うつしおみ 第38話 痛みの薬
擦りむけて血を滲ませる指先の痛みが、
世界は現実であると言っている。
すべては幻で何も起こっていないのだと、
語る預言者さえその痛みに堪えている。
この世界の痛みという現実が甘い夢を砕き、
魂は生きる辛さに染まっていく。
その辛さが癒えるまでの長い時間は幻などではなく、
決して逃れられない魂の呪縛なのだ。
痛みから自らを守ろうと様々な策を用いるが、
その呪縛は魂である限り解かれることはない。
その痛みは自分が魂でないことを
知らしめるための薬として世界にもたらされている。
その薬は現実でなければならず、
その現実によって魂でないことも現実になるのだ。
自分が魂でなくなることも激しい痛みであり、
魂はその薬を毒と見なして拒絶する。
毒を飲むくらいなら痛みが癒えるまで耐えようと、
世界での癒やしを求め続ける。
自分が魂でなくなれば、痛みは世界に閉ざされて、
その世界を癒やす光となる。
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