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【もしも運命の人と”縁”が無かったら…】パスト ライブズ 再会

作品紹介

あらすじ

ソウルに暮らす12歳の少女ノラと少年ヘソン。ふたりはお互いに恋心を抱いていたが、ノラの海外移住により離れ離れになってしまう。12年後24歳になり、ニューヨークとソウルでそれぞれの人生を歩んでいたふたりは、オンラインで再会を果たし、お互いを想いながらもすれ違ってしまう。そして12年後の36歳、ノラは作家のアーサーと結婚していた。ヘソンはそのことを知りながらも、ノラに会うためにニューヨークを訪れる。24年ぶりにやっとめぐり逢えたふたりの再会の7日間。ふたりが選ぶ、運命とはーー。

https://happinet-phantom.com/pastlives/

 飛ぶ鳥を落とす勢いのA24配給のほろ苦いラブストーリー。監督・脚本は本作が長編デビューとなるカナダ人監督セリーヌ・ソン。本人の実体験に基づくストーリーでとてもパーソナルな作品となっています。映画批評サイトRotten Tomatoでは95%と高い評価を得ている作品で、2024年度のアカデミー賞作品賞にもノミネートされています。
主演はNetflixシリーズ「ロシアン・ドール」でも印象的なグレタ・リー、ドイツ生まれの韓国人俳優ユ・テオ。

おすすめ度:4(5点満点)

こんな人におすすめ:ほろ苦いラブストーリー好きな人、前世や来世などの概念に興味がある人

————以下ネタバレ含む 鑑賞後用レビュー

イニョン

 本作品で重要なテーマになっているイニョンという言葉、これは日本語で言う因縁のことで仏教から来ている考えのようです。
 劇中ノラが夫となるアーサーに対し、「二人の人が結婚するには8000回の前世(Past lives)において、8000層のイニョンが必要なの」と説明します。韓国特有の考え方なのかわかりませんが、同じ国に生まれるには1000層のイニョン、1日同じことをするには2000層のイニョン…というように今世での関係性が濃いほど、たくさんの層のイニョンが前世から重ねられているという考えです。本作ではこのイニョンがほんの少し足りない二人の24年間が描かれています。個人的にはとても興味深い考え方で、もし8000層のイニョンの結果、結ばれた二人がいたとして、もしその二人が離婚してしまった場合、来世ではその重ねられたイニョンの層の上で、最後まで連れ添える夫婦となるのかなど色々と想像が膨らみました。

抑え込んでも消えない気持ち

12歳の時に韓国からカナダへの移住を経験しているノラは、なんとか環境の変化に適応しようとする中で、徐々に自分の感情に蓋をしていってしまいます。移住前は泣き虫の女の子でしたが、24歳で再会したヘソンとの会話では「移住後は泣いても誰も気にしてくれないから、泣くのをやめたわ」と悲しそうに話します。その中でヘソンへの想いも徐々に薄れ、12年後には名前もすぐには思い出せないくらい過去の人となっています。
 一方ヘソンはノラより自分の気持ちに素直で、12年間ノラを探します。12年後やっとオンライン上で再会し、交流を深める二人ですが、ここでもノラは、「私は2度も移住してニューヨークにいる。ここで何かを成し遂げたいからしばらく話すのをやめたい」とまたも自分の気持ちを抑えてしまいます。
 そこからまた12年が経ち、ノラは結婚もしていますが、やはりここでもヘソン側からニューヨークにいるノラを訪ね、ついに直接再会することになります。再会し1日過ごし後、帰宅した際に夫から「久々に会ってどうだった?」と聞かれた際も、「長い期間会っていなかったから恋しかったけど、好きとかいうのとは違うと思う」と言いますが、何だかまるで自分に言い聞かせているようです。
 この自分の気持ちを抑え込んだノラと、自分の気持ちに素直に動いたヘソンで、映画終盤の心境に違いが出ているように感じました。24年間ノラを思い続けたヘソンは「直接会ってわかったよ、君は去っていく人なんだ」と気持ちの踏ん切りがついていきますが、気持ちを抑えてきたノラの24年間抑えていた感情が湧き出てきてしまう最後のシーンはとても切なく、あの後、夫のアーサーとは通常通りの暮らしに戻れたのだろうかと心配になってしまいました。
 海外への移住や運命の人との別れなどはそうそうあることではないですが、多かれ少なかれ人生を過ごしていく中で、抑え込んだ感情、本心などはどの人にもあると思いますが、改めてそのような気持ちは消えるものではなく、何かのきっかけで湧き出てくるものなんだと感じます。

もしあの時ああしていたら…

20代の時にこの作品を見ていたら、「なぜ気持ちのままに動かないんだ」などと感じたかもしれませんが、ある程度歳を経ると「タイミングが合わないとこういう感じなんだよなぁ」と妙に納得しながら見ている自分がいました。
 私的にはもし二人がどこかの時点で全てを投げうって一緒になったとしても、バラ色のハッピーエンドにはならない気がします。ノラはノーベル賞やピューリツァー賞を夢見る野心家で、夢を捨てて韓国に戻っても不満を抱いていたと思いますし、ヘソンもノラが「あなたのような理想家には結婚は難しいかも」というくらい、理想が高い人で、中国で勉強するという夢などを諦めてニューヨークへ行ったとしても、やはりこちらも不満を抱えながらの人生になった気がします。やはりそういう意味でも今世でのイニョンはなかった二人なのだと感じます。

この映画が好きな人へおすすめしたい作品

本作品を観て思い出したのが、下記2作品でした。どちらもほろ苦いラブストーリーなので、本作が好きな人にはおすすめの作品です。

ブルーバレンタイン(原題:Blue Valentine)

今日、キミに会えたら(原題:Like Crazy)



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