Oboe sommerso
📙『Oboe sommerso (1932)』
(沈んだ木笛)
Salvatore Quasimodo(イタリア詩人)
…
冷え切った木笛が
またぽつりぽつりと吹き鳴らす
枯れない木の葉の喜びを。
でも 私のものにはならずに
想い出を奪い去っていく。
心のなかでは日が暮れて
草のような手のひらのなかで
水が入日のように落ちていく。
…
だから藻屑のような毎日なのだ。
🪈
楽器として木笛を選んだのは、シチリアではクリスマスの前の数週間、夕方、楽隊が家々を巡りオーボエ(クラリネット)のような木管楽器を吹いている光景を、詩人が思い出したからだと言われている。
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Salvatore Quasimodo (1901-68)
(サルヴァトーレ・クワジーモド)
〈1959年にノーベル文学賞を受賞〉
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シチリアのモーディカに生まれる。父が国鉄駅長だったので、シチリアの南東部を中心として多くの駅(街)を転々とする。クワジーモドが初めてメッシーナの町と出会ったのは、一九〇九年三月である。彼の父親はメッシーナ勤務を二回経験しているが、その第一回目がこの時にあたる。イタリア人にとって、メッシーナと言えは忘れることができない大きな出来事があった町。一九〇八年十二月二十八日の朝、倒壊家屋九十八パーセントという大地震がこの町を襲ったのである。関東大震災より十五年程前である。父親の着任は、健災後わずか二ヵ月程であったから、麻痺した都市機能のなかで、まだ子供であった詩人は、強く印象に残ったことを次のように回想している。(震災後、海軍が入り略奪者共を処刑している)…「私は、初めて、この地で人間の死というものにぶつかった。…私たちは貨車のなかで息をひそめて生活していた。災害とは異なる別の恐怖におののかねばならなかった…」