短歌はポケットに入るし教えてくれる
雨降りの土曜日。読みおわった本を本棚に戻すとき、笹井宏之の短歌を思い出す。
そうだ。だから何度でも読みたい本しか本棚に置きたくないんだった。待たれている意識。私のことを待っているだれか。
……雨の日にだれかを待つのっていやだろうな。
また読むからねと思う。
喉を潤すためにコップに水を注ぐ。その瞬間にも笹井宏之の歌がやって来た。
実際に水を注ぎながらこの歌を口ずさむと、時系列がぐらりと揺らいで一瞬とまどう。無意識で行えるはずのわけもない日常の動作に、余計なノイズが入る。その感覚が楽しい。
こんなふうに、自分が暗誦できるとすら知らなかった短歌が意識の底から急に浮かび上がってくることがある。短歌は持ち歩けるから楽しい。短歌はポケットに入る。
ほぼ無意識下の動作や当たり前に存在するなにかが、短歌の力を借りて突然異質なところを見せつけてくることがある。
朝食にうどんを作ろう。ガスコンロのつまみをひねると、小気味いい音を立てて火がまるく点く。またひとつ、短歌がすいと浮かび上がってきた。
呼吸する色の不思議。でもガスコンロの火って、あんまり呼吸してないな。短くチリチリと燃えている。
短歌のなかにある、火の原始的なイメージと、色の本質である光、教えてくれる貴方。そんなものから英単語のenlightenを連想した。
enlightenを辞書で引いてみよう。
人に情報や理解を与えること。または、本当のことを人に説明すること。
それってときどきは、短歌かも。
雨の日は思考が上手くまとまらない。窓ガラスをつたう水滴みたいに、考えが流れてぶつかって大きくなってまた流れていく。
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読んでくださりありがとうございました📚🤍