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種採りと固定種野菜
はじめに
私たちが農園で作る野菜の多くを自家採種した種を蒔いて育てています。
一定の年数で種を更新することはありますが、その時も自家採種した種は残すようにしています。自家採種した種は貴重です。なぜなら、私たちの畑に合った性質を持ち合わせ、生き残ってくれた貴重な「命」だからです。
「種」を自分たちで生み出す
私たちが野菜の種を自家採種する大きな理由は、
・自分たちの畑に合う野菜を永続的に作っていくため
・自給自足を目指すとき、作物のスタート地点である「種」も自分たちで作る
これはその手段がとてもシンプルでごく当たり前のことだと気づいたからです。
そう、「気づいた」ということは「目の前になかった、または忘れてしまっていた」のです。今生きているこの時代、「当たり前」はとかく目の前から消えてしまいます。しかしそのことは私たちや子供たちが生きていくうえで根幹をなすものとも言えるのではないか?と私たちは考えています。
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種を選ぶ
農園をスタートする前、「作物を育てる」といえば「種苗メーカーや園芸専門店などで種を買い、その種を蒔き、農薬や肥料などを施して栽培し、収穫する」というイメージでした。
私たちの目指す栽培方法は「農薬と化学肥料は使わない」ということを最初に決めていたので、「農薬や肥料などを施す」という部分はすぐにカットしました。
園芸店やインターネットで大手種苗メーカーのHPを見て驚いたのは、例えば「大根」といっても当然のことながら様々な種類があり、さらに1品ごとに兼ね備えた特長がとても多くあったことです。これらはいわゆる交配種・F1種と区分される種です。
「形のそろいが良い」「病気に強い」「育てやすい」などなど、目移りするばかり。カタログなどは見るのも楽しいものです。
私たちは少量多品目栽培を目指していたので、この膨大な種類の種の中からありとあらゆる種を毎年買いそろえなければならないのかと思いました。現実的なことをいえば、けっこうな出費です…。
野菜を育てる第一歩として、実際にF1種の野菜を育ててみたりもしました。
しかしなんとなく釈然としません。
私たちはこのやり方でいいのだろうか...?
固定種野菜との出会い
そのようにして模索する中、ある種屋さんに辿り着きます。
「野口のタネ(野口種苗研究所)」です。https://noguchiseed.com/
「野口のタネ」で販売されている作物の種は全て固定種や在来種の種。知っている野菜もたくさんありましたが、これらを固定種野菜や在来種の野菜と分類することの意味を初めて知りました。
また恥をしのんでお話しすると、この出会いまで私たちは「生き物は種を生み出す」という、至極当たり前のことが頭からすっかり抜けていたのです。
野口のタネのオンラインショップを見始め、野菜の特性や栽培情報と併せて記載されているのが「採種方法」。
あれ?種を採種する?またHPには「ここで種を買ったら来年は買わないでください、野菜を育て、その野菜から種を採れますから(詳しい文言は違っているかもしれません、記憶があやふやです)」とも。
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気づきを得る
目からうろことはまさにこのこと。植物も人や動物と同じ生き物、そうだ、種を付けるじゃないか。でも野菜から直接種を採って本当に発芽するのか、育つのか?そこから改めて、肥料や農薬を使わずに野菜を育てることについて深掘りしていきました。
またその過程で、流通している野菜と私たちが理想とする安心・安全な野菜との違い、根本となる種の問題、新たな技術の進歩によって生み出される種と作物の問題など、さまざまなことを深く知ることにもなりました。
(今はこの問題について深く述べませんが、日々考察しながら自分たちでできることを実践していくのが第一歩だと思っています。このことはまた別のテーマでいつか書きたいと思います。)
私たちは野菜を作る、種を採る
私たちは自分たちが実践したいことを念頭に置き、野菜作りをどうやっていくかを考えました。そして、農薬や肥料を使わず、持続的に自分たちの力で本当に安心して食べることができる野菜(食糧)を作り続けるためには、種採りができる固定種野菜を栽培し、種を採り続けることから始めようというと決めました。
種を採り続けることは、その野菜を栽培し続けるということのほかにも特筆すべき素晴らしい点がいくつもあります。永続的にその野菜の栽培ができるのはもちろん、種は育った畑の土壌や気候、栽培方法などに合う性質に変わっていき、その性質は次世代の種に受け継がれていきます。
このことは、私たち人間やあらゆる動物、生きるもの全てに共通です。個体差はあるものの、人間は生まれた地に適合した性質を持ち合わせて生まれてきます。日本人特有の腸内細菌があるということもよく聞きますよね。他国で生まれた方もまた然り。受け継がれた性質や育つ環境で生き物の有り様が定まります。そのようにして長い歴史の中で繋がり続けてきたのです。
私たちも植物の種も、繋ぐ方法は違ってもあらゆる生き物と同じです。私たちは社会の流れに沿うばかりで当たり前のことが盲目になってしまっていたことに、初めて気づかされたのです。
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スタート地点定まる
このようにして私たちは固定種野菜と出会い、あらためてスタート地点に立つことができたのです。実践はまだまだこれからの段階でしたが、作物を育てることや食べるものに対する姿勢は大方ここで固まったのではないかと思っています。
千載一遇、固定種野菜との出会いは私たちの骨子のひとつとなりました。
参考とした文献のご紹介
自家採種と無肥料・無農薬栽培について知る初めの一歩として最適です。
「固定種野菜の種と育て方」 著者:野口 勲、関野幸生(創森社)