休職四日目 見知らぬ悪魔より馴染みの悪魔
最近読んだ本の感想を簡単に。
・松閣オルタ著『オカルト・クロニクル 増補新装版』
旧版も読んだけれど、加筆修正されているため、この増補新装版もきちんと読んでみた。
ディアトロフ峠や井の頭公園バラバラ殺人事件など、様々な事件、事故、怪奇現象を大真面目に検証していて興味深かった。
オカルト的な事柄に対して「どーせ眉唾でしょ?」と懐疑的な姿勢はせず、かと言って盲目的に狂信するわけでもなく、中立な姿勢で検証していくので好感が持てる。
・河野啓著『デスゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』
エベレスト登頂中に命を落とした登山家、栗城史多氏の本当の姿に迫ったノンフィクション。栗城史多氏はトレーニングよりも講演会、資金集めに奔走、たまにトレーニングを行うも、「藤原紀香がやっていた」という方法、山頂への登頂も偽り、そもそも単独登山ではないし、無酸素と言いながら酸素を吸う、などなど、そんな状態でエベレストの難関ルートに向かうなどというのは自殺行為だと素人でも分かる。
ではなぜ、彼は凍傷で指を失ってまで難関ルートでのエベレスト登頂にこだわるのか。実力も伴わないのに。
彼を「不屈の努力家」と持て囃すSNSの連中も、そういう形で彼を売り出す広告塔も、更には、承認欲求を歪んだ形で満たそうする彼自身にも、虫唾が走った、というのが正直な感想。栗城史多氏が「登山家」ではなく、単なる「山に登る人」というのは、揶揄でも僻みでもなく、事実なんだな、と感じた。栗城史多氏に本気でエベレスト登頂を諦めるように忠告した人物が作中に何人か登場する。そういう人物がもっと彼のまわりにいれば、彼は命を落とさなかったかもしれない。無謀と勇気は全く別のものだ。
ちなみに、俺は登山はしないけれど、登山に関するノンフィクションはけっこう好き。本書も興味深く読んだけれど、例えば、沢木耕太郎の「凍」と比べると、公平性に疑問があるし、栗城氏が亡くなっていることも踏まえて、もっと関係者の証言を掘り下げてほしかった。もちろん、筆者が必死に公平性を保って書こうとしていることは伝わってくる。しかし、結局、死者に対するアイロニーに着地しているのが気になる。もっと栗城氏の愚かさを伝えてほしいし、その愚かさの根っこに迫ってほしかった。当然、その愚かさに乗っかったメディアや大衆への批判も。
・豊田正義著『消された一家 北九州・連続監禁殺人事件』
様々な映画や小説の元ネタ(ヤミ金ウシジマとか、黒沢清のクリーピーとか)になった実際の連続監禁殺人事件に迫ったノンフィクション。内容が悲惨すぎて「面白かった」とは言いにくいけれど、非常に興味深かった。
二十年間も虐待をされ続けて殺人に手を染めた女がようやく自分を取り戻し、証言していく様子や、最後の手紙には思わず落涙してしまった。著者の「極限状態に置かれた人間は逃げるという思考を失う」、「裁判で何故それがきちんと検証されないのか」、という思いが伝わってきた。家族同士で殺し合いをさせ、幼い子どもにも死体の解体を手伝わせるという異常な事件なのだから、もっと事件の深層に迫るべきなのは間違いない。うちの息子が被害者の一人の女の子と年齢が近いので、色々と考えてしまった。息子が俺や妻に電気ショックを与えたり、俺や妻を殺したり、その死体を解体したり、最終的には息子自身が死ぬ事を選ぶ、なんて考えられない。それだけ異常な状況だったのだろう。何より恐ろしいのは、どんなフィクションよりも残酷な事件が現実に起きているということ。本当に必読の一冊。
・石井光太著『43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層』
親父やテレビのニュースで大きく取り上げられた事件の深層に迫ったノンフィクション。
俺は子どもが殺されたり、怪我をしたり、何かしら酷い目に遭ったりした事件に関してはリベラルな思想を全く持ち合わせていない。加害者は被害者が受けたものと同等、あるいは、それ以上の苦しみを与えて死ねばいいと思っている。
・佐々木チワワ著『「ぴえん」という病 SNS世代の消費と承認』
新宿歌舞伎町を巡る若者文化に迫ったルポ。
俺の10歳の息子は何かにつけて「くさ」とか「ガチ」など口にするようになり、便利な言葉っていつどの世代にも存在するもんだよな、と思った。俺たちの世代だと、「ビミョー」とかになるのかしら?
・真魚八重子著『心の壊し方日記』
家族の死、その家族の残した借金、母親の認知症、SNS炎上、自殺未遂など、映画ライターの体験を赤裸々に綴ったエッセイ集。
面白かったけれど、あまり心に響かなかった。おそらく、俺がその辺の映画ライターや映画秘宝などの媒体に対してあまり良い印象を持っていないからだと思う。
ひとまず、こんな感じ。
今日の一枚
「Better the devil you know than the one (devil) you don't know.」ってどっかの国のことわざ。訳すと、「見知らぬ悪魔より馴染みの悪魔」みたいな感じらしい。2つの選択肢のうちどちらにするか迷ったときは、好ましくなくてもよく知っているほうを選んだほうがいい。知らないほうはもっとひどいかもしれないから、と。
イラストは、セーラー服を着た小悪魔、みたいな感じにしたかったけれど、うまくいかなかった。
globeを聴きながら描いた。冬が来るなぁ。
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