【随筆】〝化学反応〟から思うことー「詩」と芸術


  noteの中では、化学反応みたいな現象がよく起こっている。

 今回ご紹介させていただく化学反応は、rinchanさんの作品である詩に、こ林さんが朗読という形で応えたことで起こった。

 そんな出来事に、ほとんど奇跡のような、一瞬間の煌めきみたいなタイミングで出会ってしまった僕。

 初めに、こ林さんの声が耳から心にじんわりと波紋のように広がった。次いで、頭でrinchanさんの詩を噛みしめる。変な表現だと思うけれど、ほんとうにそうだったのだから、こう言い表すしかない。噛みしめたら、甘いドロップを一粒口に入れたときみたいに、嬉しくて、優しい気持ちが沸き起こった。


 詩は、「ボク」が体験したできごとの一瞬を切り取っている。

 その体験こそが僕のこころを温かくしてくれたのだ。

 ほんとうに小さな小さな、一瞬だ。けれど、その一瞬に、物語が遥か彼方にまで広がる。想像力が掻き立てられる。

「ボク」は一匹のテングザルだ。

 テングザルが体験するとってもチャーミングな出来事。

 きっとこの詩の世界の住人は、みなこんな風に優しい時間を生きているのだろう。

 と、詩の内容には踏み込まずにここまでにしたい。ぜひとも詩の全部を味わっていただきたいから。


 そして、この詩に声をあてられた、こ林さん。

 rinchanさんの詩の一文字一文字に、こ林さんの「声」がとてもよく合うのだ。優しい、見守るように語る声や、純真無垢な少年の声。「声」に様々な色が宿る。

 人の声。ほんとうに奥が深い。

 声はその人の持つ唯一無二のものの一つだと思っている。持って生まれた天性のものだ。

 だから、こ林さんの声もまた、こ林さんにしか響かせることはできない。


 rinchanさんの詩を読んだあとに、こ林さんの朗読を聞いてほしい。

 化学反応が起こってできた、やさしさの形に触れることができると思う。


☆   ☆   ☆


 思えば、僕は「詩」というものにあまり触れずに生きてきた。

 恥を忍んで白状すると、これでも日本文学を4年間もの年月をかけて学んだ人間だ。それでも、「詩」に触れていないのは、僕の怠慢だと思っている。

 さらに白状すれば、僕は「文学研究」が嫌になった人間だ。

 「良いものは良い」

 素晴らしい文学作品、そして芸術作品に出会ったとき、まずは感動を覚える。それはきっと文学者も一緒だと思う。けれど研究者は、どうしてもその先に向かわなければならない。もうほとんどそれは性というか、業というべきか。感動の先に進まなければ、学者とは名乗れない。

 けれど僕は、「良いものは良い」の先には進めなかったのだ。

 情緒が壁になって、それより先には進めない。

 進もうともしない。

 僕らしいといえば、そうだろう。

 それで出会えた人や出来事もある。後悔はしていない。

 良いものは、やっぱり、良いのだ。


☆   ☆   ☆


 「詩」と聞いて唯一思い出す名作が、ひとつだけある。

 中原中也の『サーカス』だ。たしか、高校一年生だったろうか。教科書に載っていて、国語の授業で深掘りしたことを覚えている。

 以下は、青空文庫からの引用だ。

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『サーカス』

幾時代かがありまして
  茶色い戦争ありました

幾時代かがありまして
  冬は疾風吹きました

幾時代かがありまして
  今夜此処での一と殷盛(ひとさか)り
    今夜此処での一と殷盛り

サーカス小屋は高い梁
  そこに一つのブランコだ
見えるともないブランコだ

頭倒(さかさ)に手を垂れて
  汚れ木綿の屋蓋(やね)のもと
ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん

それの近くの白い灯が
  安値(やすい)リボンと息を吐き

観客様はみな鰯
  咽喉(のんど)が鳴ります牡蠣殻(かきがら)と
ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん


     屋外(やぐわい)は真ッ闇(くら) 闇の闇
     夜は劫々(こふこふ)と更けまする
     落下傘奴(らくかがさめ)のノスタルヂアと
     ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん

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 学生時代、僕は太宰治研究に勤しんだのだが、その太宰と中原中也は犬猿の仲だったそうだ。

 思うに、中原中也の言葉の選び方や語呂の合わせ方が、太宰も選びそうなところがある。

 ようは似ているもの同士だったのかもしれない。

 それが創作するうえでは邪魔になる。時もある。


【落下傘奴(らくかがさめ)のノスタルヂアと】


 この言葉の「音の響き」だけで、意味は分からなくとも、不思議と胸に迫るものがある。

 それは高校生の頃、この詩に出会ったときからずっと変わらない。

「落下傘奴のノスタルヂアと、ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん」

 声に出す。

 いっぺんに、昭和の、それこそ「茶色い」時代の、隙間風みたいな肌寒い気持ちが広がって、淋しくなる。

 けれど、嫌な気持ちではない。

 郷愁、みたいな。

 人恋しい。

 そんな気持ちに近い。


 良いものは、時代も、人も、超える。

 素直に、その「良いもの」を感じられる心や、ゆとりを持ち続けていたいと、心底、そう思う。



 

 









 



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蒼海宙人
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