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井波律子『裏切り者の中国史』


「裏切り者」を中心にして、春秋時代から清初期に至る2500年間の中国王朝の興亡を描いた一冊。

一口に「裏切り者」といっても、その個性や動機も様々ですが、彼らの行動が王朝の屋台骨を揺るがし、次の時代が幕を開けるきっかけとなったのですから、彼らの歩みを知ることが、そのまま中国の歴史を知ることにつながるのです。
個人的には、名前だけは知っていたけれど、詳しい経歴までは把握していなかった人物のことを知ることができただけでも有意義な読書でした。

それにしても本書に登場する人物達の個性の強いこと。復讐に取り憑かれた者、長きにわたり品行方正を装い機会をうかがっていた者、愛する女性を取り返すために国を売った者など、どれをとっても優に本一冊分になる密度を持った面々ばかり。それをギュッと濃縮したこの本が面白くないわけがありません。

皮肉なのは中国内で極めつけの「裏切り者」扱いされ、忌み嫌われている秦檜の人生でしょう。南宋の宰相として、女真族との間に屈辱的な和平条約を締結したことによるのですが、結果的に彼の〈土下座外交〉により、南宋は異民族の蹂躙を免れ、文化が栄えたのです。他の「裏切り者」たちは国を滅ぼしているのに、国を守った秦檜の評価が最悪なのは歴史の皮肉というべきでしょうか。

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