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アンチ・サスティナブル ナチュラル・ワイン特集:第二章


無駄にしないこと。世界的なサスティナビリティの推進によって、限りある資源を無意味にする行為は、強く非難を浴びる対象となっている。飲食の世界においても、「フードロス問題」がキーワードとなり、数多くの先進的なレストランや食料品販売店で、対策が進んでいる。しかし、ワインにおける「無駄」はあまり議論されていないのでは無いだろうか。生活必需品である食料に比べて、嗜好品であるワインの「無駄」は、遥かに悪質と言えるのにも関わらずだ。

ワインにとって、無駄になる、とはどういう結果を意味するのだろうか?答えは、至ってシンプルである。飲まれることなく、ましてや料理酒としてすら使用されないまま、破棄されてしまうという結果のことを指す。

そしてここには、決して少なく無い数のナチュラル・ワインが抱える、極めて重大な問題が潜んでいるのだ。一般的にブショネが発生したワインは料理酒として使用される(ブショネの原因物質の一つであるTCAはポリエチレンと結合しやすい性質があるため、ラップ等に10分ほど浸してから、料理酒として使用することを勧める)が、抜栓後にネズミ臭が出てしまったワインは、サングリア等のカクテル材料としても、料理酒としても、使用することはできない。つまり、破棄という残酷な定めが待ち受けている。

ワインとは、その生産過程において、自然を切り開いて葡萄畑を開梱し、多くの場合は不必要であっても農薬を散布したり、灌漑を施したりしながら、葡萄畑を含む周囲の生態系を破壊する。そして、醸造所では大量の電気エネルギーが消費され、輸送では大量の二酸化炭素を排出する。

ワインのために費やされたそれらの貴重な資源は、ワインが破棄された瞬間に全てが無駄になる。

もう少し明確に書こう。

ネズミ臭を筆頭とする深刻な欠陥が発生したワインは、あらゆるワインの中でも、際立ってアンチサスティナブルで、アンチエコロジーな存在になり得るということだ。

ワイン造りの過程においても、同様のことが起こり得る。極端な放置型醸造を行った結果、酢酸が過剰に生成され、「ワインが酢になった」という出来事は、まるで勇敢な挑戦をした人の美談が如く語られることすらあるが、どう考えてもおかしな話だ。その醸造家は、己の未熟さと怠慢によって、貴重な資源をただただ無駄にしただけである。一度の失敗なら仕方ないかも知れないが、「学ばない人」は驚くほど多い。そして、彼らが学ばずに済むのは、その稚拙な結果をも盲目的に受け入れてしまう人が、少なからずいるからだ。歪なこだわりと受容の果てに待ち受けているものが、最悪のアンチ・サスティナブルになり得るものだと、一体どれだけの人が気付いているのだろうか。

サスティナビリティが重視される現代だからこそ、ワインの健全な醸造と流通を、破棄という最悪の結果への対策を、長年に渡って支えてきた重要な添加物である亜硫酸は、正しく再評価されるべきである。

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