃんってばーー!!」

そのとき、夏乃の声がして、浅い川をよろけながら登ってくる姿が見えた。

「ママが、おべんとうにするってーー!!」

僕は、お腹がペコペコなのに気がついた。
「じゃあその石、そこの岩の影に隠しておきな。弁当食ったら、またここで待ち合わせしようぜ。」
少年が言った。

「あ、魚!えっと、オイカワは?」
僕は、透明なケースに入ったきれいな魚に、顔を近づ

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【連載小説】ぼくは、なつやすみの『すきま』に入った。 (第1章) ※「水の中の時計」から、改題しました。

【連載小説】ぼくは、なつやすみの『すきま』に入った。 (第1章) ※「水の中の時計」から、改題しました。

あらすじ
【川底に沈む石の力で、自分以外の人々の時が止まった。
夏休みに家族で川遊び、というありふれた一日。しかし五年生の冬里にとって、それは木陰のまだら模様の日差しとともに、キラキラとした忘れられない一日になった…】

「キラキラしてる川、久しぶりにみたなあ」

パパが、魚とりの網を振り回しながら、子供みたいな口ぶりで言った。

小学校五年生の夏休み、僕は家族で川遊びに来ていた。
家から車で二時

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