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急須のお茶を850円で提供する理由。

こんにちは。名古屋で伊勢茶カフェの店長をしています、松本壮真です。

今日は、ウチのカフェが伊勢茶を850円で提供する理由を書きたいと思います。以前にも『値上げした理由』を書いたのですが、ババっと書いてしまったのでもう少し丁寧にお伝えしようと思いました。

ザックリ概要だけ書いておきます。
深緑茶房名古屋店は、2019年の6月末にメニューをリニューアルしました。それにあたって、「メニューの大幅な変更」「価格の変更」を行いました。売上の8割を占めていたパフェやラテなどをやめました。夏の目玉商品だったかき氷もやめました。そしてお茶に集中しました。「メニュー変更の理由」は以前の記事を参考にしてください。

今回は「価格変更」の事を書きたいと思います。
『値上げをした理由』大きく分けて理由は3つです
①良いものは適した値段で販売したい
②飲んでもらいたいお茶が他にもあった
③もっと名古屋に日本茶カフェが増えて欲しい

メニュー0302(炭酸無し)-1

右上に記載されている「850円の急須で楽しむお茶」は、もともとは480円でした。倍近くに上げたわけです。もちろん、『どうすれば850円になるか』はめちゃくちゃ考えました。茶器を変えて、しっかり説明するようにして、事前に茶葉を準備するのはやめて、細かく砕けた茶葉は取り除くようにして、より美味しく飲む方法を研究したり、と色々と変更しました。(この辺はまた別の機会に)。

話を戻して値上げした理由について以下に詳細書いていきます。

値上げするとかっていうと、どちらかというと叩かれる方向の話です。「金儲けを始めた」と。Twitterとかでも「金儲け」に関してはめちゃくちゃに叩かれる話題だと思います(『100日後に死ぬワニ』とか)。
そんな事は重々承知なので、本当なら値上げなんかしたくないんです。それでもなお、守るためには値上げをせざるを得なかったというのが正直なところです。それは利益率とかそういう話ではなく、会社を守るとか、つくる人を守るとか、そういう話です。
短期的な儲けだけを考えるだけなら、パフェやラテを売って、ラテのテイクアウトをしていた方がきっと儲かっていたと思います。

でも、お茶に集中して、そして値上げしました。

①良いものは適した値段で販売したい

深緑茶房はお茶を生産から販売まで行っています。そのため、僕は名古屋の店舗にいますが、お茶をつくっている人の顔がダイレクトに見えています。
松倉さん、仁田さん、高尾さん、西村さん、小倉さん……あとは短期でお仕事に来てくれる近所のおばさま。先日、お茶の時期なので茶工場と茶畑に行ってきました。その際にも普通に皆さんと喋ります。

何が言いたいかというと、よくある『生産者さん』みたいな他人行儀な話ではなく、僕にはダイレクトにお茶を作ってくれている人の顔が見えるし浮かぶので、その人たちの事を思うとお茶の品質に見合わない安い値段って付けづらいです。

過剰に高い金額を設定する必要もないし、そんな事をするリスクは取りたくないので、あくまで「適正価格」の範囲内の話です。『安売りは絶対にしない』という話です。

ちなみに……
以前の価格設定(480円)は「茶葉を買ってもらうための宣伝代わり」という位置づけだったためらしい。ただ、そうする事で「千寿は480円のお茶」という認識になってしまった。480円というと普通のカフェの珈琲と同じ価格。それらとはそもそも原価が全く違う…。そういったものと同列に並んでしまう事に強い危機感を覚えました。

②飲んでもらいたいお茶が別にあった

メニュー0302(炭酸無し)-1

メニュー表の左上、「650円の急須」メニューがあるかと思います。これは新しくメニューに加えたものです。今までは「“良いお茶”を飲んでもらいたい!」という思いから、千寿と深緑という高級なお茶だけをお出ししていました。ただ僕としてはそこに少し違和感がありました。高級茶がダメという話ではなく、「高級茶しか選択肢がないこと」に対してです。

