【掌編小説】 『さくら』
母が心臓の病気になって手術を受けた。
父が僕たちの元からいなくなって十年、ずっと働き通しだった母。どんなに朝から晩まで働いていても「大丈夫」としか言わない、そんな母が何週間も病院のベッドに横になっている。
母が働くのはほとんど僕のためだ。地元で有名な進学校に何不自由なく通わせるため。二年後には大学にだって行けるようにさせるため。自分のことはいつだって二の次で、僕のことをとにかく母は優先させた。
『大学なんて行きたくない。先が見えない、自信がない。母さんのために何かしたい