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99匹のうちの1匹

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#詩の連載

99匹のうちの1匹

99匹のうちの1匹

 はじめに

戦前から戦後にかけてできた、“大衆”や“我々”といった羊の群れのような概念がある。そこからこぼれ落ちてしまったその一匹は、群れに溶け込めず、怠惰な生を続けるには文学に縋るしかなかったと思う。

文学は異端者を受け止めてくれる。
どんな人間でも、変幻自在に受け入れてくれる。
そう思う。

令和。
僕は異端ではなかった。
別に、ごく普通の、よくいる、いい感じの家庭で生まれ育って、そこそこ

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1.99匹のうちの1匹

1.99匹のうちの1匹

 【99匹のうちの1匹】

一度僕が死んだとして、それは正常でいわゆる正義なのだと思った。悲しいのも、さみしいのも、全部、死人のものじゃなかった。

感情を抱えるのは現世の特権。

死んでゆく夜を捕まえて、お前はまだ死ぬなと叫んだ日、代わりに僕が少しずつ死んでいるような気がして、だんだん、だんだん、季節の狭間の溝に、浸かっていった。僕がこのまま夜に浸かって消えて無くなってしまっても、僕は僕のことを

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2.キモい現実の忌避方法

2.キモい現実の忌避方法

 【99匹のうちの1匹】

現実が酷くキモい時、私たちはどうしたらいいのだろう。

 と、思っていたら逃げていたはずの朝日を出迎えてしまった。もう何年も、そうやって、私は朝日から逃げられない。楽しいと思っていた現実の話。私、気がついたらヒトという生物が、何処か遠くの異星人のようだと思った。自分とは、まったく違う、生き物である。

それぞれが違う生き物。

それぞれが違う生き物なのだから、絶対に、分

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3、致死率100%の生

3、致死率100%の生

 【99匹のうちの1匹】

心躍ることがある。

ヒトという生物は、死ぬということ。

ぼくらの、普遍と恐怖と不変が、あわさっている。母体の中のような安心感があるのは、それが、胎児の記憶だからだろうか。いつの間にか埋め込まれた、当たり前への恐怖が、どこからかモリモリやってくる時、ぼくは本当は安心しなきゃいけない。涙が出てくるのを、不安だとかストレスだとか、そんなもので片付けたくない。一生分の涙でお

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4、なにもない虚空で、明日

4、なにもない虚空で、明日

 【99匹のうちの1匹】

なにも無いということ

確かな“有る”が消え去って、カラが見える。
そこに、何かがあったとしても、その証明はできない。なにも、なかったのだ。時間だけが素直。

めをとじて、
ひらいて、
日光を浴びる。

わたしが何者なのかを忘れ、ただ、わたしは有るのだと、知らないだれかに証明がしたい。生まれ落ちたソコに、まだ絶望などしたくはなかった。よかったって、思いたいだけなのだ。こ

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5、比喩のあめだま

5、比喩のあめだま

 【99匹のうちの1匹】

僕は苦しそうな彼に、澄んだ水色の球体を渡した。

彼はケモノだ。

ぼくらの不自由が自由であること、
愛はいつ何時でも不確かなこと、
春の訪れを察知した動物が目を覚ますこと、
失ったモノを取り戻すのは難しいということ、、
時が進む。
ぼくの当たり前は、当たり前ではないことに、ぼくは一生気がつけない。

幸福は偽善だ。
他人の幸せに齧り付いて、だれも気づかぬうちに消失させ

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6、爛れた脳味噌を掻き混ぜる

6、爛れた脳味噌を掻き混ぜる

 【99匹のうちの1匹 】

時が経てば経つほど、自分が、汚れていく気がする。制限の緩和。僕らが毎日 目にしているものは、実際ほとんどを僕は知らない。君も、ほとんど知らない。あいつも、あの子も、知らない誰かも。自分の知らないを集めたら一人の人間が出来上がった。僕の成り損ない。そんなもの。
でも、僕にはソレに成れなかった。
その集団は僕に襲いかかって(襲いかかってなんていない。ただ、僕には襲いかかっ

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7、無知ならよかった

7、無知ならよかった

 【99匹のうちの1匹】

理解の再確認が無知と捉えられること。黒猫にでもなって、どこまでも優雅に歩いていたかった。野良になって威嚇したまま過ぎ去ってしまえる日を、夢見てた。あたたかい布団の中。
自分の中の自分をナイフで刺されている。
やわらかな、ゴム製のナイフ。
深くは突き刺さっていないが、確かに、ぼくの核を貫いていた。浅い場所に数多存在する、ぼくの核。突かれる度に吐き出される劣等は加速して、ヒ

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