いわゆる高級なお茶って「旨味が強いお茶」です。『出汁みたいな味がしますね』と言われることもあるのですが、これって好みが分かれます。味って大きく経験とかに依存するものなので、「旨味の強いお茶=良いお茶/高級なお茶」という認識のある人にはいいのですが、あまりお茶に触れない人にとってはなかなか馴染みにくかったりします。
※ヒノキや松茸に慣れていない人にとっては、あのニオイは「臭い」と感じるようです。このように、味や匂いって経験に大きく依存するんですね。

僕たちが来て欲しいお客さんの中には、「これからお茶を知りたい、楽しみたい」というお客さんが少なくありません。そう考えた時に、はたして千寿・深緑だけでいいのかな?と感じました。

もう少し飲みやすくて、一般的なお茶との違いもわかって、美味しいと感じるお茶、それが新しく加えた「650円の急須」でした。「旨味が強い方が美味しい」という押し付けをやめてみました。

ちなみに……
よくお茶屋さんで「煎茶」「上煎茶」「特上煎茶」みたいな売り方をしていて、違いを聞くと「特上煎茶の方が“良いお茶”です」と言われる事があります。僕は基本的に、お茶に優劣をつけるのがあまり好きではありません。それぞれに良さがあるからです。もちろんお茶によって価格は違います。でもこれは味の優劣ではなく、シンプルに希少性の話です。“良いお茶”は、「味が良いお茶」ではなく、単に「希少価値があるお茶」というのが僕の感覚です。珍しいものをありがたがるのも大事な感覚ですが、それとはまた別に「素直に味を感じてもらいたい」という思いがありました。

だからこそ、高級なお茶は高級なお茶として850円で提供し、それとは別に650円で新しくお茶を提供する事にしました。
※急須のお茶は、お湯の温度を変えて最低3煎以上お楽しみいただけます。

③もっと名古屋に日本茶カフェが増えて欲しい

最後は名古屋の日本茶市場に関するお話です。例えば深緑茶房が千寿のような高級茶を480円で提供していては、日本茶カフェの新規参入を阻害してしまいます。

東京で日本茶カフェが流行った(?)ように、名古屋でも日本茶カフェが話題になると思いました(現にリニューアル後しばらくしてから「日本茶流行りそうですねぇ」と日本茶としての取材を受ける事が増えました)。

日本茶カフェ市場が活発になるには、まず「ちゃんと稼げる(生活ができる)」形でないといけません。高級茶を480円ではおそらくカフェとしては利益率が悪く、厳しいかなと思います。よっぽどお茶好きならいいかもしれないですが、それなら珈琲のカフェをした方がいいと思います。

ちなみに、「480円」という価格設定自体が悪いわけではないと思います。安価なお茶を480円で提供するのは全然問題ないと思います。「高級茶を品質に見合っていない低価格480円で売る」というのが問題なわけです。
以前の価格設定であれば、こだわった日本茶カフェをしようと考える人が深緑茶房のカフェに来たら「このお茶を480円で出している所には出せない(大金を掛けてわざわざそのリスクは取れない)」という判断をすると思います。そしてこれはこだわったお茶を作る人ほどそう感じるはずです。

こうなってはいけないなと思いました。深緑茶房がお茶の値段を適正価格にする事で、お茶にこだわった日本茶カフェの参入を促したいという思いがありました。

最後に……

僕はお茶市場が活発になった方がいいと思っています。ライバルが増えたほうが楽しいからです。「それでも俺は勝てるんだ!!」という話ではなく、お茶好きな人が増えると嬉しいですし、一緒に盛り上げていきたいと思うからです。日本茶カフェの競合は日本茶カフェではありません。僕たちの競合は買い物後に立ち寄るファミレスだったり、「そもそも立ち寄らない」という選択肢だったり、さらにはディズニーだったりします。競合を考え始めるとキリがないと思います。

そもそも「お客さんを奪い合う」というのが、今の価値観には合っていない気がします。何かを煽って他人から奪うのではなく、みんなで共存できる方法を考えたいと思います。

今日はここまでにします。
ではまたあした

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