9.怪人エモーションの日常〜死んでから評価されるって言うけれど〜
怪人エモーションだ!
人間というのは、やはりよく分からない。
人間の生態を調べる実験は今日も続く。
“天才”はと呼ばれる人物は、どうやら死んでから評価されることが多いらしい。
画家、音楽家など、芸術家と呼ばれる種族は、だいたい死んだあとに評価されている。
時代の先を行っているからなのか。
凡人には理解が及ばないため、変人として扱われ、この世界から抹消されるのだ。
そもそも、凡人が天才を評価しようなど愚かで、無理難題ではないか。
科学者もきっと、変人扱いだ。
“こんな研究なんのためになるんだ”と、幾度馬鹿にされたことか。
何かのためにならなきゃいけないのか?
これはすべて、わたしのためだ!!
新たなる発見は、もっと評価されてもいいんじゃないのか。
まさか、自分の思考が、すべて正しいとでも思っているのか!?
人間は実に愚かな生き物である。
最後に「わたしが間違っていた」と謝罪させてみせるぞ!
わたしは歴史に刻まれたいわけじゃない。
生きている間に評価されたいんだ!!!
死んでからでは、自分の勇姿を自分で見て浸ることができないだろう。
そんなの一体誰が嬉しいんだ。なんの意味もない。
しかし、怪人は死なないのだ!死とは無縁だ!!
評価されるという面から考えると、分かりやすいのはお金だ。これに見事に人間は群がる。
人間は紙幣を使う。キャッシュレスが進むこの時代でも、いざとなると結局は現金だ。
あの紙切れに印刷される人物になりたいと思う者はいるだろうか?
紙幣は紙切れでありながら、どんな人間でも欲しがる代物だ。
怪人エモーションとしては、大変興味深い。
是非、紙幣に印刷されたいものだ。
そうすれば、すべての人間に崇めたてられることだろう。
東京タワーの上からばらまいて頂きたい。
しかし見たところ、紙幣には死んでからしかなれないのか?
あれは、生前本人に許可を取っているのか?
「おたく、一万円札じゃなくて、千円札になりますけどよろしいかしら?」って、尋ねているのか?
印刷されるなら、絶対に一万円札がいい!!!
わたしも“諭吉”と呼ばれたいものだ。
紙幣となって、人間の脳に“諭吉”のように刷り込むのだ。
しかし、そもそも怪人は死なないのだ。
では、絶対に紙幣にはなれないということか?
なんてことだ!!!
死と無縁であることが、裏目に出たのは初めてだ。
怪人もお金を支払うのか?キャッシュレスなのか?という質問は一切受け付けないぞ!
これも人間の生態を調べる実験のためだ。
命には、期限がある。
物語にも、最終回がある。
ラーメン屋『ことだま』にある、あのノートにも最後のページがある。
終わりがあるということは、とても残酷だ。
だが、それはまた、美しいことなのかもしれない。
どうやら人間は、魂が消滅したあとでも、生きていた頃の想い、願い、作品などは、この世に残るようだ。
きっと、刻まれたその“文字”も残るのだろう。
だから、死んでからこそ評価されるものもあるのだろうか。
死んでから評価する人間よ、天才とはなんなのか?
教えてくれ!地球という大きな水槽に飼われている愚かな人間よ。
評価する。評価される。
その感情に名前をつけたなら、それはなんと呼ぶのだろう。
わたしは、生きている間に評価されたいんだ!!!
今週金曜日は“文字だけの君”第十三夜
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