人生の細部まで記憶する人々 - HSAM(超鮮明な体験記憶の持ち主)について
この記事は「シノブラジオ」の覚え書きです。本編が気になったら、下記のラジオのほうもお聴きください。
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臨床心理士・公認心理師の高間しのぶです。志木市のソレア心理カウンセリングセンターでカウンセラーとして働いています。今回はアメリカ心理学会からのニュースです。
■テーマ
人生の細部まで記憶する人々 - HSAM(超鮮明な体験記憶の持ち主)について
(HSAM:英語では、エイチ・サムと発音します。)
あなたは、1999年4月10日にどこにいたか覚えていますか?
その日は、何曜日でしたか?
天気はどうでしたか?
何を着ていましたか?
そして一日中何をしましたか?
これらの質問のどれも答えることができないでしょう。このような記憶を自伝的記憶といいます。
私たちのほとんどは自伝的記憶はぼやけています。過去にさかのぼるほどぼやけてきます。しかし、これらを鮮明に覚えている人がいるのです。HSAM (highly superior autobiographical memory)な人々です。
HSMA研究は15年前から始まったばかり
2005年、カリフォルニア大学アーバイン校の神経生物学センター Michael Yassa博士によって始まりました。HSAMの人は体験した記憶を、実を結ぶように数珠つなぎで、文脈をつなぎ合わせながら1つ1つを思い出していきます。
自閉圏の特徴の1つ、写真のように覚えている、というのとは違います。
では、HSAMが、事実や数字、非自伝的な知識など、一般の人と比べると平均以上の記憶力を持っているか?というと、そういうことは全くありません。この記憶力は体験したことに特化しています。だから知識を豊富に貯め込めるかというとそうではないのです。
HSAMは遺伝か?
HSAMの原因や遺伝的要素については複雑で研究途上です。双子を使って研究していますが、膨大なサンプルがあるわけではないので難しい。遺伝因なのか環境因なのか。HSAMは個人によって発症時期が異なりますが、遅くとも思春期には発症します。トラウマによって発症する場合も。
あるHSAMの被験者の母は過去のイベントをよく覚えていて、父は数字を覚えるのた得意でした。電話番号や社会保険番号などももれなく記憶していました。その素因を受け継いでいるものとも言えるでしょう。
HSAMと強迫性障害
HSAMは強迫性障害OCDと密接に関係しています。HSAMの人は、やらなきゃいけない気がして、不安も多く、物を買いだめする傾向があります。
これらの要素は診断できるレベル以下かもしれませんが、強迫的な傾向はあるといえます。
HSAMの人にOCDの投薬治療をするとHSAM部分が弱まり、自伝的記憶の想起能力が消え始めます。HSAMによってOCDの状態を悪化させて、高いレベルの不安が生じて強迫行動につながるおそれもあることが分かっています。HSAMは能力と言えますが、OCDとの関連では治すべき対象になり得ます。
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