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【書評・あらすじ】わるもん(須賀ケイ)
第42回すばる文学賞受賞作。
両親と3姉妹の家族の物語。
主人公は知的障害のある純子。
純子はガラス職人である父親のことが好きだが、ほかの3人はそうではない。
自宅でダラけてばかりいる父のことを邪魔者のように見たり、洗濯物は別で洗ったり、とにかく嫌悪感がすごく伝わってくる。
一般家庭でよくある「父親が嫌われる」とはまた違い、とにかく排除しようとしている様子が見られる。
そして、ある日自宅から父親の姿が消える。
母親はとても機嫌がよくなり、天気がいいだけで鼻歌を歌うほど。
しかし、そのご機嫌も長くは続かず…
日々の積み重ねにより、父親がやることをやっていたことや、実は母親にとって大変な仕事もこなしていたことがわかってくる。
気が付いたころ、自宅には父親の姿が見られるように…。
タイトルの「わるもん」という言葉がジワジワ押し寄せてくる作品。
純子の心
純子はちょっとした発達障害があるよう。
とにかくレーズンバターサンドが大好きで、父親のことも大好き。
そして、純子の目に映る世界はいつもワクワクでいっぱいだ。
白い軽トラを「おしり」と呼んだり、
お迎えが来ないとなると自分が船長になって家まで航海したり、
母親の怒りすらも別物に見えてしまう。
その視点は、幼児のよう。
その一方で、物事の真理が見えているような鋭い視点も持ち合わせている。
悪気なく、事実を事実のまま受け止める。
独特だけど、おもしろい。
その性格ゆえ、いじめられるがそのことを悪いことだとも感じない。
弱いようで強い心の持ち主だ。
父親の扱い
父親の嫌われようが、文章を通してジワジワくる。
ただ、嫌われているのではなく「忌み」嫌われている感じ。
うまく言葉にできないが、とにかく嫌悪感がすごく伝わってくる。
しかし、父親は皆の知らないところでしっかり働いていた。
家のことをして、地域の活動に参加して、庭の手入れもしていた。
そのことに気が付いたのは、父親を「排除」してから。
いなくなってから、はじめて気付くことはたくさんあった。
そして、知らぬ間に父親は家に戻ってきている。
いたたまれなさと、勝手さに感情が波打つ感じがした。
タイトルに込められた意味
「わるもん」
いろんな場面で、たくさん「わるもん」を感じた。
本作品では、この「わるもん」という言葉が終始ついてきて、
読み進めるうちに、その意味がジワジワ押し寄せてくる。
「このままだと、とんでもない読後感になりそう」
そう思っていたけど、少しだけ結末に救われた。
けど、こうして振り返ってみると、
あの結末も「わるもん」がジワジワくる。