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中国ダンス公演「永和9年」から学ぶ、書道の名作『蘭亭序』と歴史

先日上海で、中国の古典舞踊をテーマにしたダンス公演『永和9年』を観劇しました。
周辺知識皆無、歴史についてあまり詳しくなく、ただただ舞台が好きだからという理由で観に行くことにしたのですが、予想以上に美しく感銘を受けました。
また、調べていくと日本への影響もかなりあり面白かったので、少しまとめてみました。
このnoteでは、少し難しいお話もあるかと思いますが、知っているようで知らない中国の歴史を少しお裾分けしますね!



舞台『永和9年』の概要


永和9年(西暦353年)(日本だと古墳時代…!)に「蘭亭序」という詩集が編纂されました。この詩の集いが舞台のテーマです。
ダンサーは、着物のような古代の衣装を身にまとい、古典音楽に合わせて踊り、詩や書道、音楽など、当時の上流階級の文化生活を象徴する要素を取り入れ、当時の風雅な生活を再現します。
舞台は、「蘭亭序」の誕生に至るまでの出来事や、詩会に参加した貴族たちの交流を描写しています。舞台を通じて、当時の詩文に対する情熱や、自然と一体となった生活への憧れが表現されます。

分かりやすくいうと、

  • 中国らしい音楽に合わせて

  • モダンバレエのような振付に、中国的なカンフーみたいな動きの要素を入れ

  • 着物の袖を大きく振って

  • 「書」「自然の美しさ」「人生の儚さ」「時の移ろい」を表す。

こんな舞台でした。一気に身近になりましたね。

この「蘭亭序」という作品、お恥ずかしながら全く知らなかったのですが、中国書道史において「天下の第一行書」と称されるほどの名作であり、中国の書道の最高峰だそうです。
(もしかしたら高校の世界史でやっているかもしれない。)

せっかくなので、「蘭亭序」と日本への影響について調べてみました。

『蘭亭序』とは?

中国の書道の最高峰「蘭亭序」

「蘭亭序」(らんていじょ)は、中国の東晋時代の書家であり詩人でもあった王羲之(おうぎし)によって書かれた書の作品です。「蘭亭序」が書かれたのは、永和9年(353年)の3月3日。この日、王羲之は仲間の文人たちとともに、会稽山(かいけいさん)近くの蘭亭という場所で「修禊(しゅうけい)」という行事を行いました。修禊とは、古代中国の風習で、水辺で体を清め、厄払いをする儀式のことです。この日に集まった41人の文人たちは、流觴曲水(りゅうしょうきょくすい)という宴を楽しみました。王羲之はこの宴の様子を序文としてまとめ、その序文を書にしためたのが「蘭亭序」です。

日本最古の歌集「万葉集」ですら753年。300年頃なんて、日本では古墳時代。稲作がようやく全国に広まった頃らしいです。そんな時に、中国では優雅に集まって歌を詠んでいたんですから、中国の歴史の凄さを感じます。


流觴曲水

流觴曲水とは、曲がりくねった小川に杯(さかずき)を浮かべ、詩を詠むという遊びです。杯が自分の前に流れ着くまでに詩を作らなければならず、詩が詠めなかった者は杯の酒を飲むというルールでした。

何千年経っても、人間やる事そんなに変わらないんですね。笑


影響と伝承

「蘭亭序」の内容は、春の日の美しい自然の風景を称え、集まった友人たちとの楽しいひと時を記録しつつ、人生の無常についても考察しています。具体的には、自然の美しさや人生の儚さ、時の移ろいについて述べられ、哲学的な深みがある文章となっています。

「蘭亭序」は、書道の世界において絶大な影響を持ち、多くの書家がこの作品を手本として模倣しました。現在、原本は失われており、残されたのは後世の模写や刻石です。しかし、それらもまた高い評価を受けており、今日まで伝えられています。

さて、「蘭亭序」の概要については以上です。
続いては、日本への影響です。実は日本の書道に平安時代から江戸時代、そして現在でも手本として使われているそうです!



『蘭亭序』が日本に与えた影響

手本としての重要性

日本の書道において「蘭亭序」は古くから非常に重要な手本とされてきました。平安時代には、貴族たちが「蘭亭序」を模倣し、その書風を学ぶことが一種の文化的教養とされていました。

江戸時代に入ると、寺子屋や藩校で書道教育が普及し、「蘭亭序」はその際の模範として広く用いられました。特に、幕末から明治時代にかけて、書道教育の一環として「蘭亭序」の臨書(模写)が推奨され、日本の教育の中でも大きな役割を果たしました。

ちなみに、現在でも書の教科書として、「蘭亭序」は学ばれているそうです。小学校から書道を習うのに、全然知りませんでした…。
(いや、もしかしたら書道の先生が教えてくださっていたかもしれませんが)
ここまで調べて、恥ずかしさを感じてきました。


文化への影響

「蘭亭序」に描かれた詩会の様子は、日本の文化にも深く影響を与えました。平安時代には、貴族たちが自然の中で詩を詠み、楽しむ文化が栄えました。これが後の連歌や和歌の会へと発展していくのです。
そして、「蘭亭序」に込められた人生の無常観や自然との一体感は、日本の美意識にも通じるところがあり、「もののあはれ」や「わび・さび」といった日本特有の感性にも影響を与えたと言われています。

話は少しそれますが、中国に住み始めて最初の頃に感じたのが、「あぁ、昔の日本は本当に中国の影響を受けていたんだな」ということです。
建物や使っているものが、色や形は微妙に違えど、なんか類似点を多く見つけるんですよね。
そういうものを見て「なつかしさ」は全く感じないのですが、中国の長い歴史の中で作り出されてきたものの偉大さと、その影響力について感じる機会がしばしばあります。


まとめ

舞台としての完成度が非常に高く、センスのいい演出で、大満足だったのですが、思わぬきっかけで中国の歴史について知れたのでとてもよい経験となりました。
「歴史を勉強しなきゃ」と思うとなかなか気合いが必要ですが、やはり好きな舞台を入口に学ぶととても面白いですね。

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