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営業をしていると出会う「ニセチャンピオン」に要注意

全5回でエンタープライズセールスのノウハウを解説しています。今回は僕の経験上から考える、ちょっとした注意点について。

これまでの記事はマガジンをご覧ください。

前回、チャンピオンとエコノミックバイヤーと呼ばれるキーパーソンとつながりを持つために、最初は手紙やDMを出すところからアクションをはじめようという話をしました。

で、その手紙の内容ですが、これも流行りがあります。

手紙の中に書いてはいけないこと

「Why You Why Now」という言葉を聞いたことはありますか。

Why You Why Now、つまり、「なぜあなたに、なぜ今連絡したのか」ということです。

チャンピオンに手紙や電話で連絡をするときには、why you why nowをちゃんと端的にちゃんと伝えるのがセオリーです。

できればそこで同業他社さんの実績も、さりげなく伝えてお送りすると興味を持ってもらいやすいですね。

ただ、これが実はポイントなんですけど、その手紙の段階では競合の名前を明確に書かない方がいいです。B社とかM社とかA社とかぼかして書いておきましょう。その業界に通じてる人ならわかるので大丈夫です。

逆にそこで会社名をバーンって出しちゃうと、「そうか。これ、自分もやられるのかな」って思われるんです。この会社と取引をすると、他社への営業の材料にされるのか…。不信感が生まれてしまいます。

だからエンタープライズセールスのときには、そこははっきりと書かないのが良いと思います。そこはちゃんと配慮して、「詳細はNDAに則ってお話します」としておくのがいいでしょう。

という流れで、手紙&電話でアプローチしても面談してもらえるのは7%から10%くらい。50件送っても仮に7%だとしたら3件なんですよね。その低い確率でなんとか会える人と接点を持ち、開拓していくのが、エンタープライズセールス。けっこう泥臭いんです。

従来型の営業に長く携わってきた人は、まずはそのギャップを埋めなければいけません。

そもそも違う競技をやっている

やっぱり難しいのが、前も触れましたけど、THE MODEL型の営業プロセスにどっぷりと浸かっている人。

中小企業相手だと池の中に網を張って、ガサッと魚を捕まえて、その中から絞り込んでいきますが、エンタープライズセールスは最初から一本釣りです。狙った魚は1匹も逃してはいけない、絶対に糸を切られてはいけないんです。

難易度が全然違いますよね。どっちが優れてる、優れてないという話ではなく、そもそも違う競技をやっているんです。

だからエンタープライズセールスの人はよく相手の会社を訪問するんです。ちょっと何かあるとすぐに出かけて行きます。一件一件の商談がすごく大切ですから。

いわゆるSMBとの商談だったらZoomで終わらせるところを、一件の商談の価値が全然違うので出かけていく。情報収集の段階だけど、「そんな遠くまで行くの?」みたいなケースもあります。青森に行きますとか、北海道に行きますとか、全然あります。

エンタープライズセールスの場合、商談の時に、相手側から5人〜10人出てくることがけっこうあります。そんなときにZoomだと場をコントロールしづらい。話してる時に誰がどういう表情をしてるのかとか、相手の力関係とか、読み取りづらいですよね。

相手の会社に行って、雰囲気を知って、実際に顔を見ると、得られる情報量が違います。

直接訪問して顔を見ながら話すと、商談自体も進めやすかったりします。Zoomで商談した場合、画面に資料を投影すると一人ひとりの顔はだいぶ小さく表示されますから、表情や心の機微まではわかりません。

あと、これは意外な落とし穴ですが、大企業だとマイクロソフトのTeamsを使っていることが多く、いまだに社員がその操作に全然慣れていなかったりします。

ありがちなのが会議がはじまったら音声がハウってしまうやつ。参加してる人が同じ部屋にいてマイクをミュートにしてないから。それで10分ぐらい経ってしまったりします。

Teamsって微妙に使いづらいんですよね。営業でも苦手にしている人は多いです。まあTeamsだけが…ってわけではないんですけど、画面共有の権限であったりとか、ちょっとしたトラブルはたいてい出てくるので、結局、現地に行った方がスムーズです。

チャンピオンの特定と、新たな存在

さて、何度も言っているように、商談したらまず最初にチャンピオンの特定です。大企業の場合、商談に1名で出てくるケースはあまりなく、割と大人数で出てくることが多いと思います。

そこで営業が考えることはとにかく、「誰がチャンピオンか?」です。もしいればエコノミックバイヤーも特定したいところです。5〜6人出てきた中から、誰がチャンピオンか、エコノミックバイヤーか、じっくりと観察します。

大企業だと会社全体の組織図は調べればだいたいわかります。事業部まではわかるでしょう。でもそこから下の組織図はなかなか出てこないので、客先で話を聞きながら組織図を埋めていきます。

僕が以前、スマートニュースにいた時に、外資系CRMの企業から営業を受けました。僕がいたときはスマートニュースがちょうどユニコーン認定された後で、相手の営業としてはどんどんアップセルしていきたい意思があるわけです。

その営業の方は僕と話しながら、ホワイトボードに組織図をどんどん書いていきました。この部署にはどういう役割の人がいるのか、僕が話したことをすべて目の前で図解していきました。

たぶん僕がチャンピオンとして扱われていたんだと思います。この人に聞けばいろいろわかる。良い提案をすればその上にいるエコノミックバイヤーにあげてくれるだろう、ということですね。

ここで、エンタープライズセールスのおもしろいところなんですが、登場人物はまだまだいるんです。チャンピオンとエコノミックバイヤーは説明したとおりですが、実は同じくらい大事な存在が「ニセチャンピオン」です。

ニセ者がいるんですよ。チャンピオンのフリをしている人です。

ニセチャンピオンに捕まらないために

ニセチャンピオンは定義するなら、一見するとチャンピオンに見える振る舞いをするけれど、実はたいして影響力がない人です。

僕がクライアント企業の営業をトレーニングしているとよく出てきます。経験のない営業はニセチャンピオンに捕まりがちなんです。

ではこれをどうやって見分けるか。傾向としてはいくつかあります。

たとえば、ニセチャンピオンはちゃんとした役職についていることが多いです。そしてニセチャンピオンと話すと、商談が異様にトントン拍子で進みます。「そんなに進むの?」と思うくらいスムーズです。すごく前のめりで、ノリもいいし、いろいろ話してくれるし、しかも「自分で導入を決められる」って言うんです。

ちょっと怪しいですよね。

要はね、お調子者なんです。だいたいがいい人です。

僕は直近だと4月にニセチャンピオンを見かけました。ゴールデンウィーク前に、支援先の会社の営業が、「ここはもう決められます」と言うわけです。できればゴールデンウィーク前に気持ちよく決めたいから、数ヶ月かけて商談していたようです。

で、そのニセチャンピオンとのオンライン商談の動画を見せてもらったところ、すぐに「この人、調子よすぎだな」と思いました。しかも自分で決められるって言っていました。怪しい兆候です。

それで4月末のゴールデンウィーク前の最終営業日に、契約書のクラウドサインと特別条件も出して持っていきました。ここで決めてもらうっていうところまできたら、案の定、「現場に反対されちゃって一旦白紙になった」みたいなことを言われて…。典型的なニセチャンピオンでした。

ちょっとイメージはつきますかね。なんとなく役職が上がって、そこから出世しない年配の方。人はいいし、話は盛り上がるんですけど最後にひっくり返ることになるので要注意です。

そういう方の傾向としては、大企業のグループ会社とか子会社に出向してるケースもあります。例えば50代ぐらいで出向すると、子会社では役職がつくんです。部長とかの役職はあるので、余計チャンピオンに見えやすい。

本当はただのお飾りなのに、本人としてはプライドもあって、ついついチャンピオンの動きをしてしまう。

営業もつい自分に都合よく考えがちです。騙されるのもしかたないかもしれません。その人は決められるって言ってるし、いついつまでにやる、発注するって言ってるから、うまくいくだろうと社内でも報告してしまう。

エンタープライズセールスはわらにもすがるつもりで商談をしています。そこにニセチャンピオンが現れるとすがってしまう気持ちもわかります。

ただし、その傾向は見えているのでベテランの営業だとすぐ見抜けると思います。グループ間の異動、役職と年齢、会議での調子のいい応答、「自分で決められる」という言葉。このあたりで怪しいと判断できます。

そもそも、本当のチャンピオンはわりと寡黙で慎重なタイプが多いものです。冷静で、ベラベラと余計なことは話さない。

ニセチャンピオンを見抜くための秘訣は、多くのチャンピオンと触れ合っておくことかもしれません。


次回も営業手法や商談のやり方について書いていきます。

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