愛着の病と影(シャドー)の関係|個人的な影(もう1人の自分)と元型の影(邪悪)
今回の質問は質問箱にいただいたものではなく、スタンドFMのレターでいただいたものです。この質問には様々な要素が入っており、レター返しのときシドロモドロになってしまいました。質問を整理して、再度お答えしたいと思います。
※今回の記事はラジオでも視聴できます。テキストを見ながらどうぞ▼
※この記事は、Twitterの質問箱に来た質問を深掘りして回答したものです。
【お返事】質問者さんの質問を整理すると、おおよそ次の6つの質問になるでしょうか。主に「影」に関しての質問だと分かります。と、するとユングの影について、まず学んでいただきたいということですね。河合先生の参考図書を紹介しておきます。そのあと、愛着関係の視点から影を見て行きましょう。
■倫理規範はアイデンティティのことか?
おおむね倫理規範とアイデンティティは同一のものと考えられます。
倫理規範は、親の規範をコピーして学童期後期に完成します。しかし、それは親の規範であって自分の規範でないので、修正が必要なことに気が付きます。そして規範を壊す作業に入ります。それが思春期です。壊した後、いろいろな素材を使って自分なりの倫理規範を作り上げます。その素材としては、
A:ばらばらになった親の規範の中で、自分が取り込んでもいいと思うもの
B:ばらばらになった親の規範の中で、ゴミだと思うもの
C:自分らしさを象徴する新しい規範
上のAとCを使って、自分の倫理規範を作り上げます。これが成人期を生きる自分の核になります。自分の生き方そのものですので、アイデンティティと言ってもいいでしょう。Aもブレンドされているので、必然的に社会に適合したものになり、アイデンティティが社会化されます。
ここでBは、質問者さんのいう「アイデンティティを形成する際に切り捨てた人格要素」ですが、これは親の規範なので、自分のものではありません。ですからこれは影になりません。切り捨ててゴミ箱に捨てて、はい、終わりです。
■ユングの影とは?そして個性化とは?
ユングのいうところの影とは2種類あります(*)。
個人的な影:自分の中の認めたくない側面。個人的無意識の中に隠してきた部分。もう1人の自分。
元型としての影:元型とは、民族・人類に共通の集合的無意識で、繰り返し表出する心的構造である。いくつかの元型があり、影(シャドー)は「邪悪、あるいは地獄」につながるもの。
それが自分の中に吹きだしたら、命がけで戦わなければならない。その戦いの中で自分が死んで、再生が行われると初めて、影を自分の中に取り込めたことになる。人格的に成長する。
しかし、実際に命を落とす人もいる。グウィンのゲド戦記「影との戦い」は、元型としての影と戦う物語。(例えば、プーチンはいま、ロシア人の集合的無意識によって戦争を始めた。プーチンは自分の中の邪悪との戦いに敗れつつある。)
個性化とはこの2種類の影を自分の中に取り込んでいく作業です。影が問題になってくるのは、ユングは40歳以降と設定しています。しかし、ユングは精神年齢のことは考えていませんので、個性化や影の問題は、精神年齢に関係なく起こるものと考えてもいいでしょう。
通常のカウンセリングで取り扱う影については、「個人的な影」です。非常に稀ですが、「元型の影」に出会うことがあります。主に個人的な影で、中年期以降に始まります。元型の影も中年期以降に現れます。
元型の影はとにかく邪悪です。私もこれまでの臨床経験上、影らしきものを見たのは数人です。愛着の治療に来られた方の中には、この元型の影を見たことはありません。
*河合隼雄:影の現象学, 講談社学術文庫, 1987
■アイデンティティを形成する際に捨てたものは影になるのか?
上の解説しましたが、ここで「B:ばらばらになった親の規範の中で、ゴミだと思うもの」が「アイデンティティを形成する際に切り捨てた人格要素」ですが、これは親の規範なので、自分のものではありません。ですからこれは影になりません。
■愛着障害の影とは?
愛着障害の人は、捨ててきたものというよりも、欠損している大穴(愛着の欠損)がこころの中にぽっかりと開いています。これが影だと言えるでしょうか。
さきほど、元型はいろいろあるという話をしましたが、例えば、トリックスターといういたずらをして、人生を狂わす元型があります。私の記憶違いでなければ、高橋和巳先生のどこかの著作に、トリックスターが現れて回復を進めるような話があったように記憶しています。元型はそういう役目をするわけですが、私がカウンセリングをしているときには、このトリックスターの存在を感じることはありません。
そういう神(元型)の采配というよりも、安心感が満ちてきて臨界点を越えて、徐々に春がやってくるような、そういうドラマティックではない治り方をするように思います。まぁ、それがわたしの限界です笑。
■愛着不全、および安定型の影とは?
我慢して生きてきた人々ですので、捨ててきたものは多そうです。泣く泣く捨てたわけなので、自分の中に多くのものを統合していく必要があります。以前、自分の回復のためのドアをいくつもあける鍵が必要という話をしましたが、それと同じですね。
ちなみに、愛着に問題のない安定型の人でも、捨ててきた影はあります。それは、先に説明した自分の倫理規範に合わないものを捨ててきたわけです。例えば、「上司から〇〇をやれと命令された、それは自分の美学には合ってないけれど、家庭のために泣く泣くやってしまった。」それで適応障害やうつ病になることもあります。
社会を生きていれば、多くの影はあるのですね。
■双子のカメレオンのお互いの影とは?
カメレオンを「同じ影をもつ同志」と定義しています。以前は、同じ「影」でしたが、現在は少し拡大して、同じ「影を持つ」というふうに思っています。どんな影を持つかは重要ではなく、影を持つ、ということが重要であるということです。
それですから、愛着障害と愛着不全の人でも、影を持っていて、それを認識していれば、双子のカメレオンになれるのです。実際、そのようなケースに出会っています。
■まとめ
倫理規範はアイデンティティと考えられる
個人的な影と元型の影は違う。前者はもう1人の自分で統合すべきもの、後者は邪悪なもので戦うべきもの。カウンセリングでは、個人的な影を扱う。
元型の悪は臨床場面ではほぼ出会わない。
愛着障害の影は愛着の欠損。
愛着不全の影はガマン。
影を持って、それを認識していれば、双子のカメレオンになれる。
◇ラジオのおやすみカフェ:戦争や殺戮と元型(影)
WISC/WAISの読み方:知能検査の限界は数々ある。「知的障害は長期記憶の障害」は本当か?
■他の助けを求めるのもいいでしょう
もし、あなたがもう1人の自分の扱いに困っている場合は、臨床心理士などの心理の専門家にアドバイスを求めるとよいでしょう。時間はかかるかもしれませんが、あなたのカウンセリングがうまくいきますように。
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