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1.99匹のうちの1匹

 【99匹のうちの1匹】

一度僕が死んだとして、それは正常でいわゆる正義なのだと思った。悲しいのも、さみしいのも、全部、死人のものじゃなかった。

感情を抱えるのは現世の特権。

死んでゆく夜を捕まえて、お前はまだ死ぬなと叫んだ日、代わりに僕が少しずつ死んでいるような気がして、だんだん、だんだん、季節の狭間の溝に、浸かっていった。僕がこのまま夜に浸かって消えて無くなってしまっても、僕は僕のことを許せる気がした。大丈夫だと、僕は僕に言うことができる。

灰の中から、アナタにも、大丈夫と言いたい。

雪にかぶさって、君の型を作った日。
最悪な人間が、最悪な人間のまま死んで、その最悪な人生を僕の知らないところで終わらせてほしいと思った。
僕はきっと最悪になりきれないから、不幸になりきれないから、そんな人の型を作ってその上に寝転んでみる。
やわらかすぎて、
やさしすぎて、
静かに呑み込んでいくような粉雪が、僕の上に舞い落ちる。
代わりに、欺瞞の最悪が出来上がって、僕は僕を見失う。大丈夫。僕はまだあと99匹。
この群れの中で、概念の中で、十色の似たり寄ったりな僕の色を掲げる。数えられない羊の群れと、乾いた息が溶け込む落日に。

朝日がのぼれば弑すればいいだけ